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2012年1月 9日 (月)

【深層真相排球塾(1学期1限目)】バレーボールにおける「テンポ」とは?

【テーマ】バレーボールのテンポとは?

☆日本のバレー界に蔓延するテンポに関する誤解

テンポを理解するにあたっては、その概念が生まれた背景をまず理解する必要があります。テンポはアタック戦術に関わる概念ですので、真っ向から対決するブロック戦術が関わってきます。ブロックに跳ぶ「反応の仕方」には大きく分けて、アタッカーの助走に合わせて跳ぶ「コミット・ブロック」と、トスの行方を確認してから跳ぶ「リード・ブロック」がありますが、世界トップレベルのブロック戦術の主流は、コミット・ブロックからリード・ブロックへと移り変わってきたという歴史的背景があります。こうしたブロック戦術の変化が、攻撃側にテンポを強く意識させる要因となっているのです。リード・ブロックではトスの行方を確認してブロックに跳ぶので、「トスが上がる(=セット・アップ)瞬間からアタッカーがボールを打つ(=スパイク・ヒット)瞬間までの経過時間」が短いほど、スパイク・ヒットに対してブロッカーが間に合わない可能性が高くなります。この「セット・アップからスパイク・ヒットまでの経過時間」が一般に、テンポと呼ばれています。その経過時間が最も短い攻撃がファースト・テンポ(1st tempo)、それより少し長い攻撃がセカンド・テンポ(2nd tempo)、最も長い攻撃がサード・テンポ(3rd tempo)と呼ばれます。サード・テンポの攻撃は、いわゆるオープン攻撃などに相当します。一方、リード・ブロックに対して最も効果を発揮する攻撃がファースト・テンポの攻撃だというわけです。


ここまではそれほど難しくないのですが、ここから先に進もうとした時に誤解がしばしば生じます。陥りやすいのは「ファースト・テンポの攻撃とは一体"何秒以内"の攻撃なのか?」という考え方です。テンポはそれ自体の"絶対的な"短さが重要なのではなく、相手のブロッカーの反応時間よりも"相対的に"短いことが重要なのです。ですから、ファースト・テンポの攻撃が「何秒なのか?」を考えることには意味はなく、「どうすればリード・ブロックで対応するブロッカーの反応時間よりも早いタイミングで、スパイク・ヒットを完了できるか?」を考えていけば、自ずとファースト・テンポの攻撃にたどり着くのです。


☆どうやってブロック反応時間よりテンポを短くするか?

では、ブロッカーの動作から考えてみましょう。リード・ブロックで対応するブロッカーは、セット・アップを確認した後、トスの上がったアタッカーのスパイク・ヒット位置に向かってネットに沿って移動し、踏み切ってブロックを完成させます。ですからブロッカーの反応時間は、セット・アップを確認してから実際に体を動かし始めるまでの反応時間(①)、ネットに沿って移動する移動時間(②)、踏み切ってから空中でブロックが完成するまでの時間(③)、の合計となります(図1)。

Photo

①〜③のうち①と②は、ブロッカーのセット・アップを見極める能力や身体能力、セッターの能力やセット・アップ位置とスパイク・ヒット位置との間の水平距離などの影響を受けます。一方③は、ブロッカーがジャンプして空中で最高点に達するまでの時間であり、これはジャンプ力によほどの差がない限りは、ほとんどの場合一定となります(※)。

次に、アタッカーの動作を考えてみます。アタッカーは、助走を開始した後、踏み切って空中でボールを打ちますが、この中で助走開始から踏み切るまでの時間はアタッカーによって、また同じアタッカーでも状況によって、かなり違いが出ます。一方、踏み切ってからスパイク・ヒットを完了するまでの時間は、スイングがどうあれ空中で最高点に達したところでスパイク・ヒットを行う以上、ジャンプ力によほどの差がない限りはほぼ一定であり、かつ、ブロッカーにおける③とほぼ同じと考えられます。


ここまでの理解を前提に、どうすればブロッカーの反応時間よりもテンポを短くできるか? を考えてみましょう。①・②がどんなに短くなったとしても、助走開始のタイミングをセット・アップよりも相当前にして、セット・アップの瞬間に踏み切ってしまえば、アタッカーがスパイク・ヒットを完了するまでにブロッカーが空中で最高点に達するのは理論的に不可能となります(図2)。従って、リード・ブロックで対応するブロッカーに対して最も効果を発揮するファースト・テンポの攻撃とは、「セット・アップの瞬間に踏み切る攻撃」だと理論的に考えることができます。

Photo_2


☆本当のファースト・テンポの攻撃とは?

では今度は、ファースト・テンポの攻撃を打つアタッカーが、実際にどのタイミングで踏み切っているのか? を見てみましょう。

Quick

プルームジット・薛明両選手のクイックをご覧下さい。クイックがリード・ブロックにとって有効な攻撃であることに関しては、恐らく異論がないでしょう。セット・アップの瞬間に注目してもらうと、ほぼその瞬間に両選手とも踏み切っています

さらに、アキンラデウォ選手のクイックをご覧下さい。

Photo_3

キューバの13番の選手がリード・ブロックで対応しており、写真4がブロック反応時間の①に、写真5が②に、写真6〜9が③に相当します。写真9でブロッカーの体が曲がっていますが、腰の位置を見ればこのタイミングでブロッカーが、空中で最高点に達しているのがわかります。一方、アキンラデウォ選手はセット・アップより相当前から助走を開始し、セット・アップの瞬間に踏み切って、写真7のタイミングで既に最高点に達しており、これがいわゆる「ブロックの完成する前に打てる」状態です。このように「ブロッカーの上から打てる」攻撃こそがファースト・テンポの攻撃であり、これは、全力で助走しセット・アップの瞬間に踏み切って全力でジャンプしない限り、達成されることはないのです。


この理解に基づいてテンポの概念を整理すると、各テンポの違いは図3のように、セット・アップの瞬間からアタッカーが踏み切るタイミングまでの時間の違いだと理解できます。因みに、セット・アップよりも前に踏み切る場合は、マイナス・テンポの攻撃というとらえ方ができますが、これについては次回以降で触れたいと思います。

Photo_4


テンポを規定するのは"はやい"トス?!

図3のように理解すればテンポを規定しているのはトスではなく、実はアタッカーの助走開始のタイミングだという真実が見えてくるはずです。「トスが"はやい"から、ブロックの完成する前に打てる」とよく言われますが、「トスが"はやい"から」ではなく、「早い助走開始のタイミングに見合うようなトスを供給できたから」というのが適切な表現だと言えます。ところが例えば、『月刊バレーボール』2011年1月号p016の木村沙織選手のインタビューを引用すると、彼女は現在の全日本女子の"速い"バック・アタックに関して「・・・テンポが速いから・・・トスを上げるところに先に寄ってまっすぐ入らないと間に合わない」と述べています。この発言からは、「アタッカーがトスの"はやさ"に合わせないと"間に合わない"」という意識が伺えますが、これは一体、どう理解すればよいのでしょうか?


そこで次回2限目からは、全日本女子の"速い"バック・アタックと、世界トップレベルの男子選手が打つファースト・テンポのパイプ攻撃とを、連続写真で比較検討してみたいと思います。


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(※)ブロッカーやアタッカーが踏み切ってからt(秒)後に空中で最高点に到達し、その高さをh(m)、重力加速度をgとすれば、t=√(2h/g)と計算され、60cmしかジャンプしない選手と1mジャンプする選手を比べても空中で最高点に到達するまでの時間は、0.1秒しか変わりません。

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コメント

今さらどうしたの?っていうような驚きのエントリーでした。
何かあった?

まぁセンターライトの2マンが私にマークして、レフトが喰らいついて3枚ブロックだったからこそ、マイナステンポで入る平行→ロングBの一人時間差がミスっても相手がパニックを起こした理由がなんとなくわかりましたが。

投稿: kaz10000 | 2012年1月11日 (水) 00時30分

> kaz10000さん、

驚かせましたか(^_^;
そろそろ、特許権も切れる頃だろうってことでw
どうしても、読んで欲しい人たちがいるので、許可取って掲載に踏み切りました。

投稿: T.w | 2012年1月11日 (水) 01時05分

こちらにコメントするのは間違いかもしれませんが・・・つい(汗)。

今や「排球塾」が月バレ購読の大きなモチベーションとなっている者です。

紙上で1限目読んでおります。手元に1限目置いて読み比べた訳ではありませんが、こちらの記事の方が読み易く分かりやすいです。

多分、色だと思っています。

月バレさん、排球塾フルカラーでお願いしたいなぁ。

失礼しました。

投稿: ハッチー | 2012年1月13日 (金) 09時33分

これはわかりやすかったです。happy01

単行本の準備ですか?

投稿: 456kyoto | 2012年1月13日 (金) 18時02分

>ハッチーさん、

初めまして! 嬉しいコメントありがとうございます。

>今や「排球塾」が月バレ購読の大きなモチベーションとなっている者です。

ご期待に添えず、連載は2012年2月号で終了となってしまい、申し訳ありません。代わりに、ブログの方で細々と、続きを書いていく予定です。連載と違って、不定期となりますが、よろしくお願いします。

投稿: T.w | 2012年1月22日 (日) 23時09分

> 456kyotoさん、

いつもありがとうございます!

わかりやすいと言ってもらえると、一番嬉しいです。
準備とかではなく、ただ有効活用したいというだけです。

投稿: T.w | 2012年1月30日 (月) 00時10分

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