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2017年5月24日 (水)

#眞鍋JAPAN総括(その3)〜組織論の視点からの総括〜

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photo by FIVB

(この記事は『バレーボール・スクエア』に寄稿したものです。)



◎選手の力を「正当に」評価できていなかった監督・スタッフ陣

 もし眞鍋監督が『テンポ』の概念を本当に理解していたなら、迫田選手がセッターに近接するスロットから披露した 1st tempo のクイック(=「コミットしても止まらない11」)を手本として、本職のMB(ミドル・ブロッカー)陣に同じようにプレーさせればよかったわけです。MB陣が本来持っている力を引き出せなかったのは、自身が追求した「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間(以下、『経過時間』)を短縮させる」方針に象徴されるような、「攻撃に求められる“はやさ”に対する本質的な誤解」が理由ですから、その点をいさぎよく認めて、選手1人1人にきちんと理解させれば、日本のMB陣が持っている本来の攻撃力を引き出すことも達成可能だったはずです。

 そのことは、2016/17シーズンでNECレッドロケッツのMB陣が、特定の選手だけでなくリザーブの選手も含めシーズンを通して活躍し、2年振りの優勝を飾ったことで見事に証明してくれたと思います。


ポジション争いが激化するチームの中で「自分がミドルの軸になりたかった」という大野は、優勝の喜びをかみしめながら目を潤ませた。

「チーム全員が『1本目のパスを丁寧にしよう』と心掛けて、(近江)あかりさんや(リベロの鳥越)未玖が出してくれるパスのおかげで攻撃に入れました。・・・(中略)・・・」

ファーストレグや天皇杯で勝てず、スピードを武器とする久光製薬や日立リヴァーレに敗れるたび、「自分たちもトスのスピードを速くするバレーに切り替えなければ、勝てないのではないか」と迷うこともあった。だがそんな時、山田監督は選手たちに訴えかけた。

「夏からやってきたバレーは間違っていない。絶対に結果は出るからこのまま貫こう」

迷いを消し、やるべきことを全員が果たす。地道にコツコツと積み重ねてきた成果は、決勝で見事に花開いた。

「抜群のチーム力でVリーグを制したNEC 苦しい状況を救ったリザーブの選手たち」(田中夕子『スポーツナビ』)より引用 ≫


 ところが、迫田選手の 1st tempo のクイックの成果を基にして、次に眞鍋監督が出してきた「ハイブリッド6」という発想は、得点力の低いMBを「コートから排除する」というだけの「選手の配置システム変更」に過ぎず、日本のMB陣のモチベーションを下げる結果を招いた(※1)だけでなく、 眞鍋JAPAN の一期目の輝かしい戦績に大きく貢献したMB陣を、監督・スタッフ陣が正当に評価していなかったことの何よりの証拠でした。

 何度も書いて恐縮ですが、2010年の世界選手権で32年振りのメダルを獲得できたのは、柳本前監督時代にないがしろにされていたブロック戦術の組織化に、一から取り組んだからです。WS(ウイング・スパイカー)陣をMBのポジションに据える「ハイブリッド6」の採用によって、一期目の4年間をかけて築き上げてきた組織的なブロック戦術が、根底から崩れてしまいかねないことは誰でも容易に想像がつくはずです。


 案の定「ハイブリッド6」で臨んだ2014年の世界選手権で日本は、Rebounds(※2)を稼げなかった(図3-2 ※3)事実や、相手の攻撃に対して“どの程度ブロックに当てることができていたか”を示す指標として「#眞鍋JAPAN総括 ⑥ ~ “総合的な” ディフェンス力はどうだったか?~」で提示された block contacts が、一期目(2009-2012)より二期目(2013-2016)で大きく低下した(表4)事実が、データから明らかとなっています。

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2014年の世界選手権での日本のブロックとディグの成績を、全チームの成績の中での相対的な「立ち位置」として評価したグラフ。1次ラウンド・2次ラウンドとも全チームの中で見るとReboundsが取れていないことがわかる。)

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一期目(2009-2012)と比して、二期目(2013-2016)では他国以上に日本のblock contactsの数値が低下しており、世界から「引き離された」ことがうかがえる。)



◎メディア関係者とスタッフ陣から“裸の王様”にされた眞鍋監督

 ロンドン五輪以降「ストップウォッチを片手に『経過時間』を測りながら、スパイク練習をする」様子や、「『経過時間』の短縮を目指す」という監督自身の発言が、メディアからあまり発信されなくなったのは、想像するにバレーを主に扱う日本のメディアが、こうした点を意図的に隠すようになったからだと思います。

 なぜなら、前回(#眞鍋JAPAN総括(その2)〜指揮官の迷走を軌道修正させていたもの〜)で書いたように、『テンポ』に関する正しい理解がロンドン五輪前後から、ファンだけでなく一部のバレー関係者の間にも少しずつ広まったことで、「『経過時間』の短縮を目指す」という監督の方針がロンドン後も変わっていない事実が表に出れば、眞鍋JAPAN への批判が高まる懸念が十分に想定されたからです。

〜 JSVR 日本バレーボール学会 ニュースレター No.19 遠藤俊郎会長(当時)による巻頭言(2012年10月31日)より引用(http://jsvr.org/archives/pdf/newsLetter/19/pp01.pdf)〜

「しかし、もちろん眞鍋ジャパンも全てが順調という訳ではなく、一時は攻撃の速さを追求するあまりスパイカーに窮屈な思いを強いる結果となり、全体的なオフェンス力の低下を招いたこともありました。これは攻撃の速さを「低くて速いトス」に固執したことに起因していました。JSVRでは『Volleypedia (バレーペディア) 改訂版 Ver 1.2』を2012年4月 28 日、日本文化出版より出版いたしましたが、その中で攻撃の速さに関する考え方をセッターのセットアップとスパイカーの動き出しとの関係から「テンポ」という概念で説明し、攻撃の速さはトススピードやトスの高さから生み出されるものではないことを指摘しました。」


 バレー、特に日本で開催される国際大会を扱うメディアにとって、全日本チームの人気が下がることは大きな痛手です。眞鍋氏が全日本監督に就任前に所属していた久光製薬という大企業が、そうした国際大会や地上波中継のスポンサーを兼ねていることも、当然影響するでしょう。

 スポーツ・マスコミが社会に果たす役割について、スポーツ新聞記者である後藤 新弥 氏は「もはや今日ではマスコミは『報道者』だけにとどまらず、『報道を通して、スポーツを発展させようと努力する者』と自動的にみなされている」と述べています(※4)が、現在の日本のメディア関係者は「報道を通じて、日本のバレーを発展させよう」とか、「日本のバレーの未来を明るいものにしよう」というような意識を、残念ながら持ち合わせてはいなかったのです。

 自分たちの「目先の」利益を優先するあまり、指揮官が批判の矢面に立たされることを回避しようと行動したツケとして、眞鍋JAPAN の迷走はロンドン以降さらに加速。最終的にリオ五輪本番で準々決勝敗退という、金メダルを目指していたチームとしては「惨敗」としか言いようのない結果が出てしまった後にようやく、隠されていた「決定的な事実」が白日の下にさらされました(※5)。

「オリンピックメンバーに絞られてからの合宿で、監督からトスを速くしろと言われて、大会が始まってからもそれを言われていて、トスを速くすることに必死になりすぎて、自分が大事にしなければならないポイントを忘れてしまっていた。」(宮下 遥選手)


 全日本チームの「目先の」人気が失われることばかり恐れるメディアにより、正当な批判を浴びるチャンスすら与えてもらえなかった眞鍋監督は、リオ五輪での金メダルへの挑戦権さえも、同時に奪われてしまったのです。



 振り返るに、私がリオ五輪で 眞鍋JAPAN が惨敗することを確信したのはロンドン五輪の翌年、2013年2月の日本バレーボール学会(以下、バレー学会)第18回大会に参加した時でした。

 「世界トップ・レベルからみた日本バレーボールの現状と課題」をテーマに開催された同大会では、直前まで 眞鍋JAPAN のコーチを務めていた安保 澄氏ならびに、アナリストの渡辺 啓太氏が登壇しました。その中で渡辺 啓太氏は「試合前に自分が行った分析が、試合後にどう活かされたのか、果たして有効だったのかに関して、検証が行えていない点が反省点である」と明言しました(※6)。この発言は要するに、 眞鍋JAPAN がPDCAサイクルにおける「C:チェック」の部分を、遂行できるチーム組織ではなかったいう事実を、吐露したに他なりません。


 さらに私は、前年のJVA科学研究委員会で安保氏を含め、眞鍋JAPAN のコーチ陣にプレゼンした際に出した「宿題」を、彼らが解くことができたかどうか確認する意味で、安保氏に以下のような質問をしました。

「(JVAの科学研究委員会の時に、大久保 茂和コーチから)全日本女子が苦戦するケースというのは、サーブで相手のレセプションを崩しているにも関わらず、簡単にサイドアウトを取られてしまうケースであると聞いていますが、ロンドンオリンピックではその点に関して打開策は立てられていたのでしょうか。」

「サーブで崩していても、サイドアウトを取られてしまう原因は正直わからない。対戦相手によってサーブで崩した後、仕留めることができるチームとそうでないチームがある。その点において日本が不得手としているのはセルビアとドミニカである。」(安保 澄氏)

(バレーボール研究, 15(1), p61, 2013; http://jsvr.org/archives/pdf/issue/15/pp56-61.pdf


 大久保 茂和コーチから「サーブで崩しても、簡単にサイドアウトを取られてしまう」という話を聞いた瞬間に、頭に浮かんだ相手が、まさにセルビアでした。

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 セルビアは当時から、「コミットしても止まらない11」を標準装備した、数少ないチームの1つであったからです。

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 ネットから離れた位置からでも、クイックをあたりまえのように繰り出してくるため、『テンポ』の概念を理解していない人間は、「得体の知れない能力を持った選手が繰り出すプレー」という印象を植え付けられてしまいます。

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 そうした状態では、対策を練ろうにも具体案が出てくるはずもありません。案の定、ロンドン前にも付け焼き刃的に行われていた、「男子選手のスパイクをノー・ブロックでディグする」練習(通称「ライブ・ディグ」)が、ワールドカップ2015に向けた合宿の頃から、かなりの時間を割いて行われるようになりました。


 2014年世界選手権の敗因について、「195センチの選手が1人入るだけで、チームは大きく変わる。その変化に日本は対応できなかった」と語った荒木田強化委員長(※7)に象徴されるように、欧米各国の〝規格外の長身選手が、あり得ない高さから打ち下ろしてくる〟ようなイメージだったのでしょうが、そうやって『テンポ』の概念に関する正しい理解から目を背けている間に、欧米各国どころか、韓国のMB陣にも 1st tempo のクイックを繰り出される羽目になり、最終予選(OQT)・リオ五輪本番と、立て続けに苦杯をなめさせられる結果を招いてしまいました。

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ヤン・ヒョジンが繰り出す1st tempoのクイックが、日本の遅れたブロッカー陣の上を抜けて決まる(リオ五輪より)

 

 リオ五輪の頃には「コミットしても止まらない11」を標準装備する国が、セルビア以外にもたくさん出てくるであろうことは、世界男子のトップ・レベルにおける戦術のトレンドを頭に入れていれば、容易に想像できたはずのことです。リオ五輪でロンドン以上の高みを目指すには、こうした攻撃への対策を十分に練っておかねばなりません。そのために必要な知識は、前年のJVA科学研究委員会で行ったプレゼンの中できちんと提供したにも関わらず「サーブで崩していても、サイドアウトを取られてしまう原因は正直わからない」という、安保氏の回答を聞いた時点で私は、眞鍋JAPAN のスタッフ陣がリオ五輪で金メダルを本気で獲りに行く覚悟を持ち合わせてはいないという事実を、感じ取ってしまったのです。


 メディアにとって、全日本チームの人気が落ちることが、自分たちの「目先の」利益損失を意味するのと同じように、全日本のスタッフ陣にとって「自分を抜擢してくれた指揮官」の名声が落ちることは、自分自身の生活が揺らぎかねない一大事です。

 たとえ泥舟だとわかっていても、沈むのを我慢して最後までつきあえば、「眞鍋JAPAN の元スタッフ」という肩書きを手に入れることができる ・・・ 日本のバレー界の狭い閉鎖空間の中だけで生きていくなら、それだけで一生、安泰なわけです。泥舟だといち早く気づいて然るべき行動に出てしまえば、トカゲのしっぽ切りにあい兼ねません。リオでのメダルより自分たちの生活の方が優先されるのは、考えてみれば仕方のないことです。


 噂ではこうした第18回大会でのやり取りの後「眞鍋監督と荒木田強化委員長は今後一切、バレー学会には関わらせない」という方針が、眞鍋JAPAN スタッフ陣からバレー学会側へ通達されたようです。こうして眞鍋監督は、メディアだけでなく側近であるスタッフ陣からも〝裸の王様〟にされてしまいました。



◎確たる「コンセプト」がないまま、責任は全て、選手に押しつけられた

 そして誰より、眞鍋監督自身が、リオ五輪で金メダルを本気で獲りに行く覚悟を持ち合わせていませんでした。賢明だった彼は、自身が日本代表チームの指揮官を務められる器ではないことを、誰よりもわかっていたのでしょう。それゆえリオ五輪という最終目標を迎えるよりもずっと前から、退任後の自身の居場所の準備を着々と進めていたのです(※8)。

 前任の柳本 晶一氏とは違い、選手に向かって罵声を浴びせるような行動は一切みられず、グッド・コーチたる1つ目の資質「暴力やあらゆるハラスメントの根絶に全力を尽くす」という点(※9)を、間違いなく彼は備えていたと思いますが、3つ目の「常に学び続ける」という資質(※9)を、どこかのタイミングで失ってしまったようです。

...それに気づいた瞬間、「日本女子バレーは、世界のトップチームが採用するスタンダード戦術に対する理解をもっと深めておく必要がある」と、痛感しました。

同時に「日本のやり方だけを貫いて、気がついたら世界標準から取り残されてしまう携帯電話のような『ガラパゴス現象』に陥ってはいけない」といった危機感も覚えました ・・・(中略)・・・ バレーボールにおいても、がむしゃらに日本のやり方だけを追求していては、世界から取り残される可能性があります。

日本代表選手は「世界標準戦術(=デファクトスタンダード)」を熟知して、相手をよく知ることが必要で、その標準戦術はいつでもできる、といった基礎の土台の上に日本のオリジナリティを乗せる形にしなくてはいけません。

・・・(中略)・・・

ブラジルチームは世界の中では平均身長が中くらいのレベルで・・・(中略)・・・高さで優位に立てないにもかかわらず・・・(中略)・・・相手のブロックを翻弄し、攻撃手段を読ませずに次々と鋭い攻撃を決めていきます。

女子バレーボールにも同じような戦術が有効であることを説きました。


 これは2011年に発刊された著書『精密力〜日本再生のヒント〜』(主婦の友社)からの引用ですが、この時点では、彼の頭の中に「世界標準戦術を基本に据えて戦いたい」というコンセプトが、間違いなくあったことがわかります。実際、ブロック戦術の組織化を土台にトランジションの攻撃システムを構築しようと努めていた2010年のワールド・グランプリまでの 眞鍋JAPAN は、端から見ていても方向性が明確でした。ところが、

何か新しいこと、戦術をしないと勝てない。だからいろんなことをしました。「MB1」とか「ハイブリッド6」とか。私が日本以外の代表監督なら、こういうことはしなかったです。普通にやって勝ちたいですよ。でも、それは仕方がないことで日本は背が低いですから。


 監督退任後に語った彼のこの発言(※8)からわかるのは、ロンドン以降「がむしゃらに日本のやり方だけを追求してい」たという事実でしょう。「ハイブリッド6」で選手たちが見せたプレーこそが結果的には、男子の「世界標準戦術」である「同時多発位置差攻撃」と同じコンセプトのプレーでした。要は、日本にとって「何か新しいこと」に思えただけで、世界のトップ・チームは「普通にやって」いることだったのです。

 バレー漫画『ハイキュー!!』を読んでバレーを見始めたファンが、「ハイブリッド6」で戦う全日本女子のプレー・スタイルをテレビで見た瞬間に「これって、同時多発位置差攻撃じゃないの?!」と気づいたくらい簡単なことですから、彼がいかに「『ガラパゴス現象』に陥って」いたかがわかります。

#ハイキュー 読者は眞鍋Japanの "Hybrid 6" の本質を、ちゃんと見抜いていた^^ #vabotter #hq_anime(『togetter』より)


 彼にとってはもはや、「何か新しいこと」でありさえすれば、何でも良かったのです。32年振りのメダル獲得に最も寄与した、組織的ブロック戦術を安易に捨て去ってまで追求した「ハイブリッド6」すらも、「勝つために必要な『何か新しいこと』ではなかった」と判断して、あっさりと捨て去ってしまった2015年以降の 眞鍋JAPAN には、確たる「ゲーム・プラン」も「コンセプト」も存在しませんでした。


 そんな状況にも関わらず、メディアによる意図的な情報隠蔽のせいで、選手は結果を求められ続けました。ロンドンの時には確かに、似たような状況下でも竹下選手が指揮官の暴走を止める“安全装置”として機能し続けたおかげで銅メダルを獲得できましたが、リオ五輪に向けては選手たちにSNS使用禁止令が出され(※10)「自立したプレイヤー」という扱いすら受けていませんでしたので、たとえば宮下選手に竹下選手と同じ役割を期待するのは、あまりにも酷な話でした。


 「#眞鍋JAPAN総括 ① 〜選手のフィジカル、コンディショニングの視点から〜」の中では、眞鍋JAPAN がピーキングに失敗している理由として「プレーの精度を高めようと直前に詰め込むようなことになってしまうからテーパリングも難しくなり、コンディションが整わないまま大会を迎えたり、大会直前に故障や持病を悪化させる選手が出てくるのでは」との推察がありましたが、確たる「ゲーム・プラン」も「コンセプト」もないまま、ただ闇雲にプレーの精度だけが選手に要求されるがゆえ、全体練習のあと選手が自発的に居残り練習を行わざるを得ない羽目に陥り、それが選手のオーバーワークに繋がったと考えられます。

 このあたりは、アンディッシュ・クリスティアンソン監督を迎えて意識改革が大きく進んだ、豊田合成トレフェルサの選手たちが語る言葉との対比から、感じ取ることができるでしょう。

・豊田合成ではコンセプトが明確で、何をどうすればいいか、すごくわかりやすい。全日本ではまだわからないことばかりで、自分が何を期待されているのかもよくわかってません ...(傳田 亮太選手)《『月刊バレーボール 2016年6月号』より引用》

・(豊田合成で)2時間の練習にめいっぱいの体力と神経を使い、練習が終わると「自主練習をする気力すらない」と笑う今は、あの頃の自分とは違う(古賀 幸一郎選手)「ベストリベロ、古賀幸一郎が歩んだこれまでと、歩み続けるこれから。」(田中 夕子『バボちゃんネット』)より引用》


 勝つための具体的な「ゲーム・プラン」も「コンセプト」も持たないまま、リオ五輪に突入した眞鍋監督にとって、選手の〝化学反応〟に期待するしかない(※11)というのは、ウソでも何でもなかったのです。

(リオ五輪の前に取材した時も、先ほど話に出た「化学反応」に賭けるとおっしゃっていましたが、それは少しでも起きましたか?)

起こらなかったです。だから5位だったのでしょう。

(具体的には、何を期待していたのでしょうか?)

それは会見でも言いましたが、わかりません。何かと何かが混ざり合って、化学反応が起こるじゃないですか。爆発力なのか、チームのすごいまとまりなのか、勢いなのか、それはわかりません。

退任した女子バレー眞鍋元監督が語りつくす「2度の五輪と今後の日本」(中西 美雁『web Sportiva』)(※8)より引用》



◎今後ますます求められる 「プレイヤーズ・ファースト」の 環境作り

 先日(2017年3月11・12日)開催されたバレー学会 第22回大会のテーマは「2016リオ五輪を総括し、2020東京五輪を考える」でしたが、そこで登壇した新しい全日本男女の強化委員長のお二方は、リオ五輪(男子はリオ五輪最終予選)に関する総括を、揃いも揃って「自分は当時、外野にいたので何もわからない」と発言しました。

 両氏が強化委員長に就任してから、既に3ヶ月もの月日が経過しています。就任からつかの間ならともかく、「リオ五輪を総括する」ためのシンポジストとして呼ばれた公の場で、このような発言を恥ずかしげもなく行えるということは、#眞鍋JAPAN に限らずJVAという組織自体が、そもそも「何かを総括するという慣習もなければ、人事異動があった際に業務に差し障りが出ないように、即座に引き継ぎ作業を行うという慣習もない」という、何とも杜撰(ずさん)な体質にあることの、何よりの証でしょう。


 ですが、このJVAの体質を批判したところで、問題は解決しません。なぜならバレー学会側も、学会なりの総括というものを準備していなかったからです。バレー専門誌や専門番組も総括を一切していません。誰も総括しないまま、眞鍋氏や #眞鍋JAPAN のスタッフ陣を底辺カテゴリの指導者たちは〝客寄せパンダ〟として、指導者講習会や小中学生バレー教室に利用し続けるし、総括されないからこそ、久光製薬という企業は「全日本女子監督輩出」というブランドを、再び手に入れました。

 JVAの杜撰な体質は、日本のバレーに関わる人間1人1人にとって、バレーが「私利私欲や自己顕示欲を維持する『手段』でしかない」現実を映し出す〝鏡〟 に過ぎないのです。


 こうした悲観的状況の中で、何かを変えられるとすれば、それは「選手自身」以外には考えられません。指導者がどんなに間違った「コンセプト」を押しつけようとも、メディアが都合の悪い情報をどんなにシャット・アウトしようとも、選手が「常に学び続ける」ために必要な情報はネット上にきちんと存在しています。

 バレー漫画『ハイキュー!!』の影響を受けた選手が、今後着実に日本のバレー界の屋台骨を背負う形に、否応がなしになっていきます。底辺カテゴリではもちろんのこと、V・プレミアリーグであれ、日本代表チームであれ、「『常に学び続ける』ことで得た知識を、試行錯誤してプレーに活かそう」とする選手たちを、頭ごなしに否定する指導者が今後も出てくることは残念ながら必至であり、だからこそ、小中学生がバレーを始めたその日から「自立した1人のバレーボール・プレイヤー」として尊重される、「プレイヤーズ・ファースト」の意識改革が根づくよう、ファンも含め、バレーに関わる1人1人の人間の努力が今後ますます、欠かせないものになってくると思います。

・子どもを変える、大人が変わる「プレイヤーズファースト」入門(『サカイク』より)http://www.sakaiku.jp/series/players/2013/005809.html


 総括も引き継ぎもなされないまま、指揮官だけが中田 久美氏へと変わった日本女子代表チーム。先日、スタッフやメンバーが発表となりましたが、そこに確たる「コンセプト」は、果たして存在しているのでしょうか?

〜 日本バレーボール学会 第22回大会プログラム・抄録集 p18より引用(http://jsvr.org/archives/001/201703/58b7f2198b39b.pdf)〜

日本が誇る高度な技術を追求し、緻密なボールコントロール、目標とする場所(ピンポイント)でのバレーを確立させ、ミスを無くす事が課せられた絶対的な条件となるであろう


 確たる「コンセプト」も具体的な「ゲーム・プラン」もないまま、勝利に結びつくエビデンスの乏しい「Aパス至上主義」や「ミスをなくす」といったプレーの精度を選手に闇雲に要求することが続くなら、東京五輪閉幕後に「時間が足りなかった」「精度が低かった」というテンプレの言い訳が、活字となって並ぶことは目に見えています。

 ここに記した総括が、そうならないために役立つことを切に願っています。

 

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1)島村春世インタビュー「大野と二人、全日本の対角でやるのが理想です!」(『バレーボールマガジン』より)http://vbm.link/9842/

2)FIVB主催の国際大会における公式帳票において、ブロッカーの手(腕)にボールが当たった後ラリーが継続した本数が、Rebound(s)として記録される

3)ブロックから見た「ハイブリッド6」(『バレーボールのデータを分析するブログ。』より)http://www.plus-blog.sportsnavi.com/vvvvolleyball/article/145/page/2

4)後藤 新弥:「スポーツ新聞」の制作現場から -大衆娯楽紙の特性と課題- 『スポーツ文化論シリーズ④ スポーツメディアの見方、考え方』(有限会社 創文企画) 

5)サオリン、東京五輪出場に意欲?「Vリーグ終了後に考えたい」(中西 美雁『web Sportiva』より)https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/otherballgame/volleyball/2016/09/14/post_610/index_3.php

6)日本バレーボール学会の機関誌『バレーボール研究』には、「*渡辺氏の講演内容については、渡辺氏が確認し、了解を得た部分について掲載しています」との注釈のもと、当該発言に関しては記録が残されていない http://jsvr.org/archives/pdf/issue/15/pp67-74.pdf

7)「荒木田氏語る 敗因は大型化と調整失敗」(『nikkansports.com』より) http://www.nikkansports.com/sports/news/f-sp-tp6-20141008-1379201.html

8)退任した女子バレー眞鍋元監督が語りつくす「2度の五輪と今後の日本」(中西 美雁『web Sportiva』より)https://sportiva.shueisha.co.jp/clm/otherballgame/volleyball/2017/01/25/___split/index.php

9)新しい時代にふさわしいコーチングの確立に向けて 〜 グッドコーチに向けた「7つの提言」〜(文部科学省 コーチング推進コンソーシアム) https://www.facebook.com/mextjapan/posts/963412310350519 

10)https://twitter.com/kanakanabun/status/764360749246390272

11)女子バレー・集大成のリオ五輪 眞鍋監督「チームワークで金メダルに挑戦」 (『The PAGE』より)https://news.goo.ne.jp/article/thepage/sports/osports/thepage-20160730-00000001-wordleafv.html?page=2

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