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2013年8月11日 (日)

『バレーペディア改訂版 Ver 1.2』に書き切れなかった【スロット】の解説

スロットとは?・・・ネットに平行な水平座標軸を設定して1m刻みにコートを9分割し、数字や記号を用いて呼称するコート上の空間位置。主として、アタッカーがボール・ヒットする位置を呼称するのに用いられる(『バレーペディア改訂版 Ver 1.2』(日本文化出版)より)。


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言わずと知れた(はずの?!)スロット図。

たくさんのバレーファンの要望に応える形で、改訂版の『バレーペディア』では1ページを割く堂々とした見出し語として採用されたわけですが、残念ながら私がそのページで解説したい内容の全てを網羅することは、時間的にも誌面スペース的にも不可能でした。


スロットのキモは、「ネット際からアタック・ライン付近までを含む"空間"である」という点にあります。これが「世界標準のバレーボール」おいて、サーブ・レシーブ返球目標位置を柔軟に扱える土台となっています。


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日本では、セッターの定位置を「セッターのコート上での立ち位置(=点)として」とらえるため、レセプション返球位置がネット際からアタック・ラインへ近づいてしまって、セッターがコート上でネットに垂直方向にエンド・ライン方向に動かされた場合、いわゆるAパス→Bパス→Cパスというように、「想定外のところへ返球された緊急避難的状況」という扱いになりがちです。

一方海外では、セッターの定位置を「スロット0(=空間)として」とらえるため、レセプション返球位置がアタック・ライン付近になったとしても「スロット0」つまり、返球目標位置にきちんと返球されたという扱いになります。


具体例で考えてみましょう。

相手のサーブが打たれる直前、前衛のMBが「11(=スロット1にファースト・テンポの助走動作で入って打つアタック、いわゆるAクイック)」を打つ場面を想定してみて下さい。

サーブ・レシーブ返球位置がアタック・ライン付近になり、セッターがコート上でネットに垂直方向にエンド・ライン方向に動いた場合、日本では前衛のMBはサーブ・レシーブ返球位置に関わらず、Aパスが返球された場合と同じようにスロット1のネット際の位置で踏み切って、結果的にいわゆる「縦のB(クイック)」を繰り出す形になりがちです。「縦のB(クイック)」は、トップ・レベルの選手であっても高度な技術と一般的に認識されているプレーです。

一方海外では、前衛のMBはスロット1の「空間」の中で、セッターとの相対関係を保ったまま、つまり、まるでアタック・ライン付近にネットがあるかのような感覚で、ネットから離れた位置で踏み切ります。


当然ですが、ネットから離れて打ちますから、日本でよく指導されるような「先に跳んで空中で待って、ボールの上がりばなを叩く」打ち方はできません。その代わりに、どのような状況下でも、クイックを繰り出すことが可能になります。

『バレーペディア改訂版 Ver 1.2』では、「レセプション返球目標位置に対する考え方に、日本と海外で、象徴的な違いが見られます」というところまでしか、誌面の制約上、触れることができませんでした。


さらに、本来の原稿はもっともっと続きます。


次に、レセプション返球位置が左右にズレて、セッターがコート上でネットに平行に動かされた場合は、どうすればよいのでしょうか?


これに対する答えの1つは、『セリンジャーのパワーバレーボール』(ベースボールマガジン社)に登場する【流動スロット・システム】です。


流動スロット・システム】なんて聞くと、何だか難しそうな印象ですが、これはスロットの概念が浸透してこなかった日本においても、言われたら「あぁ、自分も無意識のうちに、そうプレーしてたよ」と答えが返ってきそうな、実は非常にポピュラーな方法です。


例えば、レセプション返球位置が自コート上でライト寄りに1mズレた場面では、「11」すなわちAクイックを打とうとする前衛MBは、セッターについてライト寄りに移動することが多いですね。しかし、レフトから攻撃する前衛WSは、当初のサイン通り、レフトのアンテナ付近でボールを打とうとすることが多いはずです。


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つまり【流動スロット・システム】では、レセプション返球位置が左右に動いた場合には、レセプションが返球されたスロットを新たな「スロット0」に読み替え、それに従って各スロットの番号も相対的な位置関係に従って書き換えるのですが、但しスロット5とスロットCだけは固定したまま、なのです。ですから、図1-1のように、本来「スロット4」であった空間は番号のない空間となり、一方「スロットB」という空間は存在しないことになります。

同じように、今度はレセプション返球位置が自コート上でレフト寄りに2mズレた場面を想定して下さい。

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今度は図1-2のように、本来「スロットA」「スロットB」であった空間は番号のない空間となり、一方「スロット3」「スロット4」という空間は存在しないことになるのです。

実は、ここまでが元々の、改訂案の文章でした。【流動スロット・システム】に関しては、誌面上の制約もさることながら、残念ながら上述の内容をイラストレーターの方にきちんと理解してもらった上で単純明快に図示して頂くだけの、十分な時間が取れなかったため、直前で断念した内容でした。


こうやって解説していくと、【流動スロット・システム】というのは非常にポピュラーな方法でありながら、実はかなり複雑なシステムであることがおわかり頂けるでしょう。アタッカーにとってもセッターにとっても、システムに慣れるのにはある程度の訓練を要する結果になります。

こうした複雑なシステムを用いないシステムとしては、単純にレセプション返球位置に関わらずスロットを固定したまま対応する【絶対スロット・システム】があります。しかしこれを用いる場合、セッターがレセプション返球位置に関わらず、決まったスロットに向かってセットしなければなりません。ですから、【絶対スロット・システム】は単純明快である一方で、セッターにはかなりの技量を要求するシステムとなります。


このように、【流動スロット・システム】【絶対スロット・システム】いずれも、初心者段階にはハードルが高いシステムと言えます。そこで、これをもっと単純化して、初心者段階においても「世界標準のバレーボール」が繰り出せる方法として提案したいのが、【相対スロット・システム】です。


相対スロット・システム】では、【流動スロット・システム】同様に、レセプション返球されたスロットを新たな「スロット0」に読み替え、それに従って各スロットの番号も相対的な位置関係に従って書き換えます。それだけです! 従って、場合によっては「スロット6」や「スロットD」「スロットE」といったスロットが出現しますが、アタッカーもセッターも、当初のサイン通りのスロットでアタックを繰り出す前提でプレーしますので、実際に「スロット6」や「スロットD」「スロットE」で攻撃を仕掛けることはありません。

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こうしたシステムであれば、レセプション返球位置が左右にズレた場合でも、ネットから垂直方向にセッターが動かされた場合と全く同様に、アタッカーとセッターが相対的な位置関係を保ったまま、プレーすることが可能になります。非常に簡単で、オススメです(*^^)v

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コメント

Aクイックでアタックラインの近くにレシーブが上がった場合は離れたAクイックを打つ事になりますが、その時は前衛よりも後衛の選手が打ったほうがいいと考えています。

そうなるとレシーブが乱れるとバックアタックばかりになり、中学生の女子の場合、強打を打ち込むことができない事になります。

このジレンマはどのように克服したらいいと思いますか?今、そこで悩んでます。

投稿: volleyballhelper | 2013年9月20日 (金) 12時33分

>volleyballhelperさん

レスが遅くなりました m(_ _)m

中学生女子でも、バック・アタックで強打を打ち込むことは不可能とは思いません。

>Aクイックでアタックラインの近くにレシーブが上がった場合は離れたAクイックを打つ事になりますが、その時は前衛よりも後衛の選手が打ったほうがいいと考えています。

こう仰る理由は、後衛選手の方が十分な助走が取れるから、という風に認識したのですが、それは間違いないでしょうか?

もしそうであるなら、中学女子選手なりの強打が、十分打ち込めるはずです。因みに私が言う「強打」とは、例えば相手コートのアタック・ライン付近にたたき込むような、鋭角のスパイクを意味してはいません。エンド・ライン付近めがけて、十分強打は打てると思います。

さらに言うと、その、後衛選手のAクイック(要は11 bickです)を決めることが、目的ではないと思います。あくまで、自チームのスパイク決定率を効果的に高めるために、何が必要か? という議論です。アタック・ライン付近からでもクイックがいつでも繰り出せるならば、相手のブロッカーはクイック(bick)のマークを外せませんから、両サイドの選手含めて、少なくとも3箇所からの攻撃に対応する必要が出てくるでしょう。3ヶ所ならブロックは最悪、マン・ツー・マンでも対応できますが、ディガーは3ヶ所から攻撃があるとなれば、選択反応課題が相当に増えますので、中学女子なら、たとえ軟打でも、あるいは正面に来たボールですら、まともにディグできないと思います。

投稿: T.w | 2013年10月 3日 (木) 19時17分

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