2008年9月24日 (水)

レゼンデバレー(最終章)- '80年代以降のバレー戦術変遷の「起承転結」

アメリカの3-1に終わった北京オリンピック男子決勝戦。巷の見方には「洗練された(=最先端の)ブラジルのバレーが、泥臭い(=従来どおりの)アメリカのバレーに屈した」的なものが多いが、私はそうは思わない。世界各国の中でも、ここ数年間ブラジルの戦術を最も忠実に追いかけていたのは他のどこの国でもなく、アメリカであったと言っていい。2006年のワールドリーグでの日本対アメリカの試合を見て書いた記事がこちら(その1その2)であり、既にこの時点でアメリカは、もちろんスタンリーが故障していた事情はあるにせよ、マッケンジーという比較的小型の選手をオポジットに配して、4人レセプションシステムを敷き、"脱スーパーエース"の道を歩んでいたし、スタンリーが復活した2007年のワールドカップでも、スタンリー自身は代えられる場面が目立っていた。ヒュー・マッカーチョン監督の「このチームにスーパースターは要らないんだ」という言葉を、まさに象徴する采配であった。以前からスパイクサーブの威力はもちろんのこと、スーパーエースとしての役割を立派に果たすだけの攻撃力は持ち合わせていたスタンリーだったが、早いテンポの攻撃をこなすことは出来なかったし、レセプションに参加することはなかった。しかし、北京の舞台で、スタンリーはアンドレのスパイクサーブの場面で、レセプションに参加した。攻撃面でも以前よりテンポは早くなった。一見するとさほど早くは見えないかもしれないが、ライト側からの攻撃に対してブラジルのブロック陣がデディケートでは間に合わなかったのだから、それは充分にファーストテンポだと言っていいだろう。そして、勝負のかかった第4セットで、そのスタンリーにほとんどトスを上げないトス回しを見ても、チームの方向性として十二分に"脱スーパーエース"を達成されていたと言えよう。さらには、グスタボにひけを取らないディグ及びセットアップを見せたセンターブロッカーのリーとミラー。アメリカの金メダルポイントは、スタンリーによるライトからのバックアタックによってもたらされたが、それはセッターのロイ・ボールがファーストタッチを行った場面でのトランジションで、ミラーがセットアップを行って産まれたものだった。確か、アテネオリンピックの決勝戦では、ブラジルの金メダルポイントは、グスタボのセットアップの連続から産まれた(はずだ)。2大会連続で、このようにセンターブロッカーのトランジションでのセットアップから金メダルポイントが生み出されるという「偶然」は、センターブロッカーの役割が、従来のアメリカ型"分業システム"における「ブロックの中心」から「ディグ及びトランジションでのセットアップの中心」に変わったことによる「必然」とも言えるかもしれない。

ブラジルの戦術を忠実に模倣する中で、これまでどこの国も真似ができなかった"ブラジル相手のデディケートブロック"。世界各国は王者ブラジルを相手にすると、常にライト側からのテンポの早い攻撃を意識せざるを得ず、結果的に後衛レフトのファーストテンポ・パイプ攻撃及び、前衛センターの速攻にやられる・・・以前から何度か書いてきたとおり、バレーにおける攻撃の従来のセオリーは「自チームのエースのレフト攻撃に対する相手チームのブロッカーのマークを、いかにセンターの速攻によって減らすか?」ということが鍵であったが、バンチ・リードブロックシステムの時代となり、セオリーはまるで逆になった。新たなセオリーは「両サイドの攻撃を意識させて、相手チームのブロッカーをスプレッドで構えさせて、マークが甘くなった中央からの速攻あるいはパイプ攻撃でいかに点数を稼ぐか?」である。その意味でブラジルは、相手チームのブロッカーをスプレッドで構えさせることに、試合が始まる前から既に成功していたわけだ。ところが、オリンピックでの決勝戦という大一番で、遂に王者ブラジルとブロック戦術面でも同じ土俵に立てたアメリカ。ブラジルのライト側からのテンポの早い攻撃に対しても、デディケートで対抗できるくらいに、レフトプレーヤーのプリディーとサーモンがブロックシステムの要の役割を果たせるようになった証だった。その現実が、レゼンデ監督をしても冷静さを失わせる結果になった。オポジットのアンドレを2セット目からムーリオに代え、さらに勝負を決する4セット目にはレフトのダンテをオポジットに配するという、一種の賭けとも思える判断をさせる結果となった。一方ヒュー・マッカーチョン監督は、いたって冷静だった。追い込まれた状況で、セッターのマルセロがどのようなトス回しをするかをあらかじめ想定した上で、2セット目に敢えてデディケートを敷いてブラジルのライト側の攻撃を「おびき寄せて」アンドレを潰しておいて、3セット目からは追い込まれたマルセロのセットアップ位置を見て、ブロックシステムの瞬時の切り替えを行って対応するという、前回の戦いでの勝ちパターンに持ち込んだ。4セット目には、レゼンデ監督の焦りが、ブラジルコート上の選手達にも如実に伝わっていた感があった、、、監督が必死にライト側の攻撃をアメリカに意識させようと、オポジットの選手を目まぐるしく代えても、追い込まれた選手達は結局ジバに頼らざるを得なくなった。一番大事な、北京オリンピックでの決勝の舞台で、追い込まれたブラジルの選手達は、肝心の場面で自分たちのバレースタイルの根幹であったはずの「左右対称性」を見失ってしまった・・・。一方のアメリカのコートには、冷静に相手ブロッカー陣を見たトス回しを行うロイ・ボールがいた。勝負のかかった第4セットで、この日大活躍だったスタンリーに、最後の最後の場面まで、一度もライト側にはトスを上げなかったロイ・ボール。マルセロがアメリカのブロック陣にトス回しを読み切られてしまったのと対照的に、ロイ・ボールのそのトス回しを、ブラジルは最後まで捉えきれなかった。常にアメリカが先に仕掛け、それに対応しようとするブラジルが後手後手に回る、そういう決勝戦だった。

常にアメリカが「先に仕掛ける」ことが出来た理由に、"データバレー"の進化があるように感じる。"データバレー"と言えば、過去の試合や当日の試合での相手チームの攻撃のパターンやブロックの戦略などを分析して、それに対する対抗策を練るというものであっただろうが、この決勝戦でのアメリカの戦い方を見ていると、さらに一歩進んで、あらかじめ自チームが相手に対して採る対抗策に対して、相手チームがどのように対抗してくるのかまでもをあらかじめ予想して、その通りに相手が対抗してきた際にまたどう対抗するのかまで考えておくというような、まるで将棋やチェスの世界のような次元に進化している気がする。(第9章)でスタートローテーションの戦術に絡めて書いたが、ゲーム展開中に、迅速にデータをフィードバックするベンチワークはもちろんのこと、さらに一歩進んで、あらかじめ相手の出方を予想しておいて、相手が仕掛けてきたのをすぐに察知してまた別の手を出す、、、その領域に"データバレー"は入ってきている気がする。そのためには、ベンチの指示を待っていたのでは遅く、コート上の選手一人一人が試合の各局面、ラリー中にでも相手の出方を見てすぐに対応できなければならないだろう。ブラジルのブロック陣を常に意識してトス回しを行ったボールに対し、ブラジルベンチの指示を受けてセットアップを修正したマルセロ。試合の局面局面で、ブロックシステムを柔軟に切り替えたアメリカに対し、試合開始から終了までデディケートを崩さなかったブラジル。"徹底したデディケートブロック"は、ブラジルの強さの象徴でもあったが、同じ土俵に並ばれたアメリカを相手にしては、やはり柔軟性が必要だったであろうと思う。

バレーボール発祥国でありながら東欧諸国よりも遅れを取っていたところに、'80年代に入って「2人レセプションシステム」に代表される"分業システム"・"データバレー"・"リードブロックシステム"といった、現代バレーの根幹とも言える戦術を編み出すことで(=「起」)、ロサンゼルス・ソウルとオリンピック2連覇の偉業を成し遂げたアメリカ。この現代バレーの根幹とも言える戦術が、ソウルオリンピックを境にして一気にヨーロッパ各国へと広がる中で、'90年代に入るとジャーニに代表されるような世界に名だたる"スーパーエース"の登場・"Data Volley"というソフトの完成・より洗練された"バンチ・リードブロックシステム"の完成を見て、イタリアの黄金時代(=「承」)が訪れた。2000年代に入ると、アメリカ型"分業システム"を進化させた"脱スーパーエース"・ファーストテンポ・パイプ攻撃を基軸とした"テンポの早い立体的3Dバレー"・"バンチ・リードブロックシステム"に代わる"徹底したデディケートブロック"による男子ならではの組織的ブロック戦術を、女子バレーならではトランジションの戦術と融合させるという、"レゼンデバレー"が大成(=「転」)。ブラジルの黄金時代が永遠に続くのかと思われた次の瞬間、そもそもの現代バレーの根幹とも言える戦術を編み出したアメリカ自身が、その"レゼンデバレー"の本質を忠実に模倣し、アメリカ型"分業システム"の究極の進化版としての「ブロックシステムの要となるレフトプレーヤー・トランジションでのディグ及びセットアップの要となるセンターブロッカー・常にテンポの早い攻撃に参加しつつ、時にレセプションも参加できるオポジットプレーヤー・5−2システムにおける、セカンドセッターの役割を果たすリベロプレーヤー・ブロックの穴にならないセッター」という最高レベルのバレースタイルを、北京オリンピックの舞台で我々バレーファンにまざまざと見せつけて(=「結」)くれた。ここに、アメリカによって始まった'80年代以降の現代バレーの戦術変遷が、再びアメリカによって「起承転結」が結ばれた形となったのは、何とも印象深い結末だった。

レゼンデバレーは、レゼンデ監督がブラジル女子ナショナルチームの監督に就任して以来、常に進化を続けていたが、残念ながら昨年のワールドカップから北京オリンピックまでの間には、進化は見られなかった。いや正確には、レゼンデバレーの集大成は、やはり2006年の世界バレーの決勝戦だったのだ。その後の(第7章)〜(第9章)はあくまで、(第8章)で奇しくも表現したとおりに「"リカルド抜きで"戦う術」としての「迂回路」であって、決してレゼンデ監督が望んで通った道ではなかったのではないかと思う。結果的に(第10章)で「死角」として書いた、マルセロとロイ・ボールのトス回しの違いが、北京オリンピックの決勝でも勝負の鍵を大きく握ることに繋がった。相手チームがデータバレーを駆使してどのような戦略に出るか? それを先読みして、相手チームの戦略の裏を如何にしてかくか? ブラジルベンチよりもアメリカベンチ及び、セッターのロイ・ボールが、明らかに勝っていたのだ。

グスタボも代表を退く意向とのことであり、もう2度と見ることはできないのかもしれないが、出来ることならやはり、2006年の世界バレーの時の(即ちリカルドのいる)ブラジルと北京オリンピックのアメリカの戦いを見てみたかったというのが本音だ。


p.s.: 皆様から頂いているたくさんのコメントに対し、レスがいつもながら遅れていることをここでお詫び申し上げます。もう少しお待ち下さいませ。

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2008年9月15日 (月)

(北京オリンピック男子決勝)ブラジル - アメリカ(その3)

ブラジルのサーブから始まる第4セット、レゼンデ監督はアメリカが最初のサーバーをスタンリーにするためにスタートローテーションを「1つ戻して」くることを想定して、敢えて第3セットとはスタートローテーションを動かさずにスタート。その予想は的中し、スタンリーのサーブの場面では、狙い通りにセルジオが中央を守るローテーションが当たることとなる。さらにスタメンは、前セットでスタンリーを止めることに成功したムーリオをそのままレフトで使い、代わりにオポジットにアンドレでなくダンテを入れるという、普段見せないシフトを組んでくる。これが吉と出るか? 凶と出るか?

セッターのマルセロは、前セットの反省を踏まえ、セット序盤からアメリカのブロック戦術を逆手に取る形で、ネットから離れた位置でのセットアップでは速攻を使い、ネット際でのセットアップでは両サイドの攻撃を使い始める。狙い通り、アメリカのブロック陣は1枚にされて、久しぶりにブラジルリードでのファーストテクニカルタイムアウト。セット中盤では一進一退となるも、ムーリオの気迫溢れるプレーで16-14とセカンドテクニカルタイムアウトもブラジルがリード。さらにグスタボがプリディーを見事にシャットして、19-16と3点差となり、ブラジルがじりじり引き離しかける。お互いにサーブミスが続いて、20-17。ここで、再びマルセロのセットアップがネットから離れたところで、マルセロが速攻でなく、ムーリオのファーストテンポ・パイプ攻撃を選択してしまい、リーが見事にシャットして、20-18。直後、プリディーのスパイクサーブがムーリオのレセプションを乱して、ジバを3枚ブロックでシャット。20-19とアメリカが追い上げる。その勢いに乗って、スタンリーの軟打がラッキーにもブラジルコートに落ちて、遂に20-20の同点。ここで、この試合の最大のポイントが訪れる。ブラジルの5−2システムにおけるセカンドセッターであるリベロのセルジオが、トランジションでの後衛レフトの位置からのセットアップで、素直にオポジットのダンテにトスを上げるかと思いきや、アメリカのブロック陣の「裏をかこうと」レフトのジバにトスを上げた。結果は、リー・スタンリーの2枚ブロックのプレッシャーに負けたジバの弱気な軟打が、ネットにかかって20-21。「裏をかこうと」したつもりだったのだろうが、2セットを奪われて追い込まれていたブラジルのコート上の選手達の本当の気持ちは、「ジバに頼りたい」というものだったに違いない。代わる代わるオポジットの選手を代えて、何とか「左右対称性」を維持しようとしたレゼンデ監督の意図とは裏腹に、この大事な大事な第4セット終盤になって、レフトのジバに頼ってしまったブラジルの選手達、、、ここからブラジルのコート上の選手達は、これまでどんな状況(レセプション・トランジション)でも「確率高く"テンポの早い立体的3Dバレーを展開してきた」チームとは思えない、緩慢なプレーに終始し始めた。前衛レフトのジバ以外の選手達は、マルセロやセルジオがセットアップする状況で、スパイク助走に切り込むのをすっかり忘れて、ジバに上がるトスをただ呆然と眺めていた、、、。結果は想像に難くなく、ジバらしからぬ連続スパイクミスで、20-22。さらに弱気な軟打がスタンリーのブロックにかかって、21-23。もうブラジルは、ジバにしかトスが上がらない。一方のアメリカのセッター・ボールは、実はこの第4セット、前セットまで大活躍のスタンリーに対して、最後の最後に至るまでライト側には全くトスを上げなかった。それでもブラジルのブロック陣は、デディケートブロックは崩さないものの、アメリカの速攻に対してセンターブロッカーのグスタボやアンドレ・エレルがコミットで跳ばされてしまった。それはボールのトス回しもさることながら、こちらに図解(写真解?)されているとおり、アメリカのコート上の選手達が、ブラジルのお株を奪う様にボールのセットアップの瞬間にはスパイク助走に「真面目にサボらず」きっちり確実に切り込んできていたからだ。22-23の場面で、ボールはパスが乱れたトランジションの場面でミラーの速攻を選択。それがノーマークでブラジルコートに突き刺さったのが何とも象徴的だった。そして最後の最後に、遂にスタンリーのC1攻撃(バックアタック)を使い、それは決まらなかったものの、直後のトランジションで託されたハイセットでジバのディグを大きく弾いて、23-25。セットカウント1-3。これまで、高度な組織バレーとしての「全員バレー」を展開してトップを走ってきたはずのブラジルが、大事な場面でジバ一人に頼った形となって、最後まで「全員バレー」を崩さなかったアメリカに屈した瞬間だった。


この流れのまま、レゼンデバレー(最終章)へ突入することとする。


p.s.: 不動のスタメンに対して、普段は親しみを込めて、サザエさん風に『シャケさん』・πヲタ的に『リーさん』などと個人的に呼ばせて頂いていたアメリカ男子ナショナルチームが、ウィズ(バックマン)の御主人であるヒュー・マッカーチョン監督の下で金メダルを獲得したことに、πヲタとしても感無量の北京オリンピック男子決勝戦だった。

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2008年8月31日 (日)

(北京オリンピック男子決勝)ブラジル - アメリカ(その2)

第2セットのアメリカの勝因の一つは、誰の目にも明らかなようにスタンリーのスパイクサーブにあった。第1セットのスタートの瞬間はテレビ中継が間に合っていなかったので確認できないが、解説を当てにする限りは(その解説が事実に反することはしばしばあるのだが・・・)、第1セットの最初のサーバーはスタンリーではなかったと受け取れるので、ヒュー・マッカーチョン監督がスタートローテーションの戦略を第2セットから変えて、ワールドカップ2007でブラジルを倒した際と同じく、レセプションからスタートするセットに対してサーブからスタートするセットでスタートローテーションを「1つ回し」て、常にスタンリーのサーブから始まるようにしたというのが成功した形と言える。さらに言えば、そのスタンリーのサーブの際のブラジルのローテーションが、レセプションフォーメーションを組む3人のうちの中央を、リベロのセルジオでなく後衛レフトのジバが務めるローテーションであったこともアメリカに有利に傾く要因であったと言え、実際レゼンデ監督は第3セット、ヒュー・マッカーチョン監督が恐らくはスタートローテーションを一つ回して、スタンリーのサーブから始めるだろうと予想した上で、スタートローテーションを逆に一つ戻して、リベロのセルジオが中央を務めるローテーションが当たるようにずらしてきた。それが功を奏し、セット序盤での連続失点を免れたブラジル。更には、第2セット終盤にアメリカのデディケートブロックを崩すことに成功し、スタメンもオポジットにアンドレを戻してきたレゼンデ監督。ここまではブラジルの勝ちだった。

しかし、1-1の場面で、アメリカのブロック陣がデディケートでなくなった状況で「待ってました」とマルセロが上げたジバのファーストテンポ・パイプ攻撃に、リーが見事にリードで対応してシャット。実は、第3セットに入り、アメリカはまたブロックシステムを変えてきたのだ。1・2セットでのマルセロのトス回しから、アメリカベンチには、マルセロがネットから離れた位置でのセットアップでは速攻をほとんど使っていないことがデータとしてはじき出されていたはずだ。そう、ワールドカップ2007での対戦と同じく、第3セットに入ってアメリカのブロック陣は、ブラジルのレセプション・ディグがネット際の理想的な位置に上がると、サイドブロッカーはスプレッドに構えてセンターブロッカーは速攻にコミットで対応、レセプション・ディグが乱れるとバンチで構えてファーストテンポ・パイプ攻撃か両サイドのファーストテンポの平行をマークするという、瞬時のブロックシステムの切り替えを採り始めた。1-1の場面でのジバのファーストテンポ・パイプ攻撃に対しては、レセプションが少しネットから離れてしまったために、アメリカのブロック陣は速攻はほぼ無視して、ファーストテンポ・パイプ攻撃に対応できたわけだ。これで、ブラジルのセッター・マルセロが迷い始める。せっかく狙い通りに、アメリカのブロック陣の敷くデディケートを崩したのに、肝心のファーストテンポ・パイプ攻撃が決まらないわけだから。続く3-2の場面では、パスがネット際にきちんと上がって、リーはグスタボの速攻にコミットで跳び、結果はブロックアウトにはなったものの、シャットされていてもおかしくないプレーであった。その後も数本マルセロは速攻を使うが、いずれもアメリカのブロック陣がコミットでプレッシャーをかけていて決まらず。中央の攻撃が通用しないため、マルセロはネットから離れた位置での速攻をますます選択しなくなり、両サイドの一辺倒のトス回しとなる。ダンテのファーストテンポ・レフト平行(51攻撃)でセット中盤を何とか凌ぐが、11-9のアメリカリードの場面で、やはりネットから離れた位置からのセットアップとなったところで、マルセロが選択したアンドレのファーストテンポ・ライト平行(C1攻撃)に、アメリカのブロック陣は2枚ブロックが完成してシャット。これで、アンドレは完全に潰された。じりじりアメリカのリードが広がりはじめ、14-11。ここで、久々にダンテのファーストテンポ・パイプ攻撃を選択するが、やはりネットから離れた位置でのセットアップのため、グスタボの速攻はほぼ無視してリーがリードでダンテに遅れながらも対応しており、結果はブロックアウトでブラジルのポイントとなるが、マルセロとしては決まった気がしないプレーだったはずだ。一方、アメリカは前セットのサーブから乗ってきたスタンリーの攻撃が勢いを増す。デディケートではスタンリーのファーストテンポ・ライト平行(C1攻撃)を止められず、20-15の劣勢の場面でレゼンデ監督は、潰されたアンドレに代えてブルーノ、マルセロに代えてサムエルという2枚替えを選択するとともに、それまでセット中盤を攻撃面で活躍していたダンテをムーリオへ代えてまで何とか、スタンリーを止めようという策に出る。これが成功し、ブルーノのサービスエースで20-16とした直後、代わったムーリオ・グスタボの2枚で見事にスタンリーをシャット。20-17と追い上げムードに入る。長いラリーをグスタボが速攻で決めて、21-19の2点差。しかし、ムーリオがサーブミスで22-19。直後、レセプションが乱れたところで、ムーリオのファーストテンポ・パイプ攻撃をブルーノが選択、アメリカのブロック陣は当然、バンチで構えて速攻をほぼ無視しており、見事に2枚ブロックが完成して、そのプレッシャーに負けてムーリオがスパイクミス。最後は、サムエルのサーブミスで25-21。アメリカがセットカウント2-1と、王手をかける。

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2008年8月28日 (木)

(北京オリンピック男子決勝)ブラジル - アメリカ(その1)

現在のブラジル男子ナショナルチームの戦術は、レゼンデバレーとしてまとめたとおりであり、世界各国がここ数年、常に追いかけ続けてきた戦術である。しかし、各国がその戦術を採り入れた頃には、もう既にブラジルは先へ一歩進歩しているのがこれまでの現状だった。

中でも(その3)で書いたとおり、世界の強豪国を相手にブラジルが常に徹底してデディケートブロックを敷いているのに対して、相対する各国はブラジルを相手にデディケートブロックがなかなか使えないという点については、ブラジル優位の図式が長年崩れない大きな要因となっていた。昨年のワールドカップでブラジルに唯一土を付けたアメリカをしても、ブラジル相手にはデディケートは使えなかった。

ところが、北京オリンピック決勝という大舞台において、第1セットで王者ブラジルに序盤からリードを許す沈滞ムードの中、アメリカはセット終盤から、何とデディケートを敷き始めたのだ! 22-17のブラジルリードの場面で、ダンテがファーストテンポ・パイプ攻撃を打つ際にペネトレーション(アタックラインの踏み越し)を犯すシーンが、体育館天井からのカメラアングルでリプレイされるのでビデオを撮っている方は確認して頂きたい。ヒュー・マッカーチョン監督によるこの指示は、残念ながら第1セットでは功を奏さなかった。実際、先ほどの22-17の場面で言えば、せっかくブラジルのレフト側の攻撃に対してデディケートしているにも関わらず、レフトブロッカーのサーモンがゲスブロックしてしまって2枚替えで入っていたムーリオのファーストテンポ・ライト平行(C1攻撃)のブロックに跳びに行ってしまっていた。これではデディケートブロックを敷く意義・・・相手のファーストテンポ・パイプ攻撃の決定率を下げるという目的が果たせなくなってしまうからだ。第1セットは終始ブラジルペースで、25-20。

しかし、セット間でヒュー・マッカーチョン監督の意図がアメリカの選手達にきちんと伝わったのか? 第2セットに入り、1-0で回ってきたスタンリーのサーブでの場面で早速、ブラジルのレフト側の攻撃に対してデディケートしているレフトブロッカーのサーモンとセンターブロッカーのミラーが、アンドレのファーストテンポ・ライト平行(C1攻撃)に対して、ゲスブロックでなくきちんとリードブロックで2枚ブロックが見事に完成してシャット。これまで、世界各国がブラジル相手にデディケートできない根拠に、ブラジルのファーストテンポ・ライト平行(C1攻撃)のテンポが早すぎて、デディケートブロックでは間に合わないということがあった。ところが、第2セットのこの場面は、レフト側にデディケートしていてもブラジルの繰り出すファーストテンポ・ライト平行(C1攻撃)に対して、リードできっちり空中で間に合うレベルにまで、アメリカのブロック技術が追いついてきたことが証明された瞬間だった。自信を深めたアメリカのブロック陣は、以降もデディケートを崩さない。スタンリーの強力なスパイクサーブもどんどん勢いを増し、サービスエースを含めて何と5連続得点で6-0。たまらずレゼンデ監督は前衛ライトにいたオポジットのアンドレをムーリオへと交代させる。中継での解説で述べられていたように、オポジットのアンドレを本来レフトプレーヤーであるムーリオへ交代させることで、4枚レセプションを敷いてスタンリーの強力なスパイクサーブに対抗しようとした意図も確かにあっただろうが、恐らくレゼンデ監督の本当の意図は、アメリカがデディケートブロックを敷いてくるのを崩すことにあったと想像する。この日のアンドレでは、アメリカは自信を持ってデディケートブロックを続けるであろうから、誰か別の選手、それもスーパーエースタイプの選手(アンデルソン・サムエル両選手など)ではなくて、ファーストテンポの攻撃を得意とする選手をオポジットに配して、ライト側のテンポの早い攻撃を意識させたかったのだろう。案の定デディケートを続けたアメリカは、7-1のリードの場面でグスタボの速攻にレフトブロッカーのプリディーがコミットし、センターブロッカーのミラーとライトブロッカーのボールがジバのファーストテンポ・パイプ攻撃に対してリードブロックで跳ぶ形でセッターのマルセロにプレッシャーをかけ、結果的にジバが再びペネトレーションのミスを犯す結果に繋がって、8-1のアメリカ大量リードでの最初のテクニカルタイムアウト。しかし、この直後からブラジルは、予想通りムーリオのファーストテンポ・ライト平行(C1攻撃)を多用。それに対してはアメリカのブロック陣も捕らえきれない。徐々にアメリカのデディケートブロックが崩れ出す。逆に今度はブラジルのデディケートブロックが機能し始め、3連続ブロックポイントで、気づけば17-15と2点差。ここから一進一退の攻防となり、セット終盤へ。21-19から、ブラジルはピンチサーバーのブルーノがアメリカのレセプションを崩して、ワンタッチを取ったボールをトランジションでジバがバックアタックで決めて、遂に21-20の1点差。続くブルーノのサーブも、狙いどおりアメリカのレセプションを乱すが、ミラーが何とか決めて22-20。そしてここでアメリカは、スタンリーのサーブが回ってきて、見事なサービスエースで23-20。このセットはスタンリーのサーブ力がものを言い、25-22でアメリカが取り返して、セットカウント1-1。

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2008年8月25日 (月)

北京オリンピック・・・もう少しお待ち下さい

やはりオリンピックは面白いですね。男子が久々に出場権を獲得してくれたお陰で、毎日のようにバレーが見られたのが幸せでした。なかなか生では見られずに寝ぼけ眼で夜中に見る毎日でしたが。

さて、書きたいことが山ほど溜まってしまっていますが、、、『スピードではなくテンポ』もまだ続きがあるのですが、やっぱり男子決勝を目の当たりにすると、それから書いてしまう予感がします。王者ブラジルが3大大会で敗れる日が遂に訪れましたね。この決勝戦、アメリカに勝機があることは第1セットから伺えました。それが第2セットで、レゼンデ監督がアンドレをムーリオへ交代させる伏線となりました。さて、そのアメリカの勝機は何だったでしょうか? レゼンデバレーをすべて読んで頂いている方なら、恐らくわかってもらえると思います。そうです、遂にアメリカ男子ナショナルチームは、戦術的にブラジル男子に追いついたのです。答えは、次回のエントリーで。

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