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2008年7月31日 (木)

"スピード"ではなく"テンポ"(その2)

ここからは私独自の解釈である。

ファースト・テンポの攻撃とは、「トスされたボールが、放物線軌道の頂点に到達する前か、頂点付近を通過するところでスパイクヒットを行う攻撃」と定義してはどうかと思う。トスの描く放物線軌道の頂点が、アタッカーの最高到達点に一致した場合に、そのアタッカーにとって最も理想的に早いテンポのトスとなる。同じファースト・テンポであっても、アタッカーが違えば(即ち最高到達点が違えば)トスの軌道は異なって当然である。一方、セカンド・テンポサード・テンポの攻撃は「トスされたボールが、放物線軌道の頂点を通過し、ボールが落ちてきてからスパイクヒットを行う攻撃」であり、その中でセカンド・テンポの攻撃とは、「ファースト・テンポの攻撃に対してコミットで跳んだブロッカーが、ブロックジャンプを終えて地面に足がついた直後に、もう一度ブロックに跳ぼうとしても(=二度跳びでは)間に合わないタイミングでスパイクヒットを行う攻撃」と定義すれば良いのではないかと思う。近接するスロットでファースト・テンポの攻撃とセカンド・テンポの攻撃を組み合わせれば、それは即ち、いわゆる時間差攻撃となる。サード・テンポの攻撃は「ファースト・テンポの攻撃に対してコミットで跳んだブロッカーが、二度跳びでも間に合うタイミングでスパイクヒットを行う攻撃」であって、ファースト・テンポの攻撃と組み合わせても時間差攻撃にはならない。

ここで(その1)に載せた図をもう一度参照して欲しい。1mきざみに9等分された各スロットは、センターラインからアタックラインまでを含んだ空間である。スロットの場所とテンポの2つで表される海外の攻撃システムは、実はバックアタックにもそのまま使用できるという利点がある。即ち、バックプレーヤーへの「12トス」が従来のパイプ攻撃であり、これは前衛センタープレーヤーの速攻、即ちファースト・テンポの攻撃と絡める、セカンド・テンポのバックアタックである。一方、ブラジル男子ナショナルチームが開発した高速パイプ攻撃は「31トス」や「A1トス」と表現できる。即ち、これはファースト・テンポのバックアタックである。(その1)で書いたように、本質はスピードではない。そのことをわかっていながら、私自身も「『高速』パイプ攻撃」という表現を用いてることに、矛盾を感じていた。テンポという言葉を使えば、すっきりと表現が可能なのだ。

レゼンデバレー(その1)- 高速パイプ攻撃

日本のバレーファン・マスコミの間では、未だにいわゆる時間差攻撃がもてはやされている傾向にある。しかし、バンチ・リードブロックシステムが基本の、現在の世界のトップレベルのバレーにおいて、最も有効な攻撃システムの基本形は「51(前衛レフトのレフト平行)・11(前衛センターの速攻)・C1(オポジットのライト側の攻撃)・31(後衛レフトの高速パイプ攻撃)」、即ち、セッターとリベロを除いた4人のアタッカー全員がファースト・テンポの攻撃、即ち4人全員が同じテンポの攻撃を行う形である。この本質に気づかなければ、いつまで経っても高さで敵わない日本が海外勢に立ち向かえる時はやってこないはずだ。

・関連記事その1:『area71』世界一速い攻撃は、キューバのストレートフォーワードアタック?
・関連記事その2:『ベリーロールな日々』目指せ!シンクロナイズド・縦バレー!

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2008年7月28日 (月)

"スピード"ではなく"テンポ"(その1)

以前こちら5−1システムの解説をした。これはチーム構成の話であるが、それと間違えないで頂きたいのだが、今回は攻撃の種類、すなわちトス(set)の話である。

海外では、攻撃の種類すなわちトス(set)は、次のような座標軸に基づいて呼称される(クリックで大きくなります)。


Photo


以下に『セリンジャーのパワーバレーボール』での解説を引用する。

1973年にジム・コールマン博士は、各々のトスの種類と高さと場所を示す数字システムを提案した。私はこのコールマン氏のシステムを修正し・・・(中略)・・・場所を明確にするために、ネットは9等分、あるいはスロットに分割する。各スロットは1mの幅で、センターラインからアタックラインまで伸びている。


図に示されるとおり、セッターのセットアップ位置を0として、ネットに平行な水平座標軸で自チームでのレフト側を1〜5で設定、逆にライト側をA〜Cで設定する。アタッカーがスパイクヒットを行うスロット位置と、トスの高さとテンポを表す数字を1〜3で設定して、この両者を用いて「11トス」「31トス」「A1トス」「53トス」などと呼称される。日本で言えばそれぞれ、「Aクイック」「Bクイック」「Cクイック」「レフトオープントス」に相当する。

ここで2番目に並ぶ数字がテンポを表す数字であり、ファースト・テンポセカンド・テンポサード・テンポの3段階に分けられる。このそれぞれのテンポについては、恐らくプレー経験のない方でもある程度直感的には理解できるはずだ。要するにファースト・テンポは速攻だし、2段トスのような攻撃はサード・テンポである。しかし、ではファースト・テンポセカンド・テンポあるいはセカンド・テンポサード・テンポの境界線は? と言われると、非常に曖昧となる。高さのように客観的に数値化できるもので定義できれば明確だが、テンポは "tempo" であって、決して高さ "height" ではない。図ではネットより上方向に座標軸を設定しているが、これは概念的なものである。これは例えば、同じアタッカーが「51トス」「52トス」「53トス」をそれぞれ打ちわけるとしても、スパイクヒットの高さは決して変わるわけではないことを考えれば、理解して頂ける思う。

実際、テンポについて、同じく『セリンジャーのパワーバレーボール』での解説を引用すると

コーチやプレーヤーは、スパイカーによる接触とトスの間の経過時間“テンポ”を思い出すべきである。テンポは低さを意味するのではなく、また当然ボールのスピードを指すのでもない。

と明記されている。テンポはそれ自体、トスされるボールの頂点の高さともスピードとも無関係なパラメータである。だからこそ、「高くて(テンポの)早い」トスと「低くて(テンポの)早い」トスがあると、これまで何度も書いてきたとおりである。

「高くて早い」トスとは?(その1)
「高くて早い」トスとは?(その2)
(再掲載)「高くて早い」トスとは?

さらには、ボールのスピードなどは、ひょっとすると「51トス」よりも頂点が恐ろしく高いサード・テンポの2段トスの方が、ボールのスピードは速い可能性がある。物理学的に考えると、セッターのセットアップ位置(床からの垂直方向の高さ)をh(0)(メートル)・その位置からセットアップされるトスの垂直方向の速度をv(0)(メートル毎時)とし、セットアップの瞬間からt秒後のボールの位置(床からの垂直方向の高さ)をh(t)(メートル)・その瞬間のボールの垂直方向の速度をv(t)(メートル毎時)、重力加速度をgとすると、空気抵抗を無視すれば、、、

・v(t)=v(0)-g*t
・h(t)=h(0)+v(0)*tー1/2*g*t^2

となる。トスの放物線軌道において頂点を通過する瞬間にはv(t)=0となるので、この2式からtを消去すれば、「h(t)-h(0)=v(0)^2/2g」と計算され、トスの高さ(=h(t)-h(0))はセットアップされるトスの垂直方向の速度(=v(0))の2乗に比例することがわかる。ボールのスピードはトスの垂直方向の速度と水平方向の速度の合成で決まるので、水平方向の速度が速い「51トス」よりも垂直方向の速度が恐ろしく速いサード・テンポの2段トスの方が、ボールのスピードは速くなりうる。


日本のバレー界(特に女子)では、「変化とスピード」とか「日本のお家芸のスピードバレー」など、"スピード"という言葉がよく使われる。しかし、上述の事実から見て「スピード」などという言葉に何の意味もないことがわかるであろう。

最近になってようやくというか今更というか、「1秒の壁」などとマスコミは騒ぎ始め、本質がスピードではなくテンポであることに気づき始めたようだが、それだけでは理解は不充分である。何度も言うが、テンポとトスの高さは無関係であり、同じテンポでも「高い」トスと「低い」トスがある。高橋みゆき選手が打つ高速レフト平行も、キューバのルイザ選手が打つレフト平行も、実はテンポはほぼ同じ1.0秒であるが、スパイクヒットの高さは少なくとも40cm程も違う。2人のそれぞれの攻撃に対してブロックに跳ぶ場合、同じタイミングでブロックに跳んだとして、ブロックの上がり端で高橋みゆき選手の攻撃は止めることが出来ても、ルイザ選手の攻撃には間に合わないはずだ。テンポがすべてではなく、高さもやはり重要なのだ。

その点を踏まえてファースト・テンポセカンド・テンポサード・テンポの3段階を定義するとすれば、私は単にテンポの持つ意味以上に、高さの概念も含まれるべきだと思う。

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2008年7月 2日 (水)

"えせリードブロック"改め"ゲスブロック"

こちらで解説したえせリードブロックだが、東レアローズ男子の小林敦コーチのスポーツナビでのコラムでも登場し、本日届いていた『Coaching & Playing Volleyball(CPV)』の56号でも、米山一朋(嘉悦大)監督の記事中で登場しているゲスブロック "guess block" という言葉が、これと同じ概念を表す用語と考えられる。ゲス "guess" とはまさに「当てずっぽう」の意味である。

ところで、リードブロックの説明として時折、「トスの上がる場所を『読んで』跳ぶブロック」という表現を目にする。リード "read" の訳語が『読む』であることから、このような表現が出てくるものと推測するのだが(何を隠そう、私自身も'99年ワールドカップレポの際には、同じような表現を一部使っていた)、この表現はよく考えると誤解を非常に招きやすい表現である。日本語の『読む』には、単純に「書かれている文字を字面通りに『読む』」という意味もあるが、同時に「行間を『読む』」という表現に代表されるように「書かれていないもの、見えないものを心の目で『読む』」という意味がある。そのため「トスの上がる場所を『読む』」というと、「トスがどこに上がるのかを『予想する』」という意味にとられかねない。そのように誤解するとまさにえせリードブロック改めゲスブロック "guess block" となってしまう。恐らく日本人にとっては、リード "read" という言葉よりも、『セリンジャーのパワーバレーボール』で採用されているシー アンド レスポンド "see and respond" という言葉の方が、スムーズに概念を理解しやすいだろう。

日本人は外国語を理解する際に、いったん日本語の訳語に置き換えないと、意味を理解できないという悪い癖がある。言葉は文化に根ざしたものであり、それぞれの国で文化背景も全く異なるわけなので、訳語といっても必ずピタッと一致するものではない。従って、いったん訳語に置き換えるのではなく、出来れば原文のまま意味を理解しようとした方がいい。今説明したリードブロックの例は、まさにその日本人の悪い癖が災いする好例だと思う。以前何度か解説したデディケートなどは、確かに日本人には馴染みがない英語なので、意味が理解しにくいと思われるが、だからといってそれを無理に訳語を当てるとますます意味がわからない(しばしば『捧げる』という解説がなされているのを見るが、英語の "dedicate" と日本語の『捧げる』は、概念が必ずしも一致しない、、、あくまで「(何かに対して)(自分の神経などを)集中させる」というのが "dedicate" であって、(自分の神経などを)の部分に(自分の人生や一生を)が入った場合に『捧げる』という日本語が当てはまるだけである)。無理に訳語などに置き換えずにデディケートという新しい言葉として理解した方がいい。

例えば "libero" はもともとイタリア語で『自由』を意味する言葉だが、バレーにおけるリベロは実際には『自由』どころかプレー上たくさんの制約で縛られている。 "libero" が日本で『自由』という言葉として馴染みがある言葉であったならば、リベロ制導入時に多くの人が違和感を覚えて、ルールとしても浸透しなかったはずだ。ところが、実際には違和感どころか、すっかり当たり前のルールとして定着した。 "libero" がイタリア語でどういう意味なのか? など知らなくても、リベロという新しい言葉として、日本のバレーファンに定着したのだ。

本当は、日本人誰もが意味を「すぐに」「正しく」理解できる言葉を当てはめられたら一番いいのだろうが、バレーボールというスポーツにおける戦術用語に限っては、その概念自体が日本のバレーボール界に存在しないことも多いという現実があるため、実際には困難であろう。「戦術面で日本が世界から遅れを取っている」という現実を直視するためにも、ある程度英語の戦術用語を採り入れて行くべきだろうと個人的には思う。

えせリードという言葉は個人的にはすごく気に入っているのだが、この言葉だけでは "guess" の概念の全てを表現できてはいない。従って、これからはゲスブロック "guess block" で統一したいと思う。

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