2008/09 シーズン・男子決勝(東レ - 堺)(その3)
第3セット、堺としては何かを本質的に変えてこない限り勝機はないと思えたが、まずスタートローテーションからして、両チームのマッチアップは1・2セットと同様(東レは各セットとも同じローテーションからスタートし、堺が自チームのレセプションから始まるセットとなった2セット目にローテーションを一つ戻す形)であり、堺が大きくブロック戦略を変える様子は伺えなかった。序盤3-2から、今田選手のスパイクサーブが前衛レフトのゴッツを襲って彼の51攻撃のテンポを落とし、東レブロック陣がデディケートの配置からライトブロッカーの阿部選手がセンターに寄ってバンチに修正したところに、朝長選手は北島選手のファーストテンポ・パイプ攻撃を選択してしまい、東レの2枚ブロックに見舞われて4-2。直後に(不運な判定があったにせよ)今田選手のサービスエースで5-2。さらに、彼のスパイクサーブが前衛レフトのゴッツを緩く着実に狙っておいて、東レブロック陣はライト側に集まりエンダキ選手のライト攻撃に3枚ブロックを敷いてワンタッチを取り、直後のトランジションでワンタッチを繋ぐために倒れ込んだエンダキ選手の攻撃がなくなると見るや、今度はレフト側にブロックを集めてゴッツにプレッシャーをかけ、最後はボヨビッチ選手が決めて6-2となり、案の定このセットも東レが流れを掴んでしまう。堺としては単調でもライト側からのエンダキ選手の攻撃に頼るべきなのだが、この状況でも朝長選手はむしろレフト側の攻撃を多用し、案の定デディケートで構える東レのブロック陣にプレッシャーをかけられて、堺はスパイクミスを連発。14-10からゴッツへのやはりレフト側のハイセットが、まともに2枚ブロックにシャットされてゴッツは潰されて、15-10。試合の大勢は決まってしまった。15-11となって回ってきた大道選手のサーブ。前衛では残念ながら篠田選手に終始翻弄されていた彼だったが、サーブで見せ場を作り、実質2連続サービスエースで15-13として、堺に流れを見事に呼び込む。一進一退の攻防が続いて、21-19からボヨビッチ選手のレフトのハイセットを大道選手が見事にシャットして、21-20。さらに長いラリーからエンダキ選手が決めて、遂に21-21の同点となる。しかし、ここでボヨビッチ選手のサービスエースを奪って、堺に行きかけていた流れを断ち切る。直後、サーブミスで23-22となったが、この大事な場面で、第1セットのジュースの攻防同様に堺は、東レのセッター・阿部選手が篠田選手の速攻を「いつ使ってくるか?」という暗黙のプレッシャーが中垣内監督の「ボヨビッチ(選手)をマークしろ」という指示を受けても払拭できず、24点目・25点目を連続してボヨビッチ選手に決められて万事休す。セットカウント3-0、第3セットに大道選手の作ったムードで点数的には競る形にはなったが、試合全体としては東レの完勝、見事な優勝だった。堺のセッター、及びベンチがいずれも、東レの戦略を分析してそれに対する的確な対策を、試合途中で編み出せなかったことが、東レの完勝に繋がったと言っていいだろう。
今シーズンのV・プレミア男子を振り返って、他チームと比して東レが上回っていた点は色々とあるにせよ、集約すれば「脱・スーパーエース」に尽きると思う。自国ではレフト(WS)を務めるボヨビッチ選手をオポジットに配して、高くて早いテンポのライト攻撃(C1攻撃)を確率高く繰り出すことを基軸に据え、相手チームのブロック陣を決してデディケートで構えさせなかった。小林コーチが自身のブログで勝因として分析されているのが、シーズン前に主眼に据えて強化してきた「スパイク効果率(=(スパイク決定本数ー被ブロック本数ースパイクミス本数)/スパイク打数)をいかに上げるか?」ということを、狙い通りに達成できた点であったとのことだったが、それを達成できた一番の要因は、(NHKでの実況アナが語っていたように)堺が「1対1のブロック練習を重ね」ざるを得なかった程に、東レが繰り出すライト側の攻撃が早いテンポであったから、と言えるだろう。つまり、堺のブロック陣にとって、東レ相手にはレフト側へのデディケートでは対応できないと試合前から諦めさせることに成功していたと言えるのだ。そしてこの点は、堺以外のどのチーム、レギュラーラウンド1位のサントリーにとっても同じであった。一方、スパイク「効果率」を高めるために東レとしては当然、レセプション成功率を高めることが次の命題となるはずであり、そのために上背のない(184cm)米山選手がレギュラーとして選ばれる結果となったが、そのことは逆に東レにとっては諸刃の剣となる危険がはらんでいた。堺が「1対1」のマンツーマンで東レの攻撃に対応しようとしたのは、レフトに配された上背のない米山選手がレセプションの要であるが故に、彼のファーストテンポ・パイプ攻撃の出現確率が極めて低く、結果的に東レの攻撃ポイントが両サイドとセンターの速攻の「3つ」に絞られるからこそ、デディケートでなくスプレッドであっても「アタッカー3枚」と「ブロッカー3枚」の戦いを挑めると睨んだからであっただろう。しかし、今シーズンの東レには後衛レフトの選手が繰り出すファーストテンポ・パイプ攻撃よりももっとテンポの早い、セッター阿部選手の「ツー攻撃」という選択肢があったのだ。
もう一つ、上背のない米山選手がスタメンレフトに定着するにあたって、彼を前衛アタッカー2枚の機会が多くなる表レフトに配したのは、バックオーダー上で唯一、オポジットのボヨビッチ選手が前衛レフトを務めることになるローテーションで前衛ライトを務める必要のある表レフトの選手が、「ボヨビッチ選手並の早いテンポのC1攻撃を繰り出せる」必要があったからであろう。実際、セミファイナルラウンドのサントリー戦では、試合途中から越谷選手がスタメンレフトとして出るようになると、米山選手は表レフトから裏レフトに入れ替わった。越谷選手なら、米山選手と同様に早いテンポのC1攻撃を繰り出すことが出来るからだ(4年前、アブラーモフ選手を擁して初優勝を飾ったシーズンでは、彼がオポジットとして同じ「ライト側の早いテンポのC1攻撃を繰り出す」という使命を果たしていた)。その意味でも、今シーズンの東レのスタメン配列「裏レフトに攻撃型(small passer)の今田選手・表レフトに守備型(big passer)の米山選手、そして正セッターに長身左利きの阿部選手」というのは、まさに小林コーチが語っているように「スパイク効果率をいかに上げるか?」という命題が産み出した、必然的なオーダーだったと言えるだろう。
その中でも何より、長身で肘を曲げずに高い位置でセットアップ出来て、かつ、相手のブロックシステムを冷静に見極めてセット配分を決められ、さらにはいつでもツー攻撃が繰り出せ、さらにはブロックシステムで穴にならない・・・そういう理想的な左利きのセッターとして、1シーズンを通じてスタメンを務められる選手に、阿部選手が成長できたこと・・・これなしには今シーズンの東レの優勝は語れないだろう。そのことを決勝の舞台で、これでもかという位に見せつけることが出来た阿部選手は、間違いなく今シーズンのベストセッターであった。JVAが朝長選手を立てようと彼に敢闘賞を与えて阿部選手をベスト6に選ばないように幾ら画策したとしても、決勝戦を目にしたファンには、うだうだ語るまでもなく直感的に目に焼き付けられたはずだ。
この流れのまま、「"スピード"ではなく"テンポ"(その4)」に入りたいと思う。
p.s.(その1): 個人的には、堺の大道選手のプレーに、すごく目がいって仕方がない、最近の私・・・。間違いなく、ハマってます(爆)。
p.s.(その2):東レ男子の戦いぶりを会場で目の当たりにして、東レ女子の菅野監督や選手たちは、何を感じただろうか・・・?
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