2012年1月22日 (日)

【深層真相排球塾(1学期2限目)】「テンポ」はアタッカーの助走開始のタイミングで決まる

【テーマ】〜テンポは"何秒"ではない!〜
アタッカーの助走開始のタイミングで決まる

まずは前回の復習から・・・

2限目を始めるにあたって、まずは前回の要点をおさらいしましょう。

テンポとは「セット・アップからスパイク・ヒットまでの経過時間」であり、「リード・ブロックで対応するブロッカーの反応時間よりも、テンポを短くするにはどうすればよいか?」が、ファースト・テンポにたどり着くためのカギでした。

それを達成する具体的な方法は

★セット・アップより相当前から助走を開始し、セット・アップの瞬間に踏み切って、空中で最高点に達したところでボールをヒットする

方法であり、そうすれば

★リード・ブロックで対応するブロッカーが空中で最高点に達するよりも前に、ブロッカーの上からスパイク・ヒットできる

ことを、アキンラデウォ選手のAクイックの連続写真を見ながら確認しました。

この要点を踏まえると、テンポは「セット・アップからアタッカーが踏み切るタイミングまでの経過時間によって決まる」というとらえ方ができ、その経過時間がほぼゼロとなる攻撃こそがファースト・テンポの攻撃だと考えることができます。従って、テンポは本来「アタッカーの助走開始のタイミングによって決まる」ものなのです。

ところが日本のバレー界には、「セッターのトスの"はやさ"にアタッカーが合わせないといけない」という、まるでテンポが「セッターのトスで決まる」かのような意識が根強く存在します。その意識が一体どこから生まれるのか?・・・その鍵を解くため今回は、全日本女子の"速い"バック・アタックの連続写真を見ながら、検証を進めたいと思います(写真をクリックすれば、大きくなります)。

(写真1)
Ebata1

(写真2 - セット・アップ直前 - )
Ebata2

(写真3 - セット・アップ直後 - )
Ebata3

(写真4)
Ebata4

(写真5)
Ebata5

(写真6)
Ebata6


◎日本の女子バレー界でよく見られる、テンポを短くする方法

まず写真1~2ですが、これはセット・アップ前~直前の状況で、江畑選手は前傾姿勢をとり、写真1で浮かせた左足を写真2で床面に着いて前進していますが、その歩幅は極めて小さく、いわば"足踏み"状態で、助走を開始するタイミングを見計らっている状態と言えます。写真3はセット・アップ直後で、両腕を大きく後方へ振り上げる動作が見られ、さらに写真4では両足がともに空中にあることから、写真3で着いている左足で床面を蹴って、勢いよく助走を開始したことが伺えます。そして写真5で踏み切り動作を行っており、この一連の連続写真から、江畑選手はほぼ"1歩助走"でスパイク動作を行っていることがわかります。

スパイク動作は前回説明したように、踏み切ってからスパイク・ヒットを完了するまでの時間がほぼ一定であるため、スパイク動作にかかる全経過時間の中で意識的に変えられるのは、助走開始から踏み切るまでの時間です。この連続写真から、江畑選手は助走距離を縮めることで、助走開始から踏み切るまでの時間を短縮しようとしていることが伺えます。

これを前回同様、図で考えてみましょう。江畑選手は図4のように、助走開始から踏み切るまでの時間を短縮することで、テンポの"絶対的な"短さを達成しています。

Photo

この方法は実は江畑選手に限らず、日本の特に女子バレー界でよく見られる一般的な方法なのですが、江畑選手はじめ全日本女子の選手達は、その高い技術力によって、最小限の助走距離で効率よくスパイクを打っていると言えるでしょう。しかし、助走距離が短いため助走スピードを十分に高めることが難しく、踏み切ってから空中で到達できる"高さを犠牲に"している方法とも言えます。

では今度は、最初におさらいした要点に立ち返って考えてみましょう。そもそもテンポとは「セット・アップ」からスパイク・ヒットまでの経過時間でしたよね? 決して「助走開始」からスパイク・ヒットまでの経過時間、すなわちスパイク動作にかかる全経過時間のことではありません。いくら助走距離を削ってテンポを短くしても、写真3から伺えるように助走開始のタイミングがセット・アップよりも後では、踏み切りのタイミングをセット・アップの瞬間に合わせることは不可能です。この方法でいくら助走距離を削っても、相手のブロッカーがセット・アップを確認してから踏み切るまでの経過時間(ブロッカーの反応時間の①+②に相当)が短くなれば、図5のようにブロッカーの反応時間より早くスパイク・ヒットを完了できるとは限りません(1限目で解説した、ファースト・テンポの攻撃を達成する具体的方法(図2)と比較して下さい)。

Photo_2

Photo_3

ですからこの方法は、リード・ブロックで対応するブロッカーに対して効果を発揮するファースト・テンポの攻撃とは、決して呼べないのです。

◎なぜこのような方法が、日本で一般化してしまったのか?

数年前、メディアで"1秒の壁"や"1.1秒"という言葉がもてはやされました。こうした"何秒"という数値に象徴されるように、日本のバレー界でテンポと言えば、それ自体の"絶対的な"短さばかりが注目される傾向にあります。しかし、ここに実は大きな落とし穴があるのです。攻撃を組み立てる上で、相手のブロッカーがどう反応するのか? という意識が希薄で、もっぱらセッターとアタッカーの息を合わせることばかりに重点が置かれるため、テンポの"絶対的な"短さを追求しようと、セッターは"はやい"トスを上げ、アタッカーはその経過時間内にスパイク動作を完了させよう、という意識が生まれるのだろうと推測されます。さらに、攻撃を組み立てる主導権はセッターにある、という潜在的意識が日本では強いため、トスの軌道を見てからでないとアタッカーが助走を開始できず、テンポを短くしようと"低い"トスが上がると、助走開始から踏み切るまでの時間的余裕がなくなり、「間に合わない」という意識がアタッカーの心理の中に生まれるのでしょう。テンポを短くすることは本来、敵のブロッカーとの勝負に勝つための「手段」であるはずなのに、いつの間にかテンポを短くすること自体が「目的」にすり替わり、セッターが"はやい"トスを上げようとすればするほど、味方のアタッカーが全力でジャンプするだけの十分な助走距離が取れない、という状況に陥ったのです。

真のファースト・テンポの攻撃との決定的な違いは、アタッカーの助走開始のタイミングがセット・アップより後にあることです。相手のブロッカーがリード・ブロックで対応してくることをきちんと意識していれば、ブロッカーがセット・アップを確認するまで動けないことを逆手にとって、セット・アップより相当前から全力で助走を開始してこそ、アタッカーに勝機が生まれることは容易に想像がつくはずです。攻撃の「目的」は相手のブロッカーに勝つことであって、テンポの"絶対的な"短さを達成することではありません。テンポを"何秒以内"にするかが重要なのではなく、セット・アップより相当前から全力で助走を開始し、セット・アップの瞬間に踏み切ることが、結果的にファースト・テンポにつながるのです。

テンポに関する誤解が招いた"悲劇"

日本のバレー界に蔓延するテンポに関するこうした誤解は、長身で最高到達点の高い選手は"速い"攻撃が苦手だ、という神話を生み出しました。長身選手が一般的に、低身長の選手より動作が緩慢なのは事実でしょうから、助走開始から踏み切るまでに相対的に時間がかかることが多いでしょう。しかし、それに見合うだけ助走開始のタイミングを十分に早くすれば、いくら動作が緩慢であろうとも、セット・アップの瞬間に踏み切りのタイミングを合わせることは可能です。日本の長身選手が"速い"攻撃を苦手にしているように見えるのは、助走開始から踏み切るまでの時間を短縮してスパイクを打つのが苦手だからであり、そもそもせっかくの最高到達点の"高さを犠牲に"してしまうそのようなプレースタイル自体が、実は無意味なのです。リード・ブロックで対応するブロッカーにとって最も効果を発揮するファースト・テンポの攻撃は、その本質さえきちんと理解できていれば、身長や動作の俊敏性とは無関係に、普通にスパイクが打てる選手なら誰でも打つことができるプレーなのです。

【参考動画】(踏み切るタイミングは、両足が床面から離れる瞬間として計測)

☆日本の女子バレー界で一般的な、助走開始踏み切るまでの時間を短縮する方法

(谷口 雅美選手・2009全日本女子)

・・・実況解説陣が「すっごい速いですねー」と言っていますが、実際に計測してみれば、助走開始から踏み切るまでの時間が0.73秒、踏み切ってからスパイク・ヒットまでの時間が0.30秒で、肝心のテンポ0.97秒。これらの数字を以下の動画と比較下さい。

☆真のファースト・テンポ

(江口 理代選手・2007パイオニア)

・・・ゆったり助走しているように見えるので、実況解説は「速い」などと一言も言いませんが、実際には助走開始から踏み切るまでの時間が1.07秒、踏み切ってからスパイク・ヒットまでの時間が0.30秒で、肝心のテンポ0.87秒であり、上の動画のテンポよりも圧倒的に短い!!!

(加藤 陽一選手・1999全日本男子)

・・・実況解説陣は「人間は浮くんですね−」とか「日本人離れしたジャンプ力」とか、打点の高さばかり強調していますが、助走開始から踏み切るまでの時間が0.94秒、踏み切ってからスパイク・ヒットまでの時間が0.40秒で、肝心のテンポ0.81秒であり、確かに谷口・江口両選手よりも圧倒的にジャンプ力が高いために踏み切ってからスパイク・ヒットまでの時間が0.1秒余計にかかっているにもかかわらず、江口選手よりもさらにテンポが短い!!!

*****

セッターの"はやい"トスに合わせようと、最小限の助走距離で踏み切った江畑選手のこの"速い"バック・アタックがどういう結末を迎えるかは、世界トップレベルの男子選手のファースト・テンポのパイプ攻撃とともに、次回お見せすることにしましょう。

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2012年1月 9日 (月)

【深層真相排球塾(1学期1限目)】バレーボールにおける「テンポ」とは?

【テーマ】バレーボールのテンポとは?

☆日本のバレー界に蔓延するテンポに関する誤解

テンポを理解するにあたっては、その概念が生まれた背景をまず理解する必要があります。テンポはアタック戦術に関わる概念ですので、真っ向から対決するブロック戦術が関わってきます。ブロックに跳ぶ「反応の仕方」には大きく分けて、アタッカーの助走に合わせて跳ぶ「コミット・ブロック」と、トスの行方を確認してから跳ぶ「リード・ブロック」がありますが、世界トップレベルのブロック戦術の主流は、コミット・ブロックからリード・ブロックへと移り変わってきたという歴史的背景があります。こうしたブロック戦術の変化が、攻撃側にテンポを強く意識させる要因となっているのです。リード・ブロックではトスの行方を確認してブロックに跳ぶので、「トスが上がる(=セット・アップ)瞬間からアタッカーがボールを打つ(=スパイク・ヒット)瞬間までの経過時間」が短いほど、スパイク・ヒットに対してブロッカーが間に合わない可能性が高くなります。この「セット・アップからスパイク・ヒットまでの経過時間」が一般に、テンポと呼ばれています。その経過時間が最も短い攻撃がファースト・テンポ(1st tempo)、それより少し長い攻撃がセカンド・テンポ(2nd tempo)、最も長い攻撃がサード・テンポ(3rd tempo)と呼ばれます。サード・テンポの攻撃は、いわゆるオープン攻撃などに相当します。一方、リード・ブロックに対して最も効果を発揮する攻撃がファースト・テンポの攻撃だというわけです。


ここまではそれほど難しくないのですが、ここから先に進もうとした時に誤解がしばしば生じます。陥りやすいのは「ファースト・テンポの攻撃とは一体"何秒以内"の攻撃なのか?」という考え方です。テンポはそれ自体の"絶対的な"短さが重要なのではなく、相手のブロッカーの反応時間よりも"相対的に"短いことが重要なのです。ですから、ファースト・テンポの攻撃が「何秒なのか?」を考えることには意味はなく、「どうすればリード・ブロックで対応するブロッカーの反応時間よりも早いタイミングで、スパイク・ヒットを完了できるか?」を考えていけば、自ずとファースト・テンポの攻撃にたどり着くのです。


☆どうやってブロック反応時間よりテンポを短くするか?

では、ブロッカーの動作から考えてみましょう。リード・ブロックで対応するブロッカーは、セット・アップを確認した後、トスの上がったアタッカーのスパイク・ヒット位置に向かってネットに沿って移動し、踏み切ってブロックを完成させます。ですからブロッカーの反応時間は、セット・アップを確認してから実際に体を動かし始めるまでの反応時間(①)、ネットに沿って移動する移動時間(②)、踏み切ってから空中でブロックが完成するまでの時間(③)、の合計となります(図1)。

Photo

①〜③のうち①と②は、ブロッカーのセット・アップを見極める能力や身体能力、セッターの能力やセット・アップ位置とスパイク・ヒット位置との間の水平距離などの影響を受けます。一方③は、ブロッカーがジャンプして空中で最高点に達するまでの時間であり、これはジャンプ力によほどの差がない限りは、ほとんどの場合一定となります(※)。

次に、アタッカーの動作を考えてみます。アタッカーは、助走を開始した後、踏み切って空中でボールを打ちますが、この中で助走開始から踏み切るまでの時間はアタッカーによって、また同じアタッカーでも状況によって、かなり違いが出ます。一方、踏み切ってからスパイク・ヒットを完了するまでの時間は、スイングがどうあれ空中で最高点に達したところでスパイク・ヒットを行う以上、ジャンプ力によほどの差がない限りはほぼ一定であり、かつ、ブロッカーにおける③とほぼ同じと考えられます。


ここまでの理解を前提に、どうすればブロッカーの反応時間よりもテンポを短くできるか? を考えてみましょう。①・②がどんなに短くなったとしても、助走開始のタイミングをセット・アップよりも相当前にして、セット・アップの瞬間に踏み切ってしまえば、アタッカーがスパイク・ヒットを完了するまでにブロッカーが空中で最高点に達するのは理論的に不可能となります(図2)。従って、リード・ブロックで対応するブロッカーに対して最も効果を発揮するファースト・テンポの攻撃とは、「セット・アップの瞬間に踏み切る攻撃」だと理論的に考えることができます。

Photo_2


☆本当のファースト・テンポの攻撃とは?

では今度は、ファースト・テンポの攻撃を打つアタッカーが、実際にどのタイミングで踏み切っているのか? を見てみましょう。

Quick

プルームジット・薛明両選手のクイックをご覧下さい。クイックがリード・ブロックにとって有効な攻撃であることに関しては、恐らく異論がないでしょう。セット・アップの瞬間に注目してもらうと、ほぼその瞬間に両選手とも踏み切っています

さらに、アキンラデウォ選手のクイックをご覧下さい。

Photo_3

キューバの13番の選手がリード・ブロックで対応しており、写真4がブロック反応時間の①に、写真5が②に、写真6〜9が③に相当します。写真9でブロッカーの体が曲がっていますが、腰の位置を見ればこのタイミングでブロッカーが、空中で最高点に達しているのがわかります。一方、アキンラデウォ選手はセット・アップより相当前から助走を開始し、セット・アップの瞬間に踏み切って、写真7のタイミングで既に最高点に達しており、これがいわゆる「ブロックの完成する前に打てる」状態です。このように「ブロッカーの上から打てる」攻撃こそがファースト・テンポの攻撃であり、これは、全力で助走しセット・アップの瞬間に踏み切って全力でジャンプしない限り、達成されることはないのです。


この理解に基づいてテンポの概念を整理すると、各テンポの違いは図3のように、セット・アップの瞬間からアタッカーが踏み切るタイミングまでの時間の違いだと理解できます。因みに、セット・アップよりも前に踏み切る場合は、マイナス・テンポの攻撃というとらえ方ができますが、これについては次回以降で触れたいと思います。

Photo_4


テンポを規定するのは"はやい"トス?!

図3のように理解すればテンポを規定しているのはトスではなく、実はアタッカーの助走開始のタイミングだという真実が見えてくるはずです。「トスが"はやい"から、ブロックの完成する前に打てる」とよく言われますが、「トスが"はやい"から」ではなく、「早い助走開始のタイミングに見合うようなトスを供給できたから」というのが適切な表現だと言えます。ところが例えば、『月刊バレーボール』2011年1月号p016の木村沙織選手のインタビューを引用すると、彼女は現在の全日本女子の"速い"バック・アタックに関して「・・・テンポが速いから・・・トスを上げるところに先に寄ってまっすぐ入らないと間に合わない」と述べています。この発言からは、「アタッカーがトスの"はやさ"に合わせないと"間に合わない"」という意識が伺えますが、これは一体、どう理解すればよいのでしょうか?


そこで次回2限目からは、全日本女子の"速い"バック・アタックと、世界トップレベルの男子選手が打つファースト・テンポのパイプ攻撃とを、連続写真で比較検討してみたいと思います。


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(※)ブロッカーやアタッカーが踏み切ってからt(秒)後に空中で最高点に到達し、その高さをh(m)、重力加速度をgとすれば、t=√(2h/g)と計算され、60cmしかジャンプしない選手と1mジャンプする選手を比べても空中で最高点に到達するまでの時間は、0.1秒しか変わりません。

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