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2010年9月 4日 (土)

「奇跡」でも「大金星」でもなく(その2)

マスコミの力というのは、良くも悪くも強力です。

丁度1年前の今頃、ワールドグランプリの地上波中継で連呼された「バンチ・リード」ならぬ「バンチリード」という新語(?)の短期間での浸透度に、危機感を募らせて書いたエントリーが『「バンチリード」・・・言葉だけが一人歩き・・・』(その1その2その3)でした。今だから明かすのですが、その時感じた危機感というのは、『バレーペディア』を出版するなら今のタイミングを失う訳にはいかないという意味から、募らせた危機感でもありました。


同じように、植田JAPANが北京オリンピックの出場権を獲得したあの時、すかさず出たマスコミ記事に対して危機感を募らせ、書いたエントリーがこちらでした。

16年ぶりのオリンピック出場権獲得に思う・・・

当時は、マスコミを利用できる絶対的有利な立場にあるのは狂会でしたが、今は違います。twitterの登場で、マスコミを利用できる立場になり得るチャンスを、バレーボールファンも獲得したのです。ファンが頑張って「当たり前の論理」を自己主張していけば、これまで狂会側を向いて、狂会にとって都合の良いファンの方にだけ向いていたマスコミを、真に長年バレーボールを愛し続けるコアなファンの方へ向かわせるだけの、十分な原動力になり得るはずです。

事実、今年のワールドグランプリの中継では、「ディグ」という、それまで日本ではプレーヤーの間ですらもまだまだ馴染みのなかった用語が連呼されましたが、フジテレビの用意周到な作戦が上手くいって、どうやら「ディグ」という用語は着実に、日本のバレーボールファンの間で、自然に定着していきそうな、そんな手応えを感じています。ええ、そうですとも。何せ「ディグ」という用語は、『バレーペディア』に登場する用語の中で、重要な推奨語の一つだったのですから。「1秒の壁」や「1.1秒」、「日本のオリジナル」といった言葉が、日本代表チームの監督がトップダウン式に言い出して、にわかファンを洗脳する結果を招いているのに対し、「ディグ」という言葉は、そういった要素を一切持ち合わせていません。「ディグ」という言葉を積極的に使用し始めたフジテレビの姿勢に象徴されるのは、「誰を」視聴者として意識しているのか? という点で、大きな意識変革が見られるということです。


ブラジルに9年振りに勝ち、イタリアから2勝を上げた真鍋JAPAN。昨年だって、中国から公式戦で2勝を上げています。「奇跡」でも「大金星」でもない、これらの論理的帰結を前にしても、残念なことに選手自身がその「論理」をわかっていないという、象徴的な記事がこちら。


『「日本スタイル」構築への第一歩=バレー女子・ワールドGP予選ラウンド総括』(スポーツナビ)より引用


「たとえ1本目(のレシーブ)が崩れても、常に速く入る。高さに対抗するにはスピードしかないと思ってやってきた練習の成果が、試合の中でかなり出るようになってきた。手応えを感じています」

「トスの質よりも、とにかくスピード。(二段トスを)上げる人には、多少乱れてもいいから速いトスがほしいと要求しています」


「全日本至上主義」・「富士山方式」にこだわる狂会にとって、「へぇー、全日本ってすごいんだー!」と盲目的に日本代表チームを持ち上げる記事の方が都合が良く、そしてそれは、バレーボールがいかに戦略的なスポーツなのか? を理解し得ないにわかファンにとっても、取っつきやすい記事と言えるでしょう。しかし、長年そういう「ぬるい」ファン・「ぬるい」マスコミに囲まれてきた選手自身も、「ぬるい」論理しか組み立てられない結果に陥るのも当然の「論理的帰結」です。

そもそも、よく考えてみて下さい。真のバレーボールファンが待ち望む未来は、果たして「奇跡」なんでしょうか? 「大金星」なんでしょうか? いや、そうではないはずです。ファンが本当に待ち望む未来は、「当たり前のように勝つ」日本代表チームなんじゃないですか?


オリンピックの舞台でよく語られる言葉ですが、「金メダルを目指すからこそ、銀メダルや銅メダルが獲れる」のです。最初から「メダルを目標」にしているようでは、銅メダルすらが手に入らない・・・これが厳しい勝負の世界の現実なのです。


『バボちゃんネット インサイドリポート』より引用


いま世界のバレーボールの潮流は、高いブロックシステムで仕留める組織ディフェンスと、多少乱れたところからでも、高い位置から打ってくるオフェンスが主流だ。

今回、日本はその逆を行った。
とにかくボールをノータッチで落とさないという約束の中での粘っこいディフェンス。
そして、セッターに正確に返すAパスからの速い攻撃。

世界のどのチームもが「そんなことはナンセンスだ、常識はずれだ」ということを実行し、それを「日本のオリジナル」と呼んで、練習し続けた4カ月。
選手やスタッフが馬鹿みたいに信じ続け、やり続けたことが身を結んだのが、ブラジルとイタリアへの勝利だったのだろう。



世界トップレベルのバレーボール戦術の潮流に逆らわずにチームを強化し、それを極めることができて初めて、金メダルを目指すことが「奇跡」でなくなるのです。それは10年先を行く、世界の男子バレー界が証明しています。ヒュー・マッカーチョンが作り上げた北京での男子アメリカナショナルチームは、レゼンデバレーの本質を本家以上に忠実に再現したチームだったのですから。そのレベルに達して初めて、日本が劣るとされる「高さとパワー」で最後の「紙一重の勝負」が決する可能性が出て、結果的に銀メダルや銅メダルを獲得できる可能性が現実味を帯びるのです。「高さとパワーで劣る日本が、世界と同じ事をやっていても勝てない」などという御託を並べる前に、「高さ」を揃え「パワー」をつける努力をしながら、世界トップレベルのバレーボール戦術の潮流をきちんと採り入れることこそが、「当たり前のように勝つ」ための必須条件であるはずです。「高さに対抗するためには、セットの質よりもスピード」などという非論理的なことを言う前に、まともな2段トスをコート内の誰もが上げられるように努力してから、スピード(ならぬテンポ)のことに気を払え! と言いたくなります。


悪い例から挙げてしまいましたが、フジテレビは間違いなく、バレーボール中継放送の方向性を良い方向・正しい方向へ、変えようとしてくれています。タレントを起用しなかったこと、選手に意味不明なキャッチフレーズをつけずに、代わりにVリーグの所属チームをテロップで紹介したこと・・・たったこれだけでも、ここ10数年の日本のバレー界の取り巻く環境から考えれば、信じられない程の改革です。これらは、長年バレーボールを愛し続けるファンが、地上波のバレーボール中継から、ひいては、バレーボールの試合会場からも離れさせた一番の要因です。ですから、真っ先に手をつけるべき改革としては、大正解だったと言って良いでしょう。しかし、さらに大事なことは、これらを取り去っただけでは、真のバレーボールファンが地上波のバレーボール中継を見たいと思うモチベーションにまでは、残念ながら繋がらないという点です。


金メダルを本気で目指すのなら、9年振りに勝てたとか、何十試合やって1回勝てたというような「奇跡」など、何の役に立たないのです。10試合やれば7〜8回は勝てるという、そういう論理を構築していくことが銀メダル・銅メダル獲得に繋がるのです。勝とうが負けようが、何が正しくて何が修正すべき課題なのか?・・・それを選手自身が論理的に理解・説明できるように、ファン自身が日本のバレー界に常に厳しい目を向けていくことこそが、今最も必要なことなのです。それをファン自身が、マスコミを通じて誘導できる可能性を実感できることこそが、真のバレーボールファンのモチベーションに繋がります。真のコアなバレーボールファンに目を向けようとし始めてくれたフジテレビに対し、私たちファンは誠心誠意応えるべく、まずはテレビ中継を見ること、そして、twitterなどを通じて、諦めずに論理的な意見を伝え続けていくこと・・・それこそが、私たちファンに課せられた重大な課題だと思います。


現在私が最も懸念しているのは、ワールドグランプリで活躍した江畑選手が果たして、V・チャレンジリーグに戻って、活躍の場があるのだろうか? ということです。Vリーグの各チームが日本代表チームに対して、一致団結して協力する姿勢が見られる男子バレー界をしても、ああいう結果に繋がってしまう現状があるからこそ、10年後に同じ道を辿って後悔しないために今から、日本の女子バレー界の構造改革を誘導していくことが不可欠です。

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コメント

こんにちは。
埼玉でスポーツトレーナーをやらせて頂いているものですが、Suspension Trainingについてのページ拝見しました。非常に興味があるのですが、お話を聞かせて頂けたらと思いメールしました。よろしければメールください。

投稿: tada | 2010年9月17日 (金) 16時19分

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