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2009年5月 4日 (月)

"スピード"ではなく"テンポ"(その4)

(その3)では、セットアップ位置の高さが高くなることで、アタッカーとセッターが近接するスロットで行うマイナステンポの攻撃において、メリットが生じ得ることを説明した。

では、アタッカーとセッターが近接しないスロットで行う攻撃においては、セットアップ位置が高いことのメリットがないのか?


答えはそうではない。アタッカーのスパイクヒットポイントが決まっているとして、セットアップ位置が高いほど、トス(set)の軌道(=セットアップ位置からトス(set)の頂点までの垂直方向の距離)は短くなり、感覚的に「低く」見える。何度も言うが「低い」こととテンポが早いこととは無関係であるから、それだけではセットアップ位置が高い方が有利と言えない。しかし、ブロックする側からすれば、マンツーマンでの対応をするケースを除けば、相手チームの1人のアタッカーに対して対応するのではなく、複数のアタッカーを相手にするわけであり、特にリードブロックを採る場合においては、各スロットで同じファースト・テンポの攻撃を打とうとして複数のアタッカーが助走に入る場面を想定すると、相手セッターのセットアップ位置が高いほど、各スロットでのファースト・テンポの攻撃に対してのトス(set)の軌道が、見分けがつきにくくなる効果が生まれる(例えば、Bクイックとレフト平行を想定してもらえばわかるだろう)。

『月刊バレーボール 2009年1月号』に丁度いい写真が載っていたので、無断転載にて大変申し訳ないが・・・(クリックで大きくなります)



Set00

セットアップの瞬間。パナソニックは前衛センターの6番が11攻撃・前衛レフトの3番が51攻撃、さらに見えてはいないが前衛ライトの5番がC1攻撃・後衛レフトの8番がパイプ攻撃の助走に入っている。このタイミングでパナソニックの6番はジャンプを踏み切っているが、一方、相手堺のセンターブロッカーは、セッターのセットアップ動作を凝視していてまだブロックジャンプを始めていないことから、コミットブロックでなくリードブロックを採っていると判断できる。


Set01

トス(set)はセッターの身体の向きの前方向に上がっている。このタイミングでパナソニックの後衛レフトの8番はまだ助走動作が完了していないが、堺のセンターブロッカーはこのタイミングでブロックしに跳び上がろうとしている。リードで対応したブロッカーが跳び上がろうとしているということは、堺のセンターブロッカーはトス(set)がAクイック(11攻撃)に上がったと判断したことになる。


Set02

さぁ、この写真をご覧になって、このトス(set)がどのアタッカーに対して上がったものか? 皆さんわかりますか?




Set04

この写真で、皆さんもおわかりですね。そう、このトス(set)は、前衛レフトの3番へ上がったレフト平行(51攻撃)のトス(set)である。後衛レフトの8番が助走をやめてしまっているのを見ても、この瞬間誰もがそのことに気づいていると思われるのに、ただ一人、堺のセンターブロッカーだけが、まだそのことに気づいていない。現に彼は、両手を右側に傾け、トス(set)されたボールが自身の身体の右肩の上を通り過ぎようとしているのに反応して、相手パナソニックのセンター6番が、ターン方向に速攻を打ってくるのに対応しようとしているのだ。



Set05

次の瞬間にようやく彼も、自分が「振られた」ことに気づいたようだ。結果的に、彼はリードブロックを跳んだつもりが、その実はゲスブロックになってしまった、ということになってしまったわけだ。ではなぜ? このような結果になってしまったのだろうか?




もう一度、冷静に写真を見返してみよう。

Set01

2枚目のこの写真。セッターのセットアップから0.1秒の瞬間のものだが、よく見れば、セッターの両腕が身体の前方方向へ勢いよく投げ出されており、自身が位置するスロットと近接するスロットにいるアタッカーへのトス(set)ではあり得ないことはわかるはずである。なのに、どうして堺のセンターブロッカーは、見誤ってしまったのか?



Set02

それは、この写真のボールの位置にあると思う。最初に皆さんに「このトス(set)がどのアタッカーに対して上がったものか?」と問いかけたように、この一瞬の、この写真だけを断片的に見ると、次の瞬間にパナソニックのセンター6番が速攻を打っていてもおかしくないように見えるはずだ。なぜなら、バックスイングを終えている6番の選手が、次の瞬間にフォワードスイングを行った(と想定した)場合に、手が通過する(であろう)場所の近くを、ボールが通過しているからだ。


即ち、違うスロットに位置するそれぞれのアタッカーに対してセッターがセットアップする際に、自身の位置するスロットに近接するスロットのアタッカーへのトス(set)の軌道と、離れたスロットのアタッカーへのトス(set)の軌道が重なっていると、リードブロックで対応している相手センターブロッカーを欺くことが可能になりうる、ということである。さらに言えばそれは、セッターのセットアップ位置が高くなることによって、初めて可能になることなのである。


今回転載させてもらったケースのように、190cm以下の身長のセッターですら、リードブロックで対応しているはずのブロッカーを欺くような状況が生じ得るわけで、ましてや2mを超える身長のアメリカ男子ナショナルチームのセッターのロイ・ボールがセットアップすれば、例えば北京オリンピックの男子決勝で、レフト平行(51攻撃)に対して上げたつもりのトス(set)を、速攻の助走に入っていたセンターの選手が間違って打ってしまうというような、極端なケースも生じ得る程に、複数の攻撃に対するトス(set)の軌道が重なってくるわけである。


なお、この話題は『Tのブログ』このエントリーの中のコメント欄で既に展開されていた内容を、わかりやすく図解したつもりである。

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コメント

こんにちは。

大変ご無沙汰しております。
ものすごく久しぶりのコメントなような気がします。

今回のエントリーも興味深いですね。
私は実際にバレーボールをした事が無いので、トスの軌道などはさっぱり分からないのですが、観戦に行くときには後方から見るようにしていますので、次回はトスの軌道に注目しながら、観戦してみます。

さて、トスで思い出したことがあります。
あれは、パイオニア2回目の優勝シーズンだったと思うのですが、東レとの試合が中継されたときこと。
フールマンがAクイックを決めたとき、アナウンサーが「てっきりレフトへの平行トスだと思いましたが・・・。フールマン高い!」というようなことを言っていました。

セッターは内田ですので単にフールマンが高かっただけなのかもしれませんが、なんとなく思い出してしまいました。

しばらく、コメントしていませんでしたが、管理人さんの解説は一生懸命読んでいます。男子決勝も録画しておいたので、スローやプレイバックを駆使して、なめる様に「解読」させていただきました。

お忙しい中、エントリーされるのは大変なエネルギーを要すると思います。

本当にありがとうございます。

投稿: ディーラー | 2009年5月 6日 (水) 21時45分

T.wさん、こんばんは、トラックバックありがとうございます。

>自身の位置するスロットに近接するスロットのアタッカーへのトス(set)の軌道と、離れたスロットのアタッカーへのトス(set)の軌道が重なっていると、リードブロックで対応している相手センターブロッカーを欺くことが可能になりうる

これはおっしゃるとおりだと思います。(引用された画像については細かな異論がありますが)

トラックバック先にコメントを追加しましたので、ご覧下さい。時間を見つけては、ゆっくりと議論を続けていければとおもいますので、よろしくお願いいたします。

投稿: T | 2009年5月 7日 (木) 03時07分

>ディーラーさん

確かに(笑)お久しぶりです。
東レの2連覇&黒鷲旗制覇おめでとうございます!
なのに、今シーズンは東レのことはろくに何も書けず、申し訳ありませんでした。

菅野監督になって、東レで何が一番変わったかと言えば、WSを務める選手たちが、木村選手はじめスタメンの選手は勿論、控えの高田ありさ選手なども、レセプション後にスパイク助走に切り込むの動作が、とても素早くなったことです。その点は間違いなく、今のV・プレミア女子でNo.1だと思います。わがパイオニアは、栗原選手や細川選手がレセプションの要になったこと自体は喜ばしいことですが、如何せんレセプション後の動作が緩慢で・・・結果的に、本来のパイオニアの強さだったはずの、4枚攻撃がほとんど見られなくなってしまいましたから、なんとしても見習ってもらいたいと切望しています。

そういえば、23日に大山加奈選手の特集がBS日テレであるようですよ。ご存じだったらすいません。


>セッターは内田ですので単にフールマンが高かっただけなのかもしれませんが

仰っているシーンを覚えているわけでじゃないのですが、大事なポイントを突いてらっしゃると思います。

このエントリーでは「セットアップ位置が高くなることのメリット」を書いていますが、"スピード"ではなく"テンポ"の本質は、決して「セットアップ位置の高さ」ではなく、あくまで(その1)(その2)で書いたように「トスの頂点」と「アタッカーのスパイクヒットポイント」が「一致すること」及び、組み合わさる複数の攻撃のテンポが「一致すること」です。フールマン選手のクイックは決して「はやい」印象はなかったと思いますが、相手のブロッカーが彼女をマークしていても、なかなか「間に合わず」に「上から打たれていた」と記憶していますし、その攻撃とレフトのWSの攻撃とテンポが一致していたと思います。

投稿: T.w | 2009年5月13日 (水) 00時11分

>Tさん

こんばんは。こちらこそ、コメントありがとうございます。


>トラックバック先にコメントを追加しましたので、ご覧下さい。

はい、拝見しました。
また、貴ブログにもきちんとコメントしたいと思います(時間を見つけてゆっくりと(笑))が、一つ誤解の無いように書いておきたいのは、ディーラーさんへのレスでも書いたとおり、私自身「"スピード"ではなく"テンポ"」の本質は「セットアップ位置の高さ」ではないと思っています。ですから、私も前全日本女子の正セッターの問題点が「セットアップ位置の低さ」とは思っていませんので。では、彼女がなぜ評価されるのか? それを(その5)として展開しようと思っているところでした。

投稿: T.w | 2009年5月15日 (金) 23時25分

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