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2010年8月27日 (金)

「奇跡」でも「大金星」でもなく(その1)

普段このブログでは主に女子の話題を扱っており、世間的に当ブログは、女子バレー関連ブログと認識されているかと思います。

しかし、いつも読んでくださっている読者の皆様なら、私が普段、女子バレーだけでなく男子バレーも、同じ程度に見ていることはわかって頂けていることでしょう。

昨日は、男女とも(次元の違いがあれども)大きな試合がありましたね。そう、男子は長野で来年のワールドリーグの出場権をかけた戦いが、そして女子は中国でワールドグランプリの決勝リーグ初戦が、それぞれ行われました。しかも、試合時間も、途中からは重なっていたようです。バレーボールファンとしては、それも、男子バレー・女子バレーの区別なく、バレーボールに興味があるファンの方々にとっては、さぞかし仕事が手につかなかったことでしょう。しかし、結果はみなさんご存じの通り、明暗がくっきり分かれてしまいました。

普段、当ブログで男子の話題をあまり取り上げないのには、理由があります。それは、男子バレーの世界がもはや、ファンが戦術や戦略をどうのこうの言って何かが変わるレベルを、とうの昔に通り越してしまっているからです。日本の男子バレーが抱える問題は、選手の技術やスタッフ陣の戦術・戦略のレベルにはなく、日本のバレー界の構造的問題のレベルです。

・(参考)日本の男子バレーに未来はあるのか?

一方で女子はどうか? これまでも幾度となく書いてきたように、女子バレーの世界は、男子バレーがたどった戦術の道を、10年程遅れながら、でも確実にたどっています。10年前と言えば・・・2000年代前半。当時の男子バレーの世界では、それまでどんどんとパワーを増す一方だったサーブ戦術に、ある転機が訪れました。きっかけはラリーポイント制の採用です。ネットインサーブの許容もあいまって、勢いが決して衰えることなく、更に加速したスパイクサーブ重視の戦術の一方で、そうやってサービスエースを狙いにいくだけでなく、データバレーとブロックシステムとの連係による戦略的サーブ戦術、つまりは相手コートの特定の場所を確実に狙ってジャンピングフローターサーブを打つという戦術が目立つようになりました(『バレーペディア』p52 「スパイク・サーブ」と「ジャンプ・フローター・サーブ」それぞれのNOTE参照)。新型ボールの採用をきっかけに、それまで女子バレーの世界でも増加の一途をたどっていたスパイクサーブが、一斉にジャンピングフローターサーブへと変わったここ1・2年の状況は、その時とよく似ていると言えます。表向き上のきっかけはあくまで新型ボールの採用でしょうが、その背景には、女子バレーの世界における、データバレーとブロックシステム戦術の浸透があります。女子バレーの場合は、男子と違って、世界トップレベルの戦術変遷が、どういう方向へと向かっていくのか? ちゃんと前例があるので、素人でもある程度予想が立つのです。素人でもわかるような「当たり前の論理」が通らない状況を見せられたのでは、バレーボールというスポーツを愛する度合いが高いファンほど、目の前の現実から目を背けたくなるはずです。


柳本前監督が就任した2003年、なぜそれまで冷え切ってしまっていた女子バレーの人気が一気に沸騰したのか? それは、彼が「日本バレー復活請負人だったから」では決してありません。日本No.1ミドルブロッカーであるのが誰の目にも明らかだったにも関わらず、日本代表から二度と声がかからないだろうと思われる扱いを受けていた吉原知子元選手を、素人目線で正当に評価してキャプテンに任命し、さらには、素人でもわかる日本の課題である大型レフト対角の確立を目指して、まだ10代だったメグカナをワールドカップの大舞台でいきなりスタメンに据えたことが理由です。つまり、「当たり前の論理」が目の前で展開されたからこそ、柳本JAPANに夢を一度は抱いたのです。もちろん、私自身もその一人です。決して、彼が結果を残したから、ではなかったはずなのです。

ところが、「当たり前の論理」でチーム強化を始めた途端、ワールドカップでキューバを倒し、そしてアテネ五輪出場権を賭けたOQT初戦でイタリアを倒すという「結果」を残してしまったがために、柳本JAPANの「何が正しくて、何がこれからの課題なのか?」が不透明になってしまいました。柳本前監督のやること・掲げることが、全て正しいかのような扱いを受けるようになっていきました。


『ばれにゅ☆どっとねっと』より引用


ブラジルに9年ぶり勝利 バレー女子ワールドGP

9年ぶりというのは本当に素晴らしい。

・・・(中略)・・・

ただ気になるのは、確かにこの勝利は素晴らしいのですが、このことによって「これまでやってきたことはすべて正しい」となってしまうこと。既存の問題点には目をつぶらず、これからも立ち向かって欲しいものです。


真鍋JAPANの良いところは、チームの戦術強化にあたって、一貫した方向性が見えることです。例としては、昨年のブロックシステムの本格導入が挙げられます。決して「世界最先端」ではなく「世界標準」であるバンチ・リードブロックシステムを、日本代表女子チームとして初めて本格的に導入したのが昨年。そして、それを基礎として今年は、相手の攻撃システムに合わせて、適宜それを使い分けるという段階に入ったのです。『ベリーロールな日々』でも分析されているように、ブラジル女子ナショナルチームには、典型的な負けパターンがあります。

(参考その1)・(ワールドカップ2007女子)ブラジル - アメリカ(その2)
(参考その2)・(ワールドカップ2007女子)ブラジル - イタリア(その2)

今大会の予選でイタリアがブラジルに完勝した試合も、全く同じ展開でした。相手ブラジルをきちんと分析し、その上で一つの戦略を練り、たとえ第1セットが完敗に終わっても監督の指示の下、自分たちが採ると決めた戦術を信じて我慢強く決められたプレーを続け、じりじりとブラジルを負けパターンへ追い込んでいったのです。そしてその背景にあったのは、データバレーと昨年1年かけて着実に身につけた「世界標準」ブロックシステムだったのです。

さらにもう一つ、挙げるべき点があります。それは、「柔軟な修正能力」です。

『強行突破SPORA別館』より引用


6月に全日本女子のヨーロッパ・ブラジル遠征があり、本格的なシステムのチェックは夏とされながら、やはりすでに主張していたとおり、攻撃力が強豪外国勢に劣る日本が攻撃選択肢を自ら1枚減らすシステムが非合理的であることがチームでも認識されることになる。
合理主義的な諸外国や男子バレーでは当然のように行われているように、やはりセッターファーストタッチ時はリベロがセットアップすることが最も合理的なのです。
これ以降、リベロのトス練習がはじまったのではないでしょうか。
オリジナルの修正が始まる。

・・・(中略)・・・

7月のトリノ国際大会の後半から8月のワールドグランプリブラジルラウンドで、佐野優子が積極的なオーバートスを見せはじめる。

一方で、江畑・迫田という全日本経験値が少ないアタッカーに竹下佳江がトスを上げる際、最も打ちやすいトスを…ということで高いトスを上げるようになっていったという、この期間の変化もあった。
トリノの序盤から徐々に竹下は高いトスを意識的に出すようになる。
それでトリノの終盤でタイミングがアジャストされてスパイクが決まるようになっていった。


真鍋JAPANがブラジルに勝てた理由は、大会前に掲げていた「日本のオリジナル」や、「4つの部門で世界一になること」では、決してなかったのです。そのことは、ワールドグランプリ終了後に、フジテレビや日本文化出版は、きちんと論理的に分析して、的確にファンに伝えることができなければなりません。「世界標準」のブロックシステムを礎にしながら、データバレーとの連係で相手の攻撃システムに合わせて適宜ブロックシステムを修正し、それが上手く機能した直後のトランジションでの攻撃システムの確立を目指し、遂には「地球一リベロ」佐野優子選手をして「今までは苦手だったから、ほとんど上げることがなかった」と言わしめた、オーバーハンドパスでのセットアップをさせるという、彼女にとっては「大挑戦」でも世界トップレベルの戦術から見れば「当たり前の」戦術を採る形に、シーズン途中で軌道修正したことが、「素人目にもわかる」真鍋JAPANの勝利の秘訣と言えるでしょう。「今の」真鍋JAPANがブラジルに勝ったことは「奇跡」でも「大金星」でもなく、素人目にもわかる一つの「論理的帰結」だったと言えるのです。


そういった分析がなされず、ただただ「真鍋JAPAN凄い!」と言ってしまったら、オリンピック出場を16年ぶりに果たした植田JAPANの二の舞になるだけです。
明暗を分けた、昨日の男子と女子の日本代表チームの試合結果ですが、マスコミが変わらなければ、いくら真鍋JAPANが正しい方向性を採っていても、いくら選手が頑張っていても、10年後に導かれる「論理的帰結」は植田JAPANの試合結果に繋がってしまうでしょう。

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