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2008年9月15日 (月)

(北京オリンピック男子決勝)ブラジル - アメリカ(その3)

ブラジルのサーブから始まる第4セット、レゼンデ監督はアメリカが最初のサーバーをスタンリーにするためにスタートローテーションを「1つ戻して」くることを想定して、敢えて第3セットとはスタートローテーションを動かさずにスタート。その予想は的中し、スタンリーのサーブの場面では、狙い通りにセルジオが中央を守るローテーションが当たることとなる。さらにスタメンは、前セットでスタンリーを止めることに成功したムーリオをそのままレフトで使い、代わりにオポジットにアンドレでなくダンテを入れるという、普段見せないシフトを組んでくる。これが吉と出るか? 凶と出るか?

セッターのマルセロは、前セットの反省を踏まえ、セット序盤からアメリカのブロック戦術を逆手に取る形で、ネットから離れた位置でのセットアップでは速攻を使い、ネット際でのセットアップでは両サイドの攻撃を使い始める。狙い通り、アメリカのブロック陣は1枚にされて、久しぶりにブラジルリードでのファーストテクニカルタイムアウト。セット中盤では一進一退となるも、ムーリオの気迫溢れるプレーで16-14とセカンドテクニカルタイムアウトもブラジルがリード。さらにグスタボがプリディーを見事にシャットして、19-16と3点差となり、ブラジルがじりじり引き離しかける。お互いにサーブミスが続いて、20-17。ここで、再びマルセロのセットアップがネットから離れたところで、マルセロが速攻でなく、ムーリオのファーストテンポ・パイプ攻撃を選択してしまい、リーが見事にシャットして、20-18。直後、プリディーのスパイクサーブがムーリオのレセプションを乱して、ジバを3枚ブロックでシャット。20-19とアメリカが追い上げる。その勢いに乗って、スタンリーの軟打がラッキーにもブラジルコートに落ちて、遂に20-20の同点。ここで、この試合の最大のポイントが訪れる。ブラジルの5−2システムにおけるセカンドセッターであるリベロのセルジオが、トランジションでの後衛レフトの位置からのセットアップで、素直にオポジットのダンテにトスを上げるかと思いきや、アメリカのブロック陣の「裏をかこうと」レフトのジバにトスを上げた。結果は、リー・スタンリーの2枚ブロックのプレッシャーに負けたジバの弱気な軟打が、ネットにかかって20-21。「裏をかこうと」したつもりだったのだろうが、2セットを奪われて追い込まれていたブラジルのコート上の選手達の本当の気持ちは、「ジバに頼りたい」というものだったに違いない。代わる代わるオポジットの選手を代えて、何とか「左右対称性」を維持しようとしたレゼンデ監督の意図とは裏腹に、この大事な大事な第4セット終盤になって、レフトのジバに頼ってしまったブラジルの選手達、、、ここからブラジルのコート上の選手達は、これまでどんな状況(レセプション・トランジション)でも「確率高く"テンポの早い立体的3Dバレーを展開してきた」チームとは思えない、緩慢なプレーに終始し始めた。前衛レフトのジバ以外の選手達は、マルセロやセルジオがセットアップする状況で、スパイク助走に切り込むのをすっかり忘れて、ジバに上がるトスをただ呆然と眺めていた、、、。結果は想像に難くなく、ジバらしからぬ連続スパイクミスで、20-22。さらに弱気な軟打がスタンリーのブロックにかかって、21-23。もうブラジルは、ジバにしかトスが上がらない。一方のアメリカのセッター・ボールは、実はこの第4セット、前セットまで大活躍のスタンリーに対して、最後の最後に至るまでライト側には全くトスを上げなかった。それでもブラジルのブロック陣は、デディケートブロックは崩さないものの、アメリカの速攻に対してセンターブロッカーのグスタボやアンドレ・エレルがコミットで跳ばされてしまった。それはボールのトス回しもさることながら、こちらに図解(写真解?)されているとおり、アメリカのコート上の選手達が、ブラジルのお株を奪う様にボールのセットアップの瞬間にはスパイク助走に「真面目にサボらず」きっちり確実に切り込んできていたからだ。22-23の場面で、ボールはパスが乱れたトランジションの場面でミラーの速攻を選択。それがノーマークでブラジルコートに突き刺さったのが何とも象徴的だった。そして最後の最後に、遂にスタンリーのC1攻撃(バックアタック)を使い、それは決まらなかったものの、直後のトランジションで託されたハイセットでジバのディグを大きく弾いて、23-25。セットカウント1-3。これまで、高度な組織バレーとしての「全員バレー」を展開してトップを走ってきたはずのブラジルが、大事な場面でジバ一人に頼った形となって、最後まで「全員バレー」を崩さなかったアメリカに屈した瞬間だった。


この流れのまま、レゼンデバレー(最終章)へ突入することとする。


p.s.: 不動のスタメンに対して、普段は親しみを込めて、サザエさん風に『シャケさん』・πヲタ的に『リーさん』などと個人的に呼ばせて頂いていたアメリカ男子ナショナルチームが、ウィズ(バックマン)の御主人であるヒュー・マッカーチョン監督の下で金メダルを獲得したことに、πヲタとしても感無量の北京オリンピック男子決勝戦だった。

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コメント

いつも拝見する度、感心させられています。

いきなり質問なのですが、トス。
現在主流の戦術の主軸に 「早いトス(とテンポ)」が欠かせないのは、こちらのブログで概ね理解したつもりでおります。

セッターのトスアップの位置とアタッカーのヒットポイントの位置、二点からトスの軌道は物理の法則から導き出せますよね。
逆にその軌道は物理面から「限界がある」
ともいえますよね。
今の世界トップチームのトスはその物理的限界に近いところに来ているのでしょうか?
何故なら平行トスに限ればヒットする迄概ね一秒前後、これは男女関係なくこの辺りに落ち着いて来ているのはその証拠なのかなと…
突然の訪問での質問、お許し下さい。

投稿: ひろ | 2008年9月19日 (金) 13時03分

 ブラジル人特有のジンガとは、相手を惑わす動き、苦しいときほど力を抜いて素早く動く、目を開いて相手と周囲をよく見る、心の奥にいつも持っている“遊び心”、このように解釈しております。しかしやはり同じ人間です。千切れてしまうときもあるんですね。
 今回は私もアメリカチームに、少し「祈り」を込めて応援しました。
 それにしても、T.wさんの解説を先に読んでから試合を見たかったです。

投稿: one of No.33 | 2008年9月22日 (月) 19時00分

>ひろさん、初めまして。

回答が遅くなり、ごめんなさい。


>セッターのトスアップの位置とアタッカーのヒットポイントの位置、二点からトスの軌道は物理の法則から導き出せますよね。
>逆にその軌道は物理面から「限界がある」ともいえますよね。

はい、その通りです。アタッカーのスパイクヒットの位置がトスの描く放物線軌道の頂点に一致する、いわゆる「高くて早い」ファーストテンポのトスにおいては、セッターのセットアップ位置とアタッカーのスパイクヒット位置が決まれば、軌道は一つに決まります。ですから、その意味ではいくら早いテンポを追求しても限界があると理解できます。


ただし、更に早いテンポを追求する方法はあります、、、セッターのセットアップ位置が高くなれば(=アタッカーのスパイクヒット位置に近づけば)いいのです。

投稿: T.w | 2008年10月14日 (火) 01時04分

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