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2008年7月 2日 (水)

"えせリードブロック"改め"ゲスブロック"

こちらで解説したえせリードブロックだが、東レアローズ男子の小林敦コーチのスポーツナビでのコラムでも登場し、本日届いていた『Coaching & Playing Volleyball(CPV)』の56号でも、米山一朋(嘉悦大)監督の記事中で登場しているゲスブロック "guess block" という言葉が、これと同じ概念を表す用語と考えられる。ゲス "guess" とはまさに「当てずっぽう」の意味である。

ところで、リードブロックの説明として時折、「トスの上がる場所を『読んで』跳ぶブロック」という表現を目にする。リード "read" の訳語が『読む』であることから、このような表現が出てくるものと推測するのだが(何を隠そう、私自身も'99年ワールドカップレポの際には、同じような表現を一部使っていた)、この表現はよく考えると誤解を非常に招きやすい表現である。日本語の『読む』には、単純に「書かれている文字を字面通りに『読む』」という意味もあるが、同時に「行間を『読む』」という表現に代表されるように「書かれていないもの、見えないものを心の目で『読む』」という意味がある。そのため「トスの上がる場所を『読む』」というと、「トスがどこに上がるのかを『予想する』」という意味にとられかねない。そのように誤解するとまさにえせリードブロック改めゲスブロック "guess block" となってしまう。恐らく日本人にとっては、リード "read" という言葉よりも、『セリンジャーのパワーバレーボール』で採用されているシー アンド レスポンド "see and respond" という言葉の方が、スムーズに概念を理解しやすいだろう。

日本人は外国語を理解する際に、いったん日本語の訳語に置き換えないと、意味を理解できないという悪い癖がある。言葉は文化に根ざしたものであり、それぞれの国で文化背景も全く異なるわけなので、訳語といっても必ずピタッと一致するものではない。従って、いったん訳語に置き換えるのではなく、出来れば原文のまま意味を理解しようとした方がいい。今説明したリードブロックの例は、まさにその日本人の悪い癖が災いする好例だと思う。以前何度か解説したデディケートなどは、確かに日本人には馴染みがない英語なので、意味が理解しにくいと思われるが、だからといってそれを無理に訳語を当てるとますます意味がわからない(しばしば『捧げる』という解説がなされているのを見るが、英語の "dedicate" と日本語の『捧げる』は、概念が必ずしも一致しない、、、あくまで「(何かに対して)(自分の神経などを)集中させる」というのが "dedicate" であって、(自分の神経などを)の部分に(自分の人生や一生を)が入った場合に『捧げる』という日本語が当てはまるだけである)。無理に訳語などに置き換えずにデディケートという新しい言葉として理解した方がいい。

例えば "libero" はもともとイタリア語で『自由』を意味する言葉だが、バレーにおけるリベロは実際には『自由』どころかプレー上たくさんの制約で縛られている。 "libero" が日本で『自由』という言葉として馴染みがある言葉であったならば、リベロ制導入時に多くの人が違和感を覚えて、ルールとしても浸透しなかったはずだ。ところが、実際には違和感どころか、すっかり当たり前のルールとして定着した。 "libero" がイタリア語でどういう意味なのか? など知らなくても、リベロという新しい言葉として、日本のバレーファンに定着したのだ。

本当は、日本人誰もが意味を「すぐに」「正しく」理解できる言葉を当てはめられたら一番いいのだろうが、バレーボールというスポーツにおける戦術用語に限っては、その概念自体が日本のバレーボール界に存在しないことも多いという現実があるため、実際には困難であろう。「戦術面で日本が世界から遅れを取っている」という現実を直視するためにも、ある程度英語の戦術用語を採り入れて行くべきだろうと個人的には思う。

えせリードという言葉は個人的にはすごく気に入っているのだが、この言葉だけでは "guess" の概念の全てを表現できてはいない。従って、これからはゲスブロック "guess block" で統一したいと思う。

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コメント

こんにちは。

「guess block」は、日本人にとっては「下衆ブロック」に聞こえてしまうという新たな障害がありますよね(笑)

私は「read block」はセッターの動きを「読みとる」ブロックで、「guess block」がトスが上がる位置を「推測する」(←経験に裏打ちされた読みから、あてずっぽうまで)ブロックと理解しています。

ただ、結果だけで言えば素人目には同じように見えてしまうので、確かにややこしい用語ですよね。

「観察ブロック」「推測ブロック」「待ち受けブロック」(←コミットブロック)みたいに日本語が入ったほうがわかりやすそうな気がします(いま適当に作りました)。

「guess block」だと、あまりの響きの悪さに、日本ではブロックの選択肢として認められなくなるのではと心配です。

バレーとちょっと離れますが、外来語をそのまま使うことのぜひは難しい問題だと思います。訳語が一概に悪いとは言えないですよね。「社会」「演説」「自由」「電話」などなど、すべて明治時代に作られた訳語ですし、「ファジー」みたいに流行ったのに定着しなかった外来語もたくさんあります。

中国はほぼすべてのバレー用語を中国語訳して、漢字で視覚的に理解できるようになってますよね。そうした創造力と工夫は、外来の思想を定着させる場合に効果を発揮すると思います。

ですので個人的には、世界に追いつくためには導入した戦術を日本語に置き換えていく努力が必要なのではないかと思っています。

逆の立場で言えば、欧米系の国は「一人時間差」「速攻」「移動攻撃」など日本発の戦術をすべて自国語に訳して自分たちのものにしていますよね。

W杯の時にゾルジがコラムで書いてましたが、日本でいうブロードは、単に「quick」というほか、「slide」「korea」「china」など各国でいろいろな呼び名があるそうです。(なんで「japan」が無いのかは謎です)

「libero」をカタカナで「リベロ」といっても原語と概念がイコールになるわけではないですし、やはり言葉は文化ですから、輸入した文化を自分たちの文化とつなぎ合わせ、消化する手続きがあったほうが良い様に思っています。

投稿: rio | 2008年7月 3日 (木) 02時21分

ナベさんの英語の授業思い出しましたわ

投稿: オーツカ | 2008年7月 7日 (月) 00時02分

お久しぶりです。
GUESSという言葉が広く外来語で認知されていない現状がありますよね。誰かが命名したことを流通させるとやはりに二番煎じっぽくなってしまうのがつらいところです。

しかしながら、GUESS BLOCKという言葉を英語で言っている人の言葉を訳して、日本人に伝える場合は反対に"あてずっぽうブロック”として伝えたりしていました。

言葉で聴いて視覚化出来る語彙を日本語でのバレー専門用語でも持ちたいものです。

投稿: area71 | 2008年7月 9日 (水) 22時33分

サッカーのゴールキーパーのPKにおける判断力にも近似しているかもしれませんね。

投稿: 春春 | 2008年7月10日 (木) 00時12分

>rioさん

いつもありがとうございます。

>「guess block」は、日本人にとっては「下衆ブロック」に聞こえてしまうという新たな障害がありますよね(笑)

そうですね、確かに(笑)。
ただ、これは私の個人的な意見ですが、組織的ブロックシステムにあっては「ゲスしない」のが基本だと思うのです。時に勝負を賭けたゲスブロックがあってもいいと思います。その日のデータを分析した上で。でも、その場面でも個々人がバラバラにゲスブロックをしたらシステムとして機能しませんから、その場合はコミットに近くなると思います。ですから、あくまで「guess block」はあまりいい意味で使う言葉じゃないと思うのです。

>「guess block」だと、あまりの響きの悪さに、日本ではブロックの選択肢として認められなくなるのではと心配です。

上述の考えですので、あえて響きの悪い言葉の方がいいかもしれません(苦笑)。「えせリード」もある意味そうですね。


>個人的には、世界に追いつくためには導入した戦術を日本語に置き換えていく努力が必要なのではないかと思っています。

はい、できれば私もそうするべきだと思います。でも時間がかかりますよね、多分。自国の言葉で消化する手順は踏むことを前提にしつつ、まず概念をいち早く導入するために、特にブロック戦術のような、日本が大きく立ち後れた分野については、ある程度外国語で覚えないといけないかと思ってます。

逆に、日本には「2段トス」という言葉があります。これに相当する言葉が外国語にはないようです(外国では、以前ブログの記事でも採り上げた "high set" があるのですが、概念は「2段トス」とは必ずしも一致しないと思っています)。どうやら「2段」は従来の9人制で使われていたところからついた用語のようで、「1段」「3段」という言葉もあったようなのですが、「2段」だけが現在まで残っているのです。これも、「2段トス」の本質を抽出して、逆に世界に発信できるような用語をつける必要があると思ってます・・・個人的には "transition set" かな? と・・・また横文字になってますが(苦笑)。

投稿: T.w | 2008年7月14日 (月) 00時57分

>オーツカ

覚えてるのか・・・(苦笑)、なにがしかでも君の中に残っていてくれて嬉しいよ。

投稿: T.w | 2008年7月14日 (月) 01時00分

>area71さん

こちらこそ、ご無沙汰しています。

area71さんのブログで、中国でのバレー用語を拝見して、素晴らしいなといつも感動しています。

同じ漢字を使う民族なのだから、、、と思うのですが、恐らく「バレーボール」というスポーツが、きちんと学問として体系化されている国と、そうでない国という違いもあるのかな? という気もしています。

「バレーボール」をただのテレビのエンターテインメントじゃなく、立派なスポーツ文化として、そして学問として確立させたいものです。

投稿: T.w | 2008年7月14日 (月) 01時07分

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