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2008年7月28日 (月)

"スピード"ではなく"テンポ"(その1)

以前こちら5−1システムの解説をした。これはチーム構成の話であるが、それと間違えないで頂きたいのだが、今回は攻撃の種類、すなわちトス(set)の話である。

海外では、攻撃の種類すなわちトス(set)は、次のような座標軸に基づいて呼称される(クリックで大きくなります)。


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以下に『セリンジャーのパワーバレーボール』での解説を引用する。

1973年にジム・コールマン博士は、各々のトスの種類と高さと場所を示す数字システムを提案した。私はこのコールマン氏のシステムを修正し・・・(中略)・・・場所を明確にするために、ネットは9等分、あるいはスロットに分割する。各スロットは1mの幅で、センターラインからアタックラインまで伸びている。


図に示されるとおり、セッターのセットアップ位置を0として、ネットに平行な水平座標軸で自チームでのレフト側を1〜5で設定、逆にライト側をA〜Cで設定する。アタッカーがスパイクヒットを行うスロット位置と、トスの高さとテンポを表す数字を1〜3で設定して、この両者を用いて「11トス」「31トス」「A1トス」「53トス」などと呼称される。日本で言えばそれぞれ、「Aクイック」「Bクイック」「Cクイック」「レフトオープントス」に相当する。

ここで2番目に並ぶ数字がテンポを表す数字であり、ファースト・テンポセカンド・テンポサード・テンポの3段階に分けられる。このそれぞれのテンポについては、恐らくプレー経験のない方でもある程度直感的には理解できるはずだ。要するにファースト・テンポは速攻だし、2段トスのような攻撃はサード・テンポである。しかし、ではファースト・テンポセカンド・テンポあるいはセカンド・テンポサード・テンポの境界線は? と言われると、非常に曖昧となる。高さのように客観的に数値化できるもので定義できれば明確だが、テンポは "tempo" であって、決して高さ "height" ではない。図ではネットより上方向に座標軸を設定しているが、これは概念的なものである。これは例えば、同じアタッカーが「51トス」「52トス」「53トス」をそれぞれ打ちわけるとしても、スパイクヒットの高さは決して変わるわけではないことを考えれば、理解して頂ける思う。

実際、テンポについて、同じく『セリンジャーのパワーバレーボール』での解説を引用すると

コーチやプレーヤーは、スパイカーによる接触とトスの間の経過時間“テンポ”を思い出すべきである。テンポは低さを意味するのではなく、また当然ボールのスピードを指すのでもない。

と明記されている。テンポはそれ自体、トスされるボールの頂点の高さともスピードとも無関係なパラメータである。だからこそ、「高くて(テンポの)早い」トスと「低くて(テンポの)早い」トスがあると、これまで何度も書いてきたとおりである。

「高くて早い」トスとは?(その1)
「高くて早い」トスとは?(その2)
(再掲載)「高くて早い」トスとは?

さらには、ボールのスピードなどは、ひょっとすると「51トス」よりも頂点が恐ろしく高いサード・テンポの2段トスの方が、ボールのスピードは速い可能性がある。物理学的に考えると、セッターのセットアップ位置(床からの垂直方向の高さ)をh(0)(メートル)・その位置からセットアップされるトスの垂直方向の速度をv(0)(メートル毎時)とし、セットアップの瞬間からt秒後のボールの位置(床からの垂直方向の高さ)をh(t)(メートル)・その瞬間のボールの垂直方向の速度をv(t)(メートル毎時)、重力加速度をgとすると、空気抵抗を無視すれば、、、

・v(t)=v(0)-g*t
・h(t)=h(0)+v(0)*tー1/2*g*t^2

となる。トスの放物線軌道において頂点を通過する瞬間にはv(t)=0となるので、この2式からtを消去すれば、「h(t)-h(0)=v(0)^2/2g」と計算され、トスの高さ(=h(t)-h(0))はセットアップされるトスの垂直方向の速度(=v(0))の2乗に比例することがわかる。ボールのスピードはトスの垂直方向の速度と水平方向の速度の合成で決まるので、水平方向の速度が速い「51トス」よりも垂直方向の速度が恐ろしく速いサード・テンポの2段トスの方が、ボールのスピードは速くなりうる。


日本のバレー界(特に女子)では、「変化とスピード」とか「日本のお家芸のスピードバレー」など、"スピード"という言葉がよく使われる。しかし、上述の事実から見て「スピード」などという言葉に何の意味もないことがわかるであろう。

最近になってようやくというか今更というか、「1秒の壁」などとマスコミは騒ぎ始め、本質がスピードではなくテンポであることに気づき始めたようだが、それだけでは理解は不充分である。何度も言うが、テンポとトスの高さは無関係であり、同じテンポでも「高い」トスと「低い」トスがある。高橋みゆき選手が打つ高速レフト平行も、キューバのルイザ選手が打つレフト平行も、実はテンポはほぼ同じ1.0秒であるが、スパイクヒットの高さは少なくとも40cm程も違う。2人のそれぞれの攻撃に対してブロックに跳ぶ場合、同じタイミングでブロックに跳んだとして、ブロックの上がり端で高橋みゆき選手の攻撃は止めることが出来ても、ルイザ選手の攻撃には間に合わないはずだ。テンポがすべてではなく、高さもやはり重要なのだ。

その点を踏まえてファースト・テンポセカンド・テンポサード・テンポの3段階を定義するとすれば、私は単にテンポの持つ意味以上に、高さの概念も含まれるべきだと思う。

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コメント

こんにちは
素晴らしい解説でよく理解できました。テレビ解説で「今の速攻は早かったですね」とか「○○選手のスイングスピードは速い」という評価がありますが、聞いていても何が早いのか、どこが速いのかサッパリわからないことがよくあります。
‘テンポ’の概念を理解することが、今の日本のバレーボール関係者(プレーヤーも指導者もファンも)必要と思いました。

技術の話しになりますが、早いクイックを打つためには「腕を早い段階で高く上げて待っておいて、ボールのあがりっぱなを叩け」というものがあります。(これは現全日本男子の監督の口から直接、発せられたのを聞いたことがあります)しかし、肝心のテンポがファーストテンポで無ければ早くもなんともない攻撃になってしまいます。

高さの話しも高橋選手とルイザ選手の比較でも納得です。女子の190センチ台の選手だと高橋選手の打点だと下手をすると横への移動だけでボールに触れちゃうんですよね。「高さには速さで対抗する」という話は何十年も日本のバレーで唱えられているお題目ですが、何十年も速さだけでは勝っていないのが事実です。

投稿: オリビア | 2008年7月29日 (火) 10時52分

トスアップの高さと速さの話なのですが、以前に栗原、高橋のスパイク位置とトスアップ位置との差が、各々の”テンポ”の速さに影響しているという議論がありました。

今回のブログで再び興味を持ち、スパイク位置の差でどのぐらいボールの軌道が違うのかを計算してみました。

トスは斜方投射ですので、トスアップからスパイク点までの高さYは、トスの初速をV(0)、角度をθ、到達時間をt、重力加速度をgとすると以下の式で表せます。

 Y=V(0)sinθ・t-1/2gt^2

重力加速度は定数で一定なので、仮に到達時間を1秒、栗原のスパイク点310cm(最高到達点)と竹下のトスアップ点205cm(指高-10cm)から高さYを115cmとすると、V(0)sinθは以下となります。

 V(0)sinθ=605cm/sec(栗原の場合)

同じ様に高橋のスパイク点を285cm(最高到達点)とすると、以下の様になります。

 V(0)sinθ=580cm/sec(高橋の場合)

スパイク点と到達時間が決まると、そこへ到達させるトスは、トスの初速V(0)と角度θで決まる訳です。では、到達時間を1秒と同じで考え、5m幅の平行トスを上げた場合、トスの違い(初速、角度の差、トス軌道の頂点の差)はどのくらいか計算してみます。途中計算は省略しますが、以下の通りです。

 栗原の場合 : 初速28.2km/sec 角度50.5° 頂点187cm
 高橋の場合 : 初速27.6km/sec 角度49.3° 頂点172cm

トスの軌道は本当に僅かなんですね。これから言えば、速い質のトスさえ上げれば栗原が速い攻撃を行なうのは可能ということです。

更に、同じ到達時間でトスをスパイクする場合、頂点とスパイク点の高さの差は高橋の方が大きいので、垂直方向の落下速度はより大きくなっているのです。ということは、同じ到達時間でスパイクした場合には栗原の方が打ち易いトスになるということも言える訳です。

投稿: to | 2008年8月 2日 (土) 17時40分

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» 世界一速い攻撃は、キューバのストレートフォーワードアタック? [area71]
キューバが90年代の世界3大大会を制覇し続けました。 優れた身体能力があったこともそうですが、それだけで10年もの間 勝ち続けられるものでしょうか。キューバには、日本より速い平行トスもありませんし、 X−PLAYは時々Right Xがある程度で、コンビネーションといわれるようなアタックは あまりありませんでした。それに組織的なバック攻撃などもありませんでした。 現在のチームもほぼその路線を継承しています。 それにも拘らず、90年代-00年当時、各..... [続きを読む]

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