« 残すは、つくば桜総合体育館でのホームゲームと入れ替え戦!! | トップページ | 『バレーペディア改訂版 Ver 1.2』に書き切れなかった【スロット】の解説 »

2013年4月25日 (木)

「EBM」ならぬ、「EBV」のススメ

今日は珍しく、本業ネタから入ります。


恥ずかしながら学生時代、ちょうど恐らくEvidence-based Medinine(以下、EBM)という言葉がもてはやされ始めた頃に、EBMを聞きかじって、なんて安易な医療なんだろう … それなら誰だってできるじゃないか、と(誤解して)あきれたことを、今でも鮮明に覚えている。

実際に現場で働き始めて、医師の仕事が「病気を治す最良の治療法を探すこと」ではなく、目の前の患者さんにとって、あるいは残される(かもしれない)ご家族にとって「何が最善なのか? を、患者さんと一緒に考えていくこと」なんだと気づいて初めて、EBMの意味するところがわかった気がした。

私自身がかつて陥ったように、「エビデンス」のある治療法が唯一の答えであり、それを目の前の患者さんに適用するのがEBMであるという誤解が、一般の方だけでなく医療関係者の間でもしばしば見受けられる。もしそれが真実なら、医師の仕事は最新のエビデンスをいかに上手く検索できるか? のみで評価され、医師としての専門性は一切要求されないことになってしまう。

常に更新されていく膨大な数のエビデンスを検索し、その内容をじっくり吟味することは、日常の忙しい診療をこなしながら片手間にできるようなことではない。どんなに忙しくても簡単にEBMを実践できるよう、現時点で最も信頼できる「エビデンス」を凝集した『診療ガイドライン』が各分野で次々と整備されているのであって、今や一般の方でも簡単に、そうした情報にアクセスすることができる環境が整ってきている。「エビデンス」自体は誰もが知り得る情報であって、それを目の前の患者さんに適用することが患者さんあるいはご家族にとって、本当に最善と言えるのか? … そうした難しい判断に自ら責任を持つからこそ、若輩の頃から「先生」と呼ばれる立場に置かれるのだ。

「エビデンス」が詰まった『診療ガイドライン』は、医師にとっての「虎の巻」ではなく、最善の答えを探すための「思考の原点」である。これが、Evidence-based Medicineの本質だと思う。


前置きが随分長くなったけれど、バレーボールも全く同じように考えることができるはずだ。

「データバレー」という言葉が一人歩きし始め、バレーボールにおいて「データを重視する」とは、『Data Volley』というデータ分析ソフトがはじき出した結果に答えを求める、という意味に誤解されている危惧を感じる。バレーボールのアナリストと言えば、たとえば「3SM95C.11-a19P41C.3D6E12P11C.19=」といった暗号のような文字列を、ノートパソコンに向かってスラスラと打ち込む姿を、今やほとんどの方が思い浮かべるであろう。プレーを細かくデータベース化し、『Data Volley』という多機能ソフトを上手く使いこなす能力を持ったアナリストが、そこで得られた分析レポートをスタッフや選手たちに適切にプレゼンテーションする … 現状は確かにそうなのだが、これが「データを重視する」ことの真の意味であるならば、監督やコーチ陣の資質は、優秀なアナリストをいかに確保できるか? という点のみで、評価されることになってしまう。

各チームが確保した優秀なアナリストが打ち込んだデータや分析レポートは、当然のように「社外秘」となり、その情報が果たしてどのくらいの数をサンプルとして得られたものなのか? 統計学的にみて分析方法は妥当か? どういう条件下で成り立つ結果なのか、再現性があるのか? 等の検討がチーム内で行われることは、アナリスト以外のスタッフとの役割分担・専門性を鑑みれば、現実的には不可能であろう。さらには『Data Volley』というソフトに依存することによる限界も、必然的に存在する。チームを勝利へと導く上で、監督やコーチが答えを探すための「思考の原点」たり得る「エビデンス」を構築するには、むしろ各チームが独自に持つデータを公開して持ち寄り、第三者も交えた批判的検討が十分になされることが、本来必要なのだ。

大きな国際大会の後、ベスト4に残ったチームのプレー動画がFIVBの公式サイトで 著作権フリーで公開されるのは、まさにこうした批判的検討を行うための材料が提示されているのだと解釈できる。但し、それをもってしてもまだまだ十分な数が揃っているとは言えない。現状で「思考の原点」たり得る数多くの「エビデンス」が凝集された資料は、絶版となった『セリンジャーのパワーバレーボール』のみであろう。読むたびに新たな発見があり、私自身、バレーに関して思考する際には必ず読み返してそこを土台に議論を進める、他に代え難い貴重な資料だが、残念ながら現在のバレーボールのルールや戦術からみれば、アップデートが必要な部分があるのは間違いない。昨年4月に発売された『バレーペディア改訂版 Ver 1.2』には、『セリンジャーのパワーバレーボール』の記述の中で時代遅れとなりつつあった【テンポ】に関する内容を、アップデートする意義があったと個人的には考えている。

真の意味で「データを重視した」バレーボールを展開する、すなわち、Evidence-based Volleyball(以下、EBV)を実践するためには、まずは批判的検討を重ねて初めて得られる「エビデンス」を構築し、現代版『パワーバレーボール』とも言うべき『勝利のためのガイドライン』を作り上げることが必要不可欠なのだ。そのための第一歩として『バレーボールワールド』で新たにスタートした連載が、『バレーボールのデータを分析するブログ。』の管理人で、野球のデータ分析を行う合同会社 DELTA にアナリストとして参加し、『プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート 1』『セイバーメトリクス・マガジン 1』に寄稿されている佐藤文彦氏による、『EBV事始め』のコーナーである。

『Evidence-based Volleyball 事始め』

現時点で最も信頼できる「エビデンス」に育て上げるため、そしてそこで得られた情報を誰もが共有できるよう、関係者・ファンといった垣根を越えて、たくさんの方からどんどん、率直な批判的意見をぜひお願いしたいと思います。よろしくお願いします!

p.s.: 自分の中では以前書いたこのエントリーに対する、自分なりの回答なのかもしれない。



|

« 残すは、つくば桜総合体育館でのホームゲームと入れ替え戦!! | トップページ | 『バレーペディア改訂版 Ver 1.2』に書き切れなかった【スロット】の解説 »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/105977/57243896

この記事へのトラックバック一覧です: 「EBM」ならぬ、「EBV」のススメ:

« 残すは、つくば桜総合体育館でのホームゲームと入れ替え戦!! | トップページ | 『バレーペディア改訂版 Ver 1.2』に書き切れなかった【スロット】の解説 »