2008年9月24日 (水)

レゼンデバレー(最終章)- '80年代以降のバレー戦術変遷の「起承転結」

アメリカの3-1に終わった北京オリンピック男子決勝戦。巷の見方には「洗練された(=最先端の)ブラジルのバレーが、泥臭い(=従来どおりの)アメリカのバレーに屈した」的なものが多いが、私はそうは思わない。世界各国の中でも、ここ数年間ブラジルの戦術を最も忠実に追いかけていたのは他のどこの国でもなく、アメリカであったと言っていい。2006年のワールドリーグでの日本対アメリカの試合を見て書いた記事がこちら(その1その2)であり、既にこの時点でアメリカは、もちろんスタンリーが故障していた事情はあるにせよ、マッケンジーという比較的小型の選手をオポジットに配して、4人レセプションシステムを敷き、"脱スーパーエース"の道を歩んでいたし、スタンリーが復活した2007年のワールドカップでも、スタンリー自身は代えられる場面が目立っていた。ヒュー・マッカーチョン監督の「このチームにスーパースターは要らないんだ」という言葉を、まさに象徴する采配であった。以前からスパイクサーブの威力はもちろんのこと、スーパーエースとしての役割を立派に果たすだけの攻撃力は持ち合わせていたスタンリーだったが、早いテンポの攻撃をこなすことは出来なかったし、レセプションに参加することはなかった。しかし、北京の舞台で、スタンリーはアンドレのスパイクサーブの場面で、レセプションに参加した。攻撃面でも以前よりテンポは早くなった。一見するとさほど早くは見えないかもしれないが、ライト側からの攻撃に対してブラジルのブロック陣がデディケートでは間に合わなかったのだから、それは充分にファーストテンポだと言っていいだろう。そして、勝負のかかった第4セットで、そのスタンリーにほとんどトスを上げないトス回しを見ても、チームの方向性として十二分に"脱スーパーエース"を達成されていたと言えよう。さらには、グスタボにひけを取らないディグ及びセットアップを見せたセンターブロッカーのリーとミラー。アメリカの金メダルポイントは、スタンリーによるライトからのバックアタックによってもたらされたが、それはセッターのロイ・ボールがファーストタッチを行った場面でのトランジションで、ミラーがセットアップを行って産まれたものだった。確か、アテネオリンピックの決勝戦では、ブラジルの金メダルポイントは、グスタボのセットアップの連続から産まれた(はずだ)。2大会連続で、このようにセンターブロッカーのトランジションでのセットアップから金メダルポイントが生み出されるという「偶然」は、センターブロッカーの役割が、従来のアメリカ型"分業システム"における「ブロックの中心」から「ディグ及びトランジションでのセットアップの中心」に変わったことによる「必然」とも言えるかもしれない。

ブラジルの戦術を忠実に模倣する中で、これまでどこの国も真似ができなかった"ブラジル相手のデディケートブロック"。世界各国は王者ブラジルを相手にすると、常にライト側からのテンポの早い攻撃を意識せざるを得ず、結果的に後衛レフトのファーストテンポ・パイプ攻撃及び、前衛センターの速攻にやられる・・・以前から何度か書いてきたとおり、バレーにおける攻撃の従来のセオリーは「自チームのエースのレフト攻撃に対する相手チームのブロッカーのマークを、いかにセンターの速攻によって減らすか?」ということが鍵であったが、バンチ・リードブロックシステムの時代となり、セオリーはまるで逆になった。新たなセオリーは「両サイドの攻撃を意識させて、相手チームのブロッカーをスプレッドで構えさせて、マークが甘くなった中央からの速攻あるいはパイプ攻撃でいかに点数を稼ぐか?」である。その意味でブラジルは、相手チームのブロッカーをスプレッドで構えさせることに、試合が始まる前から既に成功していたわけだ。ところが、オリンピックでの決勝戦という大一番で、遂に王者ブラジルとブロック戦術面でも同じ土俵に立てたアメリカ。ブラジルのライト側からのテンポの早い攻撃に対しても、デディケートで対抗できるくらいに、レフトプレーヤーのプリディーとサーモンがブロックシステムの要の役割を果たせるようになった証だった。その現実が、レゼンデ監督をしても冷静さを失わせる結果になった。オポジットのアンドレを2セット目からムーリオに代え、さらに勝負を決する4セット目にはレフトのダンテをオポジットに配するという、一種の賭けとも思える判断をさせる結果となった。一方ヒュー・マッカーチョン監督は、いたって冷静だった。追い込まれた状況で、セッターのマルセロがどのようなトス回しをするかをあらかじめ想定した上で、2セット目に敢えてデディケートを敷いてブラジルのライト側の攻撃を「おびき寄せて」アンドレを潰しておいて、3セット目からは追い込まれたマルセロのセットアップ位置を見て、ブロックシステムの瞬時の切り替えを行って対応するという、前回の戦いでの勝ちパターンに持ち込んだ。4セット目には、レゼンデ監督の焦りが、ブラジルコート上の選手達にも如実に伝わっていた感があった、、、監督が必死にライト側の攻撃をアメリカに意識させようと、オポジットの選手を目まぐるしく代えても、追い込まれた選手達は結局ジバに頼らざるを得なくなった。一番大事な、北京オリンピックでの決勝の舞台で、追い込まれたブラジルの選手達は、肝心の場面で自分たちのバレースタイルの根幹であったはずの「左右対称性」を見失ってしまった・・・。一方のアメリカのコートには、冷静に相手ブロッカー陣を見たトス回しを行うロイ・ボールがいた。勝負のかかった第4セットで、この日大活躍だったスタンリーに、最後の最後の場面まで、一度もライト側にはトスを上げなかったロイ・ボール。マルセロがアメリカのブロック陣にトス回しを読み切られてしまったのと対照的に、ロイ・ボールのそのトス回しを、ブラジルは最後まで捉えきれなかった。常にアメリカが先に仕掛け、それに対応しようとするブラジルが後手後手に回る、そういう決勝戦だった。

常にアメリカが「先に仕掛ける」ことが出来た理由に、"データバレー"の進化があるように感じる。"データバレー"と言えば、過去の試合や当日の試合での相手チームの攻撃のパターンやブロックの戦略などを分析して、それに対する対抗策を練るというものであっただろうが、この決勝戦でのアメリカの戦い方を見ていると、さらに一歩進んで、あらかじめ自チームが相手に対して採る対抗策に対して、相手チームがどのように対抗してくるのかまでもをあらかじめ予想して、その通りに相手が対抗してきた際にまたどう対抗するのかまで考えておくというような、まるで将棋やチェスの世界のような次元に進化している気がする。(第9章)でスタートローテーションの戦術に絡めて書いたが、ゲーム展開中に、迅速にデータをフィードバックするベンチワークはもちろんのこと、さらに一歩進んで、あらかじめ相手の出方を予想しておいて、相手が仕掛けてきたのをすぐに察知してまた別の手を出す、、、その領域に"データバレー"は入ってきている気がする。そのためには、ベンチの指示を待っていたのでは遅く、コート上の選手一人一人が試合の各局面、ラリー中にでも相手の出方を見てすぐに対応できなければならないだろう。ブラジルのブロック陣を常に意識してトス回しを行ったボールに対し、ブラジルベンチの指示を受けてセットアップを修正したマルセロ。試合の局面局面で、ブロックシステムを柔軟に切り替えたアメリカに対し、試合開始から終了までデディケートを崩さなかったブラジル。"徹底したデディケートブロック"は、ブラジルの強さの象徴でもあったが、同じ土俵に並ばれたアメリカを相手にしては、やはり柔軟性が必要だったであろうと思う。

バレーボール発祥国でありながら東欧諸国よりも遅れを取っていたところに、'80年代に入って「2人レセプションシステム」に代表される"分業システム"・"データバレー"・"リードブロックシステム"といった、現代バレーの根幹とも言える戦術を編み出すことで(=「起」)、ロサンゼルス・ソウルとオリンピック2連覇の偉業を成し遂げたアメリカ。この現代バレーの根幹とも言える戦術が、ソウルオリンピックを境にして一気にヨーロッパ各国へと広がる中で、'90年代に入るとジャーニに代表されるような世界に名だたる"スーパーエース"の登場・"Data Volley"というソフトの完成・より洗練された"バンチ・リードブロックシステム"の完成を見て、イタリアの黄金時代(=「承」)が訪れた。2000年代に入ると、アメリカ型"分業システム"を進化させた"脱スーパーエース"・ファーストテンポ・パイプ攻撃を基軸とした"テンポの早い立体的3Dバレー"・"バンチ・リードブロックシステム"に代わる"徹底したデディケートブロック"による男子ならではの組織的ブロック戦術を、女子バレーならではトランジションの戦術と融合させるという、"レゼンデバレー"が大成(=「転」)。ブラジルの黄金時代が永遠に続くのかと思われた次の瞬間、そもそもの現代バレーの根幹とも言える戦術を編み出したアメリカ自身が、その"レゼンデバレー"の本質を忠実に模倣し、アメリカ型"分業システム"の究極の進化版としての「ブロックシステムの要となるレフトプレーヤー・トランジションでのディグ及びセットアップの要となるセンターブロッカー・常にテンポの早い攻撃に参加しつつ、時にレセプションも参加できるオポジットプレーヤー・5−2システムにおける、セカンドセッターの役割を果たすリベロプレーヤー・ブロックの穴にならないセッター」という最高レベルのバレースタイルを、北京オリンピックの舞台で我々バレーファンにまざまざと見せつけて(=「結」)くれた。ここに、アメリカによって始まった'80年代以降の現代バレーの戦術変遷が、再びアメリカによって「起承転結」が結ばれた形となったのは、何とも印象深い結末だった。

レゼンデバレーは、レゼンデ監督がブラジル女子ナショナルチームの監督に就任して以来、常に進化を続けていたが、残念ながら昨年のワールドカップから北京オリンピックまでの間には、進化は見られなかった。いや正確には、レゼンデバレーの集大成は、やはり2006年の世界バレーの決勝戦だったのだ。その後の(第7章)〜(第9章)はあくまで、(第8章)で奇しくも表現したとおりに「"リカルド抜きで"戦う術」としての「迂回路」であって、決してレゼンデ監督が望んで通った道ではなかったのではないかと思う。結果的に(第10章)で「死角」として書いた、マルセロとロイ・ボールのトス回しの違いが、北京オリンピックの決勝でも勝負の鍵を大きく握ることに繋がった。相手チームがデータバレーを駆使してどのような戦略に出るか? それを先読みして、相手チームの戦略の裏を如何にしてかくか? ブラジルベンチよりもアメリカベンチ及び、セッターのロイ・ボールが、明らかに勝っていたのだ。

グスタボも代表を退く意向とのことであり、もう2度と見ることはできないのかもしれないが、出来ることならやはり、2006年の世界バレーの時の(即ちリカルドのいる)ブラジルと北京オリンピックのアメリカの戦いを見てみたかったというのが本音だ。


p.s.: 皆様から頂いているたくさんのコメントに対し、レスがいつもながら遅れていることをここでお詫び申し上げます。もう少しお待ち下さいませ。

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2007年12月31日 (月)

レゼンデバレー(第10章)- 死角はないのか?

レゼンデバレーの締めくくりとして、このテーマを掲げてみたいと思う。もちろん、私のような一介のファンに「どうやったらブラジルに勝てるか?」などという大それた戦略など立てられるはずもない。ただ、今大会では実に久しぶりに、目の前で(正確には、テレビの前で)ブラジルが負ける瞬間を目にするという、ある意味「貴重な」体験をすることが出来た(昨年の世界バレーでもブラジルは1次予選でフランスに敗れているが、確かその試合はスカパーでも中継がなかった)わけなので、その「貴重な」ブラジルの負けゲームとなった、今大会のアメリカ戦を分析してみたいと思う。

(第9章)で書いたとおり、この試合でのアメリカのスタートローテーションの戦術は、レセプションからスタートするセットに対してサーブからスタートするセットでスタートローテーションを「1つ回し」て、常にスタンリーのサーブから始まるようにするという、「従来の」戦術であった。これは誰でも(どこの国でも)考えることであろうが、ブラジルのあの高速立体的3Dバレーを切り崩すためには、強烈なスパイクサーブを見舞うのが最も近道であり、世界でも屈指のスパイクサーブを打てるスタンリーのサーブが回ってくる機会を最大限にしたいというヒュー・マッカーチョン監督の意図は、実に単純明快であった。そしてそれは、第1セットから見事にハマった。(第8章)で書いたとおり、セット序盤こそブラジルペースで試合が進んだが、マルセロの両サイドへのトスが「低くて早い」トスになったのに乗じて、まずダンテを潰し、続いてアンドレを潰した。それで逆転に成功したアメリカは、セット終盤に追いつかれてジュースに持ち込まれたが、その緊迫の競り合いの中でヒュー・マッカーチョン監督の「狙い通り」26-26の場面でスタンリーのサーブが回ってきて、そして彼は見事に連続サービスエースを決めたのだった。

第2セット、ブラジルはスタートローテーションを変化させてきた。もちろん、スタンリーのサーブの場面でのサイドアウト率を上げるためだったのだろうが、結局スタート早々から前セット最後の余韻を引くかのように、アメリカが連続得点を稼いで主導権を握る。しかし、ブラジルも易々とは引き下がらない。第1セットで両サイドの高速平行をアメリカのブロック陣に悉く押さえ込まれたことからわかるように、アメリカのブロック陣が「スプレッド」となっているところで、マルセロは高速パイプを多用し始め、それでブラジルが流れを掴んでセット中盤で逆転、21-17とリードしてセット終盤を向かえる。ところが、この劣勢の場面でアメリカのブロック陣は、非常に柔軟なブロックシステムを敷き始める、、、ブラジルのレセプションが返る位置(=セッターがトスアップを行う位置)によって、ブロックシステムをその都度切り替え始めたのだ。恐らくはこの日のアメリカのアナリストのはじき出した「データ」からは、ブラジルのセッター・マルセロがアタックライン付近からセンターの速攻を使おうとしていないことが十分に伺えたと推測する。実際、ブラジルのレセプションが理想的な場所に上がるとサイドブロッカーはスプレッドに構え、センターブロッカーはコミットで速攻に跳ぶ。レセプションが乱れると、バンチで構えて高速パイプか両サイドの平行をマークする、、、それが24-23とブラジルのセットポイントの場面で、アンドレのライトからのバックアタックに3枚ブロックが完成してシャット・26-25の場面の同じくブラジルのセットポイントの場面で、ジバの高速レフト平行に2枚ブロックが完成してシャット・28-28の場面で、アンドレの高速レフト平行に2枚ブロックが完成してシャットする結果を生み、最後はレセプションがきちんと入った場面でのロドリゴの速攻に、リーがコミットで1枚でシャットして、2セット連続でジュースの死闘をものにする結果を生んだ。逆にブラジルは、アメリカのセッター・ボールがアタックライン付近からセンターの速攻を多用するために、そういったブロックシステムの「瞬時の」切り替えは出来ない戦いを強いられた。

第3セット、ブラジルはまたまたスタートローテーションを変化させる。一方のアメリカはスタンリーのサーブから始まるのは同様。2セット連取した勢いも重なり、アメリカのスパイクサーブはスタンリーのそれだけに限らず、ますます勢いが出始める。追い込まれたレゼンデ監督はたまらずアンドレを「スーパーエース」のアンデルソンに交代。レセプションが乱れて高速立体的3Dバレーを繰り出せない苦しい場面を、彼が何とか切って、セット中盤までは競る展開となるが、セット終盤にはダンテもジバも高速パイプに切り込んで行けないほどにレセプションを崩され、ダンテもムーリオと交代させられる。その代わったムーリオも崩され、それで勝負あり。最後は、ブラジルとは思えないようなミスの連続で自滅。ブラジルの選手達も人の子だったんだと再確認(苦笑)。

やはり、勝敗を分けたのは第2セット終盤の攻防だったと思う。(第9章)で書いたとおり、試合中・各セット中に如何に「迅速に」アナリストが監督にデータをフィードバックできるか? そして、それを試合中・各セット中に如何に「的確に」監督が各選手に伝えることができるか?、、、この日に限っては、この点が明らかにアメリカに軍配が上がったと言える。さらには、その背景となったのが、アタックライン付近からセンターの速攻を使う能力、、、これもアメリカのセッター・ボールの方が上だった。アタックライン付近から高速立体的3Dバレーを繰り出すのがレゼンデバレーの中核となる戦術だが、このアメリカ戦を見る限りは、センターの速攻にトスアップする能力にリカルドとマルセロの差を見た気がする。今後ひょっとすると、「アタックライン付近から如何にセンターの速攻を使えるか?」が世界のトップレベルの男子バレー界にあっての大きな鍵になってくるかもしれない。この点を来年のオリンピックに向けて、注目してみていきたいと思う(rioさんの『ベリーロールな日々』でも、この点は盛んに取り上げられていた。)


さぁ、これで晴れて年明けからは頭を切り換えて、V・プレミアモードへ突入できる・・・と思ったら、天皇杯・皇后杯があるのね、、、なんて中途半端な時期に作ったんだろう(苦笑)。

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2007年12月28日 (金)

レゼンデバレー(第9章)- 続・スタートローテーションのトレンド

世界バレーで「宿題にする」と公言しながら、(第6章)でまとめきれずに終わった「現在の男子バレーの戦術のトレンド」としてのスタートローテーション。今回のワールドカップまで見終わって、ようやく見えてきたことがある。

これまで何度も書いてきたとおり、スタートローテーションに関する戦術としては、自チームがレセプションからスタートするセットとサーブからスタートするセットで、スタートローテーションを変えない戦術と1つ回す戦術がある。前者を採る場合には、自チームがレセプションからスタートするセットとサーブからスタートするセットで、自チームのサーブ順が変わる(レセプションからスタートするセットでは、スタートローテーションで前衛ライトに位置する選手が最初のサーバーとなり、サーブからスタートするセットでは、スタートローテーションで後衛ライトに位置する選手が最初のサーバーとなる)。一方レセプションに関しては、どちらのセットでも常に、スタートローテーションでのレセプションフォーメーションから始まることになるので、この戦術を採るメリットは、スタートローテーションの1つ前のローテーションでのレセプションの機会を最小限にできるという点が挙げられ、従って、6つある各ローテーションの中で極端にサイドアウト率が低いローテーションがあるチームに適した戦術と言える。(第6章)で書いたとおり、昨年のワールドリーグ頃までのブラジルは、この戦術を採用してオポジットのアンドレが前衛レフトに位置するレセプションフォーメーションが常に最後に回ってくるようにしているケースが目立った。一方、後者を採る場合には、常にスタートローテーションで前衛ライトに位置する選手が最初のサーバーとなり、自チームに群を抜いて強力なサーバーがいる、即ち、6つある各ローテーションの中で極端にブレイク率が高いローテーションがあるチームに適した戦術と言える。今大会でブラジルから唯一勝ち星を奪ったアメリカは、ブラジル戦に限ってファーストサーバーが常にスタンリーとなるような戦術を採り、それによってブラジルの頑丈なレセプションを崩すことに見事に成功した。また後者は「相手チームがスタートローテーションを変えない」という前提において、常に同じサーバーが相手の同じレセプションフォーメーションと相対することが可能となるため、ブロックシステムの戦略などで相手チームとのマッチアップを重視する場合に有利となる戦術でもある。もちろん、相手チームのスタートローテーションを想定した上での戦術と言え、これについては東レアローズ男子の小林敦コーチのブログ『排球参謀』記事の中でも取り上げられている。


相手のスタートローテーションを知った上で、自チームのスタートローテーションを決める事が出来れば良いのですが、メンバー表提出のタイミングなどを考えると不可能に近いと思います。

ですから、基本的には相手のスタートローテションを予測して、そのスタートローテーションに対応した自チームのスタートローテションを決める事になります。
結論としては「監督の駆け引き」にかかるという事です。

相手のデータが揃った段階では、この予測が当たるケースも増えますが、基本的には5/6でハズれるわけですから、あまりにもスタートローテーションに依存した戦術を組み立てる事は危険を伴います。

そのような理由から、
相手に対応したスタートローテションを組むチームより、自チームの強みを最大限に活かそうとするスタートローテションを組むチームが多いような気がします。


現在のV・プレミアリーグにあっては(特に女子で顕著だが)、(第6章)で書いた従来の「常識」である、オポジットの選手が前衛レフト(=セッターが後衛ライト)のローテーションからスタートするチームがほとんどである。『自チームの強みを最大限に活かす』とは、裏を返せば「自チームの弱点を最小限にする」という意味でもあり、即ち現在のV・プレミアリーグにあっては、セッターが前衛であるローテーションでのサイドアウト率が極端に低いということを各チームが暗に認めてしまっているわけである。従って、V・プレミアリーグにあっては、相手チームのスタートローテーションを予測することは(特に女子では)実際には比較的容易なはずだ。

一方、世界のトップレベルの男子バレー界にあっては、(第6章)で書いたとおり従来の「常識」のスタートローテーションは見られなくなっている。その理由も(第6章)で書いたとおりだが、そうなると確かに『相手のスタートローテーションを知った上で』ということにはならないので、『自チームの強みを最大限に活かし』て、常に自チームのサイドアウト率が強いローテーションからスタートする、あるいは、常に自チームのブレイク率が強いローテーションでのサーバーがファーストサーバーとなるようにスタートローテーションを「1つ回す」ということになりそうだが、今大会を見ていると実際にはそうはなっていないのだ。例えば、今大会でのブラジルは、試合毎にスタートローテーションを大きく変えており、さらに1試合の中でも各セット毎に「不規則に」スタートローテーションを変えていた。そこには「レセプションからスタートするセットに対して、サーブからスタートするセットでローテーションを1つ回す」といった「規則性」すらも存在しなかった。さらに言えば、他の強豪国、、、ブルガリアやアメリカも同様だった(今大会のアメリカが従来の「後者」の戦術を採用していたのは、ブラジル戦に限っての話だ)。

ここで思い出すのが、今大会で見事に優勝を飾った女子イタリアチームのバルボリーニ監督の採ったスタートローテーションの戦術だ。ブラジル戦で書いたように、彼は従来のスタートローテーションに関する戦術では説明ができない、「不規則な」変化をみせた。その時点では私にはよく理解できなかったが、要するに彼が採ったスタートローテーションの戦術こそが、現在の世界の男子バレー界でトレンドとなりつつある戦術なのかもしれないのだ。この戦術を理解するためには、恐らくデータも取らずにただ漠然と試合のビデオを一介のファンが眺めているだけでは不可能であろう。恐らくは試合中にリアルタイムに、アナリストが前セットでの自チーム及び相手チームのスタートローテーションから、全てのマッチアップを割り出してそこにその日の各選手の調子やトスの配分などのデータが加えられ、それが監督にフィードバックされているのだろうと推測する。あるいは、相手チームのアナリストにデータを割り出されないように、攪乱する意味合いでスタートローテーションを変化させるのかもしれない。

ということは即ち、現在のトップレベルの男子バレー界にあっては、試合中・各セット中に如何に「迅速に」アナリストが監督にデータをフィードバックできるか? そして、それを試合中・各セット中に如何に「的確に」監督が各選手に伝えることができるか? それが勝負の大きな鍵を握っていると言えるはずだ。やはりアナリストの高い能力、及びレゼンデ監督の試合中の的確な判断能力が、現在のブラジル男子ナショナルチームの黄金時代を支えていると言って過言でないであろう。

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2007年12月24日 (月)

レゼンデバレー(第8章)- リカルド抜きで戦う術

(第5章)で私は、ブラジルの現在の高速立体的3Dバレーになくてはならないのがセッターのリカルドのセットアップ能力であると書いた。彼がアタックライン付近から両サイド及びパイプへ寸分狂いなく「高くて早い」トスを上げる能力を持っていることこそが、ここ最近のブラジルの黄金時代を支えている最大の要因であると恐らく誰もが思っていただろう。その意味で、今大会リカルドが来日しなかったことが、ブラジルのバレーにとってどう影響するのか? バレーファン誰もが注目していたと思う。

その注目の中、開幕した今大会初戦でアメリカと対戦したブラジル。第1セット中盤まではアメリカに付け入る隙を全くみせなかったが、セット中盤に今大会での正セッターを務めたマルセロの両サイドへのトスが、悉く「低くて早い」トスとなったところを、アメリカのブロック陣にまともに捕まえられた、、、まずダンテが潰され、続いてアンドレが潰された。これがアメリカに付け入る隙を与える契機となってしまった。

結局ストレートで敗戦を喫したブラジルを見て、やはりリカルドがいなければ、ブラジルの高速立体的3Dバレーの質は低下してしまうのか? と感じた私だったが、この時点で私は、レゼンデ監督が今大会(第7章)で書いた「新ツーセッターシステム」とも言える「5−2システム」を採ろうとしていることにまだ気がついていなかった。そう、恐らくレゼンデ監督は、リカルドが最も資質を備えたセッターであることをよくよく理解していながら、必ずしも彼がいなくても現在のブラジルのバレースタイルが維持できる方法を模索していたのだ。コートの中9m×9mすべてを1人のセッターがカバーするのではなく、アタックラインよりネットよりの限られた範囲をマルセロに任せ、アタックラインよりエンドラインよりの範囲についてはリベロのセルジオとマルセロの2人でカバーする・・・もちろん、リベロのセルジオの高い身体能力があるからこそと言えるわけだが、レゼンデ監督は遂に、リカルドという "唯一無二の" セッター抜きでも(100%ではなくとも)ある程度の質の高速立体的3Dバレーを繰り出せるという戦術を編み出したと言えるだろう。それが、今大会での2連覇達成という形で結実した。特に、2戦目以降はブルガリアやロシアといったライバルの強豪国を全く寄せ付けない戦いぶりだった。コート中央付近から高速立体的3Dバレーを繰り出すという極めて高度な戦術も、コート内に「ある程度」高い能力を備えたセッターが2人いれば容易になる。逆にセッターが2人いるからこそ、理想的なレセプション・ディグの目標点は必ずしもネット際の狭い範囲ではなく、コート中央付近で構わない。コート中央付近にレセプション・ディグを上げれば十分であるから、各レシーバーの精神的負担は軽くなり、レセプション・ディグ直後の攻撃参加も容易となる。そうすれば、レセプションの場面であれトランジションの場面であれ、確率高く「常にアタッカー4枚での」高速立体的3Dバレーを展開できる。高速立体的3Dバレーを展開できないような苦しい場面では、前衛セッターが無理にコート中央付近まで走り込んでランニングセットを上げることはせずに、後衛にいるリベロがトスアップを行う。それで自チームの攻撃が決まらなくとも、直後の相手チームのトランジションでの攻撃に備えて前衛セッターにブロックに集中させることで、ブロックシャットあるいはワンタッチを確率高く取って、そして次のトランジションで高速立体的3Dバレーを繰り出せば良い。そうすれば、苦しい場面で相手の3枚ブロックをぶち破るスーパーエースは必要なくなるし、各アタッカーも「自分がここで決めなければ・・・」という精神的プレッシャーも軽くなる・・・これらは全て好循環に繋がるのだ。

自動車はハンドル操作に「あそび」をもたせることで、安定した高速走行を可能にしている。常に100%を追求して練習することは必要なことだが、敢えて「100%でなくても構わない」ための戦術を採ることは、チームプレーに「余裕」を与える。ロシアやブルガリアやアメリカといった、今大会ブラジルのライバルと思われた強豪国を見ていると、確かに各国とも着実にブラジルの戦術を採り入れ、一つ一つのプレーでは例えばカジースキの高速パイプ攻撃や高速レフト平行などは、ダンテやジバのそれよりも高さもパワーも勝っていると思える位なのだが、それがブラジルを相手にすると、なぜかチーム全体にプレーの「余裕」がなくなって、ミスで自滅してしまうのだ。それに対して、"唯一無二の" セッターであるリカルド抜きでも(100%でなくとも)ある程度の質の高いバレーを繰り出す術を見いだした今大会のブラジルを見ていると、資質を備えた選手が揃った中で敢えて「100%でなくても構わない」ための戦術を採ることが、チームプレーにいわば「あそび」をもたらしているように思える。だからこそ、世界3大大会5連覇という安定した「高速走行」を可能にしたと言えるだろう。

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2007年12月16日 (日)

レゼンデバレー(第7章)- 新ツーセッターシステム

遅ればせながら、いよいよ今日からワールドカップ男子編に入りたいと思う。勿論のことだが、きちんと(第1章)〜(第6章)までを頭に入れてから読んで頂きたい。

ブラジルはいきなり初戦でアメリカにストレート負けを喫するという、最悪の形でのスタートだったが(そのためか? ジバは2戦目のスペイン戦から、蓄えていた髭をバッサリと剃り落とした)、その後はライバル視されていたブルガリア・ロシアをいずれもストレートではねのけ、大会2連覇を見事に達成した。今大会においても、ブラジル優位の立場が揺るがなかったのはなぜなのか? さらには、そのブラジルを倒すことに成功したアメリカは、どのような戦いぶりを見せたのか? そこに注目して見ていきたいと思う。

アテネオリンピック本番以降、ブラジルはセッターがファーストタッチを行う場合に、セッターはコート中央付近にパスを出して、それをリベロのセルジオがトスアップを行うシステムを採るようになったと(第2章)で既に書いた。これが、ラリー中のトランジションの場面で確率高く高速立体的3Dバレーを繰り出すための鍵であることも、既に書いたとおりなのだが、今大会のブラジルはさらに一歩先に進化していた。実は、セッターがファーストタッチを行う場合に「限った」戦術ではどうやらなくなったようなのだ。

今大会のブラジルの正セッターを務めたマルセロは、特に前衛でブロックに跳んだ直後のトランジションの場面で、トスアップをするために無理にコートの中を走り回ることはあまり見られなかった。リベロのセルジオがファーストタッチを行った場合には、無理にでもトスアップを行いにコートの中を走り回っていたが、それ以外の選手がファーストタッチを行った場合には、むしろ積極的にリベロのセルジオがトスアップを行いにコートの中を走り回っていた。要するに、コート上に常にセッターを務める選手が「2人いる」システム、いわば「ツーセッターシステム」のような形となっていたのだ。しかし、従来の「ツーセッターシステム」がキューバ女子ナショナルチームが伝統的に採っているシステムに代表されるような「6−2システム」であるのに対して、ブラジル男子ナショナルチームの「ツーセッターシステム」は、アタッカーは「5人」でセッターは「2人」であって、「5−2システム」とでも言うべきシステムだ。しかもセッターを務める選手が、ローテーション上の配列において対角には位置していない「2人」となっている。従来の「ツーセッターシステム」である「6−2システム」ではどのローテーションでも常に、セッターを務める選手が1人前衛にいる形となり、このシステムにおいてはセッターを務める選手が攻撃力にも優れていなければならないという点がデメリットとなるのに対して、「5−2システム」ではセッターを務める2人のうちの1人はリベロの選手であって、当たり前だが攻撃力は一切要求されない。それでいて、この "新ツーセッター" システムとも言うべき「5ー2システム」のメリットは何かと言えば、リベロでない方のセッターが前衛の場面で、後衛にもう1人セッターを務める選手がいることによって、ブロックに跳んだ後のトランジションでディグが乱れた場合に、必ずしも自身が無理にセットアップを行いに走らなくても良いのである。無理にランニングセットを上げて、もちろんそれをアタッカーが決めてくれればよいが、(第4章)で書いたとおり、苦しい場面で相手の3枚ブロックをぶち抜ける「スーパーエース」の攻撃力を捨ててまで高速立体的3Dバレーを追求している現在のブラジルにあって、そういった状況では必ずしもアタッカーの決定率が高いとは言えないはずであり、ラリーとなれば今度は素早く相手チームの攻撃に対してブロックシステムを完成させなければならない。前衛のセッターが本来の居場所である前衛ライト側から大きくずれた場所までセットアップのために走り込んでしまえば、当然その直後のブロック参加が遅れてしまう。高速立体的3Dバレーが当たり前となった、現在の世界トップレベルの男子バレー界において、僅かな時間であっても「ブロック参加が遅れる」ことは致命的となりうる。

(第3章)で書いたとおり、ブラジルが高速立体的3Dバレーを確率高く繰り出せる秘訣に、デディケートブロックシステムがある。今大会でもブラジルの徹底したデディケートブロックを崩すことに成功したチームは表れなかった。徹底したデディケートブロックシステムが機能するために、"新ツーセッター" システムは理に適っていたのだ。

さらに、対角に位置していない「2人」にセッターを務めさせる「5−2システム」では、その「2人」ともが後衛のローテーションが存在する。そのローテーションにおいては、「2人」が後衛レフトと後衛ライトを守る。ブラジルが追求する高速立体的3Dバレーにおいては、「スーパーエース」は存在しない。ライトから攻撃を仕掛けるオポジットに配された選手に託された役割は、レフトの選手とちょうど「左右対称」の攻撃を仕掛けることである。相手チームにデディケートブロックをさせないために、攻撃システムを「左右対称」にする以上、「2人」のセッターも「左右対称」に位置するべきであり、従来のセッターの定位置である「後衛ライト」とともに、「後衛レフト」にもセッターを務める選手を守らせる必要があるのだ。(第5章)で書いたとおり、現在のブラジルでは理想的なレセプション・ディグの目標点が、ネット近くの位置ではなく、ネットからやや離れてアタックライン付近にあると想定して各選手がプレーしている(ように見える)。コート中央アタックライン付近にあがった「理想的な」ディグから「左右対称」に高速立体的3Dバレーを展開する、、、そのためにセッターを務める選手が守るべき場所は「後衛ライト」「後衛レフト」と「前衛センター」なのだ。

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2006年12月28日 (木)

レゼンデバレー(第6章)- スタートローテーションのトレンド

レゼンデバレーの締めくくりとして、まず最初に、今回の連載にコメントを頂いた方々に、レスが極めて遅くなってしまったことをお詫びいたします。話題のノロウイルスかどうかは不明ですが、珍しく悪寒を伴う発熱と腹部症状に見舞われて寝込んだ時期もあったりして、そのような形になってしまいました。申し訳ありません。

さて、世界バレー男子の総括も兼ねて、開幕前に「宿題にする」と公言していた、「どのローテーションからスタートするのが現在の戦術でのトレンドか?」について、まとめてみたいと思う。

ブラジル男子ナショナルチームの戦術で、今大会の直前に開かれていたワールドリーグの時と大きく変わったものとして、スタートローテーションがある。以前の投稿で書いたとおり、アテネオリンピック当時のブラジルの弱点として、オポジットに配されたアンドレが前衛レフトのローテーションで、レセプションが崩れた場合に「左利き」のアンドレがレフトから2段トスを打たなければならないという点が挙げられた。恐らくそのために、ワールドリーグでのブラジルは、アンドレが前衛レフトのレセプションフォーメーションが一番最後に回ってくるように、スタートローテーションを決めている(即ち、自チームのレセプションからスタートするセットであろうが、サーブからスタートするセットであろうが、常にアンドレが前衛センターからスタートする)ようだった。ところが今大会のブラジルは、自チームのレセプションからスタートするセットではアンドレが前衛ライトのローテーションでスタートし、サーブからスタートするセットでは一つ回してアンドレが後衛ライト(即ちファーストサーバー)のローテーションでスタートするケースが多かった。

アメリカ型分業システムが定着して以来、スタートローテーションと言えば、オポジットに配されるスーパーエースが前衛レフトのローテーションから始まるのが長らく常識であった。オポジットの対角であるセッターは、比較的低身長であることも多く、そのセッターが前衛にいるのはブロック面で不利であるとともに、チームで圧倒的に攻撃力のあるスーパーエースが出来るだけ前衛でプレーする機会が多い方が有利であるからだ。女子バレーはもちろん現在がこの段階であり、今年のVリーグのパイオニア対久光の決勝戦第2戦途中から、久光が(セリンジャー監督の作戦によって)チームで圧倒的に攻撃力のあるケニア選手を前衛センターからスタートさせざるを得なくなったことが、勝敗を分けるターニングポイントだったことは、以前の投稿で書いたとおりである。ところが、現在の男子バレーの世界では、セッターは大抵190cm台の身長であり、2mある長身のセッターというのも全く珍しくなくなった。さらに、各アタッカーの攻撃力・技術レベルの向上により、バックアタックは前衛での攻撃に比べても全く遜色のない「当たり前の」攻撃となった。そのため、たとえ1セット毎のローテーションの回る回数が少ないラリーポイント制の下であっても、スーパーエースが前衛であるローテーションを最大限にしようという意図は、あまり見られなくなってきており、実際以前に比べて「2枚替え」の戦術も明らかに少なくなった。

これもブログ開設当初に既に書いたことだが、スタートローテーションに関する戦術としては、自チームがレセプションからスタートするセットとサーブからスタートするセットで、スタートローテーションを変えない戦術と一つ回す戦術があり、前者は自チームの弱点となるローテーションに関心が高い場合に選択される。ワールドリーグ当時のブラジルは、前述の通り常にアンドレが前衛センターからのスタートであり、即ち前者の戦術を採っていたわけだが、今大会では後者を採っていた。これは、レゼンデ監督自身が「弱点」と考えていたであろう、アンドレが前衛レフトのレセプションフォーメーションが、今大会では特に「弱点」とは考えなくなったということを意味しているはずだ。確かに今大会では、前衛レフトの位置でアンドレが控えのアンデルソンに交代する場面はほとんど見受けられなかった。恐らくそれに大きく寄与しているのが、これまで書いてきたような高速立体的3Dバレーの完成度の高さ(特に、アンドレが前衛レフトの際に前衛ライトに位置する表レフトのジバが、高速ライト平行を安定して打てることが大きい)であることは間違いない。どんな場面でも確率高く、高速立体的3Dバレーを繰り出せるために、左利きのアンドレにレフトの2段トスを上げる必要がほとんどないわけである。しかし、後者を採るとして、ファーストサーバーがアンドレとなるスタートローテーションを敷いていた理由までは、残念ながらわからなかった。

というわけで、「現在の男子バレーの戦術のトレンド」としてスタートローテーションを語ることは、残念ながら出来ない。しかし、少なくとも「スーパーエースが前衛レフトからスタート」するのがトレンドでなくなってきていることは、ブラジル以外のチームを見ていても明らかである。来年のワールドカップに向け、継続して注目していきたいと思う。

では、頭を切り換えて、年明けからはV・プレミアリーグモードに突入する!

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2006年12月21日 (木)

レゼンデバレー(第5章)- 男子バレーの女子化

ブラジルの高速立体的3Dバレーになくてはならないのが、セッターのリカルドのセットアップ能力であることは、誰の目にも明らかであろう。今や彼の偉大なる先輩である、リマ・マウリシオを超えたと言っても過言ではない。

(第2章)で書いたように、現在のブラジルでは、ファーストタッチをセッターのリカルドが行った場合、リベロのセルジオがコート中央付近、アタックラインのすぐ後ろで踏み切ってジャンプトスを行う。従って、各アタッカーはアタックライン付近から上がってくる高速トスを打つ練習を、相当に行っているはずである。逆に、セッターのリカルドも、当たり前のようにアタックライン付近から高速トスを上げる練習を、普段から相当に行っているはずであり、極端な言い方をすれば、現在のブラジルにあっては、理想的なレセプション・ディグの目標点が、ネット近くの位置ではなく、ネットからやや離れてアタックライン付近にあると想定して、各選手がプレーしているようにも見えるくらいだ。これには、一つにはレセプションを行う選手の精神的・肉体的プレッシャーが随分軽くなる効果があると思われる。例えば全日本の場合は、理想的なレセプションをネット際のある狭い範囲に確実に上げなければ、効果的な攻撃システムを組み立てられないため、レフトの選手が海外勢の強烈なスパイクサーブに対して、必死に倒れ込みながらレセプションを行うシーンをよく見かけるわけだが、それでたとえ理想的なレセプション(「Aキャッチ」や「Aカット」などとマスコミでも取り上げられるようになったが)に成功したとしても、そのレセプションを行ったレフトの選手は間違いなく攻撃に参加できなくなる。それに対して、ブラジルの場合はそこまで理想的なレセプションを上げなくても、少しネットから離れてアタックライン付近でもいい、という程度のレセプションで構わないわけであるから、必死に倒れ込む必要もなく、そしてレセプション直後に平気な顔で高速パイプ攻撃に切り込んでいけるわけである。さらには、ネットからやや離れた位置からセットアップするように心がけることは、ほとんど全日本と身長的に変わらないブラジルとして、ヨーロッパの長身国と相対する場合に「ブロックで押さえ込まれない」ために好都合な戦術にもなりうる(これについては、イタリアリーグを肌身で経験した加藤陽一選手も、日本の選手達が海外勢と対戦する場合にもっと意識するべきだということを、以前彼の特集をしていた番組内でも指摘していた点だ)。

それにしても、ネット際でなくアタックライン付近から高速立体的3Dバレーを繰り出す戦術は、それ相当の練習が必要な、高度な戦術であることは間違いない。しかしながら、実は過去にそれに近い戦術を繰り出していたチームがあった。それはシドニーオリンピック当時の韓国女子ナショナルチームである。

当時の韓国女子ナショナルチームは、アジア本来の女子バレースタイルを追求し、素晴らしいバレーシステムを作り上げていた。リードブロックは採り入れていなかったが、相手の両サイドの攻撃に対して2枚ブロックを確実に敷いたうえで、ブロックに参加しなかったもう一人の前衛プレーヤーが素早く後衛に下がってディグのフォーメーションに参加する。そこで確実にワンタッチを取る、あるいはブロックのコースを抜けてきたスパイクを着実にディグで繋いで、それをコート中央付近からブロックに跳ばなかった前衛プレーヤーへの高速平行トスへと繋げる、、、このブロックからのトランジションの戦術が、見事に「システム化」されていた! 当時の韓国はシドニーオリンピックで惜しくもメダルを逃したとは言え「正真正銘」世界のトップレベルであり、一見同じようなバレースタイルに見えてその実、そういった「システム化」が全くなされていない全日本からすれば、全く歯の立たない相手であったことは至極当然の結果であった。しかし、その韓国のバレーシステムは最初に書いたとおり、上背のないアジア勢本来の、女子独自のバレースタイルを追求した理想型であったと思う。

その意味で、レゼンデ監督が目指したバレースタイルというのは、女子バレー独自のトランジションのシステムに、男子バレー独自のブロックシステム(バンチ・リードブロック)を組み込むという、「女子バレーと男子バレーの融合」であったと思う。そして、その完成型が今回の世界バレーでブラジル男子ナショナルチームが見せてくれたバレーであったと言ってよいだろう。女子中心に語ってきた当ブログとしては、再三「女子バレーの男子化」について触れてきたわけだが、これからの時代のキーワードは「男子バレーの女子化」なのかもしれない。ブラジルの男女ナショナルチームが、結果的に男女の監督を入れ替えたような形になって、それで現在成功しているのも、その意味ではいい象徴とも言えるだろう。

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2006年12月17日 (日)

レゼンデバレー(第4章)- 脱スーパーエース

レゼンデ監督のバレー戦術の原点は、彼がナショナルチームの監督を初めて務めた頃の、ブラジル女子ナショナルチームのバレースタイルに隠されている。

ブラジル女子ナショナルチームを世界のトップレベルにまで押し上げたのが、彼の手腕にあることは誰もが認めるところであろうが、当時のブラジル女子ナショナルチームは、決してレセプション・ディグの良いチームではなかった。それが、現在のような(男子には及ばないにしても)高速立体的3Dバレーをお家芸とすることになった背景には、世界No.1セッターと言われたベンツリーニ、さらにずっと彼女の控えであった(シドニーではレギュラーセッターだったが)現在のレギュラーセッターでもあるフォフォンのトス回しにあるのは言うまでもない。しかし、レセプション・ディグが悪ければいくら素晴らしいセッターがいたとしても、高速3Dバレーは展開できないはずである。そこで彼は、ディグの悪さを補う最も効率の良い方法として、女子バレー界でいち早くバンチ・リードブロックシステムを採り入れた。さらに、レセプションの悪さを補う方法として、オポジットにレイラ・バロスを配した。

彼女はもともと左利きのレフトプレーヤーであり、ナショナルチームに選ばれた当時はアナ・モーゼらの主軸レフトプレーヤーの控えであった。上背はなかった(確か179cm)が、そつなくレセプションもこなし、時間差攻撃などの切れ味いい攻撃や少々乱れぎみのバックアタックのトスなどを打ちこなす能力に長けていた。アトランタオリンピックの後、次のシドニーに向けてレゼンデ監督はその彼女をオポジットへコンバートしたのである。もちろん、彼女はオポジットとしてレセプションに(基本的には)参加しないわけであり、表向き上は「スーパーエース」としてオポジットに配されていると言えるのであろうが、本来「スーパーエース」というのは、レセプションが乱れた苦しい場面で、高い2段トスを打って相手の3枚ブロックをぶち破ることが要求されているはずであり、その意味では、彼女は「スーパーエース」というのとは少し違う存在であった。彼女要求れていたのはむしろ、さほど高いと言えなかった当時のブラジル女子ナショナルチームのレセプション成功率をもってしても、確率高く高速立体的3Dバレーを展開させること、にあった。

男子バレーにあっては、女子以上にスパイクサーブが強力である。勝つためには、強力なスパイクサーブで相手チームのレセプションを崩し、相手の攻撃を単調にさせておいて3枚ブロックで押さえ込むのが王道であり、逆にレセプションを乱された側としては、その苦しい場面で上がる2段トスの攻撃で、3枚ブロックをぶち抜ける「スーパーエース」がいることが不可欠、、、これが最近の男子バレーの世界であった。事実、最近の世界の男子バレー界でのスーパースターと言えば、すべからく世界各国の「スーパーエース」であった(イタリアのゾルジやジャーニ、キューバのデスパイネ、ブラジルのネグロン、オランダのファンダール・ミューレン、スペインのパスカル、セルビア・モンテネグロのミリュコビッチ等)わけだ。しかし、現在のブラジル男子ナショナルチームに、「スーパーエース」は存在しない。2003年のワールドカップで大活躍した、アンデルソンという素晴らしい「スーパーエース」の攻撃力を捨ててまで、レゼンデ監督は安定したレセプションを追求し、それを土台にして高速立体的3Dバレーを展開しようとした。

以前にも、現在のブラジル男子ナショナルチームのレセプションシステムとして、4枚レセプションを採っているということを書いたが、少し言葉足らずだったので誤解を招いたかもしれない。私の言いたかった「4枚レセプションシステム」は、決して「常に4枚で」レセプションを行うフォーメーションを敷く、と言う意味ではなく、あくまで「やろうと思えばレセプションもこなせるような」選手をオポジットに配する、という意味である。従って、アンドレが実際にレセプションを行っているわけではない。もともとレフトプレーヤーだった左利きのレイラ・バロスをオポジットに配したのと同じ意味合いで、レゼンデ監督はオポジットに左利きのアンドレを配したのだ。

「スーパーエース」の攻撃力を捨てることは、もちろんリスクを伴う。相手な強力なスパイクサーブでレセプションを乱された場合にどう切り抜けるのか? これにきちんとした答えを用意していなければならない。時にはレセプションにも参加できるだけのレシーブ能力を持ちつつ、かつ少々レセプションが乱れようとも、高速立体的3Dバレーを展開できるだけの柔軟な攻撃力を持つ選手が両サイド(レフト・ライト)に配されているからこそ、「スーパーエース」の攻撃力を捨てることが出来るのである。今大会ブラジルに次いでメダルに輝いたのが、ポーランド・ブルガリアの両国であったことを、予想外の結果と捉えてらっしゃる方は多いと思う。しかし、ここ1・2年のワールドリーグで両国がメダル争いを繰り広げていたことを知っていた方ならば、決して意外な結果とは感じてらっしゃらないであろう。私もその一人なのだが、今大会での両国の戦いぶりを最後まで見て、ようやくこの両国が世界のトップに仲間入りしてきた理由がわかった。この両国はブラジルほどではないにせよ、「脱スーパーエース」の道を歩みつつあるのである。オポジットの選手が高速のライト攻撃を繰り出す、、、これが相手チームにデディケートブロックをさせないための重要な鍵であり、それが自チームの高速パイプ攻撃の決定率を上げる鍵でもある。どんなに素晴らしい「スーパーエース」がいても、その一人の選手の個人能力ではメダル争いは出来ない、間違いなくそういう時代になったと言っていい。

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2006年12月10日 (日)

レゼンデバレー(第3章)- 徹底したデディケートブロック

ブラジルが、高速立体的3Dバレーを確率高く繰り出せる秘訣に、安定したディグがあることは(第2章)で述べた。しかし、安定したディグを展開するためには当然のことながら、ブロックシステムが有効に機能して、相手の繰り出す攻撃システムに対して確率高くワンタッチを取ることが必要不可欠である。

リードブロックは当たり前として、それが上手く機能するための鍵は「相手の攻撃システムをどう(狭い範囲に)絞り込めるか?」である。そのためにサーブで後衛レフトを徹底的に狙って、相手の高速パイプ攻撃を潰すことが重要な戦略の一つとなるわけだが、常にそれが可能なわけではない。相手が完璧なレセプションを展開していたとしても、何とかブロックを機能させなければ、世界のトップレベルの試合で連戦連勝を果たすことは不可能である。そのためには、データバレーを駆使しながら、ブロッカー3枚をどのように配置するか? これがリードブロックそのもの以上に、重要な戦術となる。

その点に関して、ブラジルは基本的に「バンチ」を採用している場面が多いわけだが、ブロッカー3枚がセンター中央付近にバンチで構えて、両サイドのアンテナとアンテナに挟まれた9mの空間全てに対して均等に対応しようというのが厳密な「バンチ」であるとすれば、決してそのような「バンチ」ではない。両サイドのアンテナとアンテナに挟まれた9mの空間全てではなく、相手のセッターのセットアップ位置を基準として、その位置から相手のレフト側(自チームのライト側)のアンテナまでの空間に、マークを集中させて(=「デディケート "dedicate"」)構えているのである。

「デディケート」というのは、トップレベルのバレーのみで行われる戦術では決してなく、むしろB級レベルで日常茶飯事的に行われているものである。B級レベルにおいては、ライトからのバックアタックはもちろん、セッターがバックトスを上げる攻撃自体が極めて少ない。例えば、セッターが前衛の場面では、前衛センターのAクイックと前衛レフトのレフト平行しかないということが多いわけで、その場合にブロッカー3枚がセンター中央付近に構えるのはバカげており、相手のAクイックに対してレフト側のブロッカーがコミット、レフト平行に対してライト側のブロッカーがコミット、センターブロッカーはその両方に対してリード、というのがB級レベルで一般的に採用されるブロックシステムとなり(もちろん技術レベルが低いほど、センターブロッカーはどちらかの攻撃に対してコミットとなる可能性が高いが)、逆に攻撃する側からすれば、相手のレフト側のブロッカーが自チームのAクイックに対してコミットで構えているのを確認した時点で、相手チームのフロントゾーンはレフト側が「がら空き」状態となっているわけなので、その「がら空き」のスペースへセッターがツー攻撃を繰り出せば決まる確率が高い、というのがB級レベルでの "セオリー" である。

トップレベルのバレーにおいても、何度も説明してきたように、現在のバレー戦術における基本攻撃システムは、「前衛レフトのレフト平行・前衛センターの速攻・オポジットのライト側の攻撃(ライト平行あるいはバックアタック)・後衛レフトの高速パイプ攻撃」であり、両サイドのアンテナとアンテナに挟まれた9mの空間の中で、攻撃ポイントが「4つ」あるわけだが、そのうちの「3つ」は( "バックセミ" ならぬ "Cクイック" 的な高速パイプ攻撃もあるが、基本的には)セッターのセットアップ位置から、攻撃チーム側のレフト方向のアンテナまでの空間に集中しているわけであり、ただ漠然と「アタッカー4枚対ブロッカー3枚」の戦いを挑むよりも、「デディケート」を採用して、「前衛レフトのレフト平行・前衛センターの速攻・後衛レフトの高速パイプ攻撃」の「アタッカー3枚対ブロッカー3枚」の戦いを挑んだ方が、理にはかなっているわけだ。しかしながらB級レベルと違い、ライト側から攻撃を仕掛けるオポジットにはスーパーエースが配されているわけであり、相手のライト側の攻撃に対するマークを甘くする「デディケート」は大きなリスクを伴う。特に、ブラジル相手に「デディケート」を行えば、恐らくはアンドレに面白いように高速ライト平行・高速バックアタックを決められるのがオチであろう。従って、ヨーロッパの強豪勢をしても、ブラジル相手に「デディケート」は行えないのである。

ところが逆に、ブラジルはヨーロッパの強豪勢相手に、徹底して「デディケート」を採っている。これは、たとえ相手チームがオポジットのライト側の攻撃を多用したとしても、レフト側のブロッカーとセンターブロッカー2枚が「リード」で充分対応できるという、強い自信の表れである。今大会、ヨーロッパの強豪勢がこぞってブラジルの高速パイプ攻撃を採り入れていたのと同様、オポジットの選手のライト側からの攻撃も高速化を図ろうという意図は見受けられた。しかし、如何せんアンドレほどの高速ライト平行や高速ライトバックアタックに敵うものではなかった。普段から自チーム内で、高速のライト攻撃と相対する練習を行えるブラジルとしては、他のチームの少々早い程度のライト攻撃など、何でもないということであろう。実際今大会のブラジルのブロック陣は、相手チームのスーパーエースに上がる、従来どおりのライト攻撃に対しては、相手チームのレフト側に「デディケート」していながら、「リード」で見事に3枚ブロックを完成させていた! 少し早いライト攻撃に対しても、遅れながら空中で見事に2枚ブロックを完成させていた! これが可能であるならば、自信を持ってレフト側に「デディケート」できるわけだ。「デディケート」していれば、相手チームがたとえ高速パイプ攻撃を繰り出したとしても、最悪でもマンツーマンで「レフトブロッカーが相手センターの速攻に、ライトブロッカーがレフト平行に、センターブロッカーが高速パイプ攻撃に」対応できるのである。相手チームの前衛センターの速攻に対して「リード」でワンタッチをとったとして、その場合ヨーロッパ勢はセンターブロッカーがワンタッチを取っているのが普通であるのに対し、ブラジルはレフトブロッカーがワンタッチを取っている場面が目立った。そこが、ブラジルとヨーロッパの強豪勢とのブロック戦術面での大きな差であった。

逆に言えば、ライト側から攻撃するオポジットの選手が如何に「早い」攻撃を繰り出せるか? が、現在のトップレベルの男子バレー界で最も要求される課題である、とも言える。これは言い方を変えれば、「脱スーパーエース」とも言えるわけであり、それは(第4章)として改めて書こうと思う。

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2006年12月 9日 (土)

レゼンデバレー(第2章)- アメリカ型分業システムの進化版

ブラジルに追いつくべく、こぞって高速パイプを採り入れたヨーロッパ勢であったが、残念ながらブラジルはさらに一歩先へ進化していた。

高速立体的3Dバレー、特にその鍵となる高速パイプ攻撃を繰り出すためには、当然のことながらそれだけ安定したレセプション・ディグが必要不可欠なはずである。

現在のバレー戦術におけるレセプションシステムの基軸は、アメリカ男子ナショナルチームが編み出した「2人レセプションシステム」であり、レフトの2枚と後衛センターが交代したリベロの3枚でレセプションを行う。従って後衛レフトの選手というのは、本来レセプションの要である。ところが、高速立体的3Dバレーでは、このレセプションの要であるはずの後衛レフトの選手が高速パイプ攻撃に参加するため、その選手を強烈なスパイクサーブで崩せば、相手の攻撃システムから少なくとも高速パイプはなくなり、攻撃箇所は3ヶ所(レフト平行・前衛センターの速攻・オポジットのライト攻撃あるいはバックライトからのバックアタック)に絞られてしまう。従って、戦術として「ただ単に」高速パイプを採り入れただけでは、徹底して相手にサーブで後衛レフトを狙われると、高速立体的3Dバレーを繰り出すことは出来ないのである。

では、ブラジルはどうだったのか? ランキングを見る限りは、ブラジルの両レフト(ジバ・ダンテ)のレセプションは決して芳しくはないことになるのだが、試合ぶりを実際に見ていればわかる、、、彼らはサーブでどんなに狙われようとも、レセプション後に平気な顔をして高速パイプに切り込んでくるのである! そこが、ヨーロッパ勢のレフト陣との決定的違いであった。

さらにはディグ。即ち、相手の攻撃に対してブロックでワンタッチを取った後のトランジション(切り返し)の場面では、誰がファーストタッチを行うかが重要となる。高速立体的3Dバレーを繰り出すために、前衛レフト・前衛センター・後衛レフト・オポジットの4選手は、セッター(リカルド)がトスアップを行う瞬間には、スパイクの助走をほぼ完了していなければならない。そのためには、相手チームから返ってきたボールのファーストタッチを行う選手は、攻撃に参加しない唯一のプレーヤーである後衛センター1人に限られる。もちろん大抵の場面では、後衛センターはリベロと交代しているわけなので、ほとんど問題ないと思うかもしれないが、問題になりうるケースが2つある。一つは、後衛センターがサーバーの場面。当然リベロはコートの中にはいない。従って、後衛センターがリベロの代わりを務めなければならない、即ちチャンスボールがアタックライン付近に返ってきた場合などには、後衛からそのチャンスボールを取りに、後衛センターの選手がやってくる必要があるのである。これを難なくこなすセンタープレーヤーは、世界を見渡しても恐らくグスタボしかいない。

'84年ロサンゼルス・'88年ソウルとオリンピック2連覇を成し遂げた、アメリカ男子ナショナルチームが編み出した2人レセプションシステムによって、「レフト=レセプション専門・センター=ブロック専門・オポジット=攻撃専門(=スーパーエース)」という、究極的な「分業システム」が加速した。さらに'98年のリベロ制導入も相まって、特にセンターの選手の大型化に拍車がかかる結果となったが、それは「分業システム」が、センタープレーヤーに「レシーブをしなくてよい」という免罪符を与えたからだった。

しかし、2人レセプションシステムがレフト以外の選手に与えた免罪符は、厳密に言えば「レセプションをしなくてよい」というものであって、決して「ディグをしなくてよい」というものではなかったはずである。それが何を間違えたのか? レセプションだけでなく、レシーブ全般を免除されたかのような扱いをされてしまったのが、日本の現状であろう(この点については、当ブログに何度かトラックバックを送ってくれている『ベリーロールな日々』にも、同様の問題点が鋭く指摘されている)。そのせいで、リードブロックシステムを採り入れる経緯の中で、日本ではトランジションで前衛センターの選手がトスを上げるという、現代のバレー戦術で当たり前であるはずの戦術を採り入れることすらも、何年もの年月を要してしまう結果になった。まぁ、日本は極端な例としても、センタープレーヤーがレセプション以外のディグを多かれ少なかれ苦手とするのが、世界各国の現状であろう。そんな中にあって、リベロにも引けを取らないディグ(さらにはトス)をこなすグスタボが、ブラジル男子ナショナルチームを支える長年不動のレギュラーセンタープレーヤーであるのは、尤もなことである。

もう一つ、ディグで問題になるケースは、ファーストタッチをセッターが行った場合である。これまでも何回も書いてきたように、その場面では前衛センターが両サイドへの2段トスあるいは、バックセンターのパイプ攻撃のトスを上げるというのが、リードブロックシステムが普及して以来の世界標準の戦術であった。ところがアテネオリンピックの頃から、ブラジルはそういった場面でセッターのリカルドは、コート中央付近にパスを出し、それをリベロのセルジオがトスを上げにいく戦術を見せるようになった。セッターがトスを上げられない場面では、完全な高速立体的3Dバレーを繰り出すことは不可能である。しかしながら、それに近い攻撃システムとして、リベロがコート中央付近から両サイドへ高速平行トス、あるいはほぼ真上に高速パイプ攻撃のトスを上げるという戦術を採り始めたのである。美雁さんのブログでも取り上げられているように、日本では「レセプション中心のリベロか? ディグ中心のリベロか?」などという、リベロ制が導入された当初に問題となったようなことが、今でも話題に上っているが、以前「ルール確認」として世界バレー開幕前に投稿で書いたとおり、ルール上リベロは決して「トスを上げてはいけない」のではないのであって、リベロに要求されるプレーは「レセプションか? ディグか?」の二者択一ではない。リベロに本当に要求されるプレーは「リベロとしての」プレーであって、それ以外ではない。即ち、「リベロとしての」プレーとは、ルール上禁止されていない全てのプレーであって、時にはアタックラインを確認した上で、その後ろで踏み切って、フロントゾーンでジャンプトスを上げることも要求されているのである。

これらを当たり前のようにこなせる選手達が集まった、ブラジル男子ナショナルチームだからこそ、試合中レセプションの場面でもトランジションの場面でも、高速立体的3Dバレーを確率高く、繰り出すことが出来るのである。

アメリカ型「分業システム」のバレー戦術を、「各個人が苦手なプレーは行わずに、得意なプレーだけに専念する」戦術と解釈した国と、「各個人に要求されたプレーに専念することで優れた組織バレーが展開できる」戦術と解釈した国の違い、、、これが端的に言って、日本とブラジルの違いと言っても過言でない。しかし、後者は本来は、強かった頃の全日本女子が伝統的に行っていたバレー戦術であったはずだと思うのは、気のせいであろうか?

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