2007年12月31日 (月)

レゼンデバレー(第10章)- 死角はないのか?

レゼンデバレーの締めくくりとして、このテーマを掲げてみたいと思う。もちろん、私のような一介のファンに「どうやったらブラジルに勝てるか?」などという大それた戦略など立てられるはずもない。ただ、今大会では実に久しぶりに、目の前で(正確には、テレビの前で)ブラジルが負ける瞬間を目にするという、ある意味「貴重な」体験をすることが出来た(昨年の世界バレーでもブラジルは1次予選でフランスに敗れているが、確かその試合はスカパーでも中継がなかった)わけなので、その「貴重な」ブラジルの負けゲームとなった、今大会のアメリカ戦を分析してみたいと思う。

(第9章)で書いたとおり、この試合でのアメリカのスタートローテーションの戦術は、レセプションからスタートするセットに対してサーブからスタートするセットでスタートローテーションを「1つ回し」て、常にスタンリーのサーブから始まるようにするという、「従来の」戦術であった。これは誰でも(どこの国でも)考えることであろうが、ブラジルのあの高速立体的3Dバレーを切り崩すためには、強烈なスパイクサーブを見舞うのが最も近道であり、世界でも屈指のスパイクサーブを打てるスタンリーのサーブが回ってくる機会を最大限にしたいというヒュー・マッカーチョン監督の意図は、実に単純明快であった。そしてそれは、第1セットから見事にハマった。(第8章)で書いたとおり、セット序盤こそブラジルペースで試合が進んだが、マルセロの両サイドへのトスが「低くて早い」トスになったのに乗じて、まずダンテを潰し、続いてアンドレを潰した。それで逆転に成功したアメリカは、セット終盤に追いつかれてジュースに持ち込まれたが、その緊迫の競り合いの中でヒュー・マッカーチョン監督の「狙い通り」26-26の場面でスタンリーのサーブが回ってきて、そして彼は見事に連続サービスエースを決めたのだった。

第2セット、ブラジルはスタートローテーションを変化させてきた。もちろん、スタンリーのサーブの場面でのサイドアウト率を上げるためだったのだろうが、結局スタート早々から前セット最後の余韻を引くかのように、アメリカが連続得点を稼いで主導権を握る。しかし、ブラジルも易々とは引き下がらない。第1セットで両サイドの高速平行をアメリカのブロック陣に悉く押さえ込まれたことからわかるように、アメリカのブロック陣が「スプレッド」となっているところで、マルセロは高速パイプを多用し始め、それでブラジルが流れを掴んでセット中盤で逆転、21-17とリードしてセット終盤を向かえる。ところが、この劣勢の場面でアメリカのブロック陣は、非常に柔軟なブロックシステムを敷き始める、、、ブラジルのレセプションが返る位置(=セッターがトスアップを行う位置)によって、ブロックシステムをその都度切り替え始めたのだ。恐らくはこの日のアメリカのアナリストのはじき出した「データ」からは、ブラジルのセッター・マルセロがアタックライン付近からセンターの速攻を使おうとしていないことが十分に伺えたと推測する。実際、ブラジルのレセプションが理想的な場所に上がるとサイドブロッカーはスプレッドに構え、センターブロッカーはコミットで速攻に跳ぶ。レセプションが乱れると、バンチで構えて高速パイプか両サイドの平行をマークする、、、それが24-23とブラジルのセットポイントの場面で、アンドレのライトからのバックアタックに3枚ブロックが完成してシャット・26-25の場面の同じくブラジルのセットポイントの場面で、ジバの高速レフト平行に2枚ブロックが完成してシャット・28-28の場面で、アンドレの高速レフト平行に2枚ブロックが完成してシャットする結果を生み、最後はレセプションがきちんと入った場面でのロドリゴの速攻に、リーがコミットで1枚でシャットして、2セット連続でジュースの死闘をものにする結果を生んだ。逆にブラジルは、アメリカのセッター・ボールがアタックライン付近からセンターの速攻を多用するために、そういったブロックシステムの「瞬時の」切り替えは出来ない戦いを強いられた。

第3セット、ブラジルはまたまたスタートローテーションを変化させる。一方のアメリカはスタンリーのサーブから始まるのは同様。2セット連取した勢いも重なり、アメリカのスパイクサーブはスタンリーのそれだけに限らず、ますます勢いが出始める。追い込まれたレゼンデ監督はたまらずアンドレを「スーパーエース」のアンデルソンに交代。レセプションが乱れて高速立体的3Dバレーを繰り出せない苦しい場面を、彼が何とか切って、セット中盤までは競る展開となるが、セット終盤にはダンテもジバも高速パイプに切り込んで行けないほどにレセプションを崩され、ダンテもムーリオと交代させられる。その代わったムーリオも崩され、それで勝負あり。最後は、ブラジルとは思えないようなミスの連続で自滅。ブラジルの選手達も人の子だったんだと再確認(苦笑)。

やはり、勝敗を分けたのは第2セット終盤の攻防だったと思う。(第9章)で書いたとおり、試合中・各セット中に如何に「迅速に」アナリストが監督にデータをフィードバックできるか? そして、それを試合中・各セット中に如何に「的確に」監督が各選手に伝えることができるか?、、、この日に限っては、この点が明らかにアメリカに軍配が上がったと言える。さらには、その背景となったのが、アタックライン付近からセンターの速攻を使う能力、、、これもアメリカのセッター・ボールの方が上だった。アタックライン付近から高速立体的3Dバレーを繰り出すのがレゼンデバレーの中核となる戦術だが、このアメリカ戦を見る限りは、センターの速攻にトスアップする能力にリカルドとマルセロの差を見た気がする。今後ひょっとすると、「アタックライン付近から如何にセンターの速攻を使えるか?」が世界のトップレベルの男子バレー界にあっての大きな鍵になってくるかもしれない。この点を来年のオリンピックに向けて、注目してみていきたいと思う(rioさんの『ベリーロールな日々』でも、この点は盛んに取り上げられていた。)


さぁ、これで晴れて年明けからは頭を切り換えて、V・プレミアモードへ突入できる・・・と思ったら、天皇杯・皇后杯があるのね、、、なんて中途半端な時期に作ったんだろう(苦笑)。

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2007年12月28日 (金)

レゼンデバレー(第9章)- 続・スタートローテーションのトレンド

世界バレーで「宿題にする」と公言しながら、(第6章)でまとめきれずに終わった「現在の男子バレーの戦術のトレンド」としてのスタートローテーション。今回のワールドカップまで見終わって、ようやく見えてきたことがある。

これまで何度も書いてきたとおり、スタートローテーションに関する戦術としては、自チームがレセプションからスタートするセットとサーブからスタートするセットで、スタートローテーションを変えない戦術と1つ回す戦術がある。前者を採る場合には、自チームがレセプションからスタートするセットとサーブからスタートするセットで、自チームのサーブ順が変わる(レセプションからスタートするセットでは、スタートローテーションで前衛ライトに位置する選手が最初のサーバーとなり、サーブからスタートするセットでは、スタートローテーションで後衛ライトに位置する選手が最初のサーバーとなる)。一方レセプションに関しては、どちらのセットでも常に、スタートローテーションでのレセプションフォーメーションから始まることになるので、この戦術を採るメリットは、スタートローテーションの1つ前のローテーションでのレセプションの機会を最小限にできるという点が挙げられ、従って、6つある各ローテーションの中で極端にサイドアウト率が低いローテーションがあるチームに適した戦術と言える。(第6章)で書いたとおり、昨年のワールドリーグ頃までのブラジルは、この戦術を採用してオポジットのアンドレが前衛レフトに位置するレセプションフォーメーションが常に最後に回ってくるようにしているケースが目立った。一方、後者を採る場合には、常にスタートローテーションで前衛ライトに位置する選手が最初のサーバーとなり、自チームに群を抜いて強力なサーバーがいる、即ち、6つある各ローテーションの中で極端にブレイク率が高いローテーションがあるチームに適した戦術と言える。今大会でブラジルから唯一勝ち星を奪ったアメリカは、ブラジル戦に限ってファーストサーバーが常にスタンリーとなるような戦術を採り、それによってブラジルの頑丈なレセプションを崩すことに見事に成功した。また後者は「相手チームがスタートローテーションを変えない」という前提において、常に同じサーバーが相手の同じレセプションフォーメーションと相対することが可能となるため、ブロックシステムの戦略などで相手チームとのマッチアップを重視する場合に有利となる戦術でもある。もちろん、相手チームのスタートローテーションを想定した上での戦術と言え、これについては東レアローズ男子の小林敦コーチのブログ『排球参謀』記事の中でも取り上げられている。


相手のスタートローテーションを知った上で、自チームのスタートローテーションを決める事が出来れば良いのですが、メンバー表提出のタイミングなどを考えると不可能に近いと思います。

ですから、基本的には相手のスタートローテションを予測して、そのスタートローテーションに対応した自チームのスタートローテションを決める事になります。
結論としては「監督の駆け引き」にかかるという事です。

相手のデータが揃った段階では、この予測が当たるケースも増えますが、基本的には5/6でハズれるわけですから、あまりにもスタートローテーションに依存した戦術を組み立てる事は危険を伴います。

そのような理由から、
相手に対応したスタートローテションを組むチームより、自チームの強みを最大限に活かそうとするスタートローテションを組むチームが多いような気がします。


現在のV・プレミアリーグにあっては(特に女子で顕著だが)、(第6章)で書いた従来の「常識」である、オポジットの選手が前衛レフト(=セッターが後衛ライト)のローテーションからスタートするチームがほとんどである。『自チームの強みを最大限に活かす』とは、裏を返せば「自チームの弱点を最小限にする」という意味でもあり、即ち現在のV・プレミアリーグにあっては、セッターが前衛であるローテーションでのサイドアウト率が極端に低いということを各チームが暗に認めてしまっているわけである。従って、V・プレミアリーグにあっては、相手チームのスタートローテーションを予測することは(特に女子では)実際には比較的容易なはずだ。

一方、世界のトップレベルの男子バレー界にあっては、(第6章)で書いたとおり従来の「常識」のスタートローテーションは見られなくなっている。その理由も(第6章)で書いたとおりだが、そうなると確かに『相手のスタートローテーションを知った上で』ということにはならないので、『自チームの強みを最大限に活かし』て、常に自チームのサイドアウト率が強いローテーションからスタートする、あるいは、常に自チームのブレイク率が強いローテーションでのサーバーがファーストサーバーとなるようにスタートローテーションを「1つ回す」ということになりそうだが、今大会を見ていると実際にはそうはなっていないのだ。例えば、今大会でのブラジルは、試合毎にスタートローテーションを大きく変えており、さらに1試合の中でも各セット毎に「不規則に」スタートローテーションを変えていた。そこには「レセプションからスタートするセットに対して、サーブからスタートするセットでローテーションを1つ回す」といった「規則性」すらも存在しなかった。さらに言えば、他の強豪国、、、ブルガリアやアメリカも同様だった(今大会のアメリカが従来の「後者」の戦術を採用していたのは、ブラジル戦に限っての話だ)。

ここで思い出すのが、今大会で見事に優勝を飾った女子イタリアチームのバルボリーニ監督の採ったスタートローテーションの戦術だ。ブラジル戦で書いたように、彼は従来のスタートローテーションに関する戦術では説明ができない、「不規則な」変化をみせた。その時点では私にはよく理解できなかったが、要するに彼が採ったスタートローテーションの戦術こそが、現在の世界の男子バレー界でトレンドとなりつつある戦術なのかもしれないのだ。この戦術を理解するためには、恐らくデータも取らずにただ漠然と試合のビデオを一介のファンが眺めているだけでは不可能であろう。恐らくは試合中にリアルタイムに、アナリストが前セットでの自チーム及び相手チームのスタートローテーションから、全てのマッチアップを割り出してそこにその日の各選手の調子やトスの配分などのデータが加えられ、それが監督にフィードバックされているのだろうと推測する。あるいは、相手チームのアナリストにデータを割り出されないように、攪乱する意味合いでスタートローテーションを変化させるのかもしれない。

ということは即ち、現在のトップレベルの男子バレー界にあっては、試合中・各セット中に如何に「迅速に」アナリストが監督にデータをフィードバックできるか? そして、それを試合中・各セット中に如何に「的確に」監督が各選手に伝えることができるか? それが勝負の大きな鍵を握っていると言えるはずだ。やはりアナリストの高い能力、及びレゼンデ監督の試合中の的確な判断能力が、現在のブラジル男子ナショナルチームの黄金時代を支えていると言って過言でないであろう。

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2007年12月24日 (月)

レゼンデバレー(第8章)- リカルド抜きで戦う術

(第5章)で私は、ブラジルの現在の高速立体的3Dバレーになくてはならないのがセッターのリカルドのセットアップ能力であると書いた。彼がアタックライン付近から両サイド及びパイプへ寸分狂いなく「高くて早い」トスを上げる能力を持っていることこそが、ここ最近のブラジルの黄金時代を支えている最大の要因であると恐らく誰もが思っていただろう。その意味で、今大会リカルドが来日しなかったことが、ブラジルのバレーにとってどう影響するのか? バレーファン誰もが注目していたと思う。

その注目の中、開幕した今大会初戦でアメリカと対戦したブラジル。第1セット中盤まではアメリカに付け入る隙を全くみせなかったが、セット中盤に今大会での正セッターを務めたマルセロの両サイドへのトスが、悉く「低くて早い」トスとなったところを、アメリカのブロック陣にまともに捕まえられた、、、まずダンテが潰され、続いてアンドレが潰された。これがアメリカに付け入る隙を与える契機となってしまった。

結局ストレートで敗戦を喫したブラジルを見て、やはりリカルドがいなければ、ブラジルの高速立体的3Dバレーの質は低下してしまうのか? と感じた私だったが、この時点で私は、レゼンデ監督が今大会(第7章)で書いた「新ツーセッターシステム」とも言える「5−2システム」を採ろうとしていることにまだ気がついていなかった。そう、恐らくレゼンデ監督は、リカルドが最も資質を備えたセッターであることをよくよく理解していながら、必ずしも彼がいなくても現在のブラジルのバレースタイルが維持できる方法を模索していたのだ。コートの中9m×9mすべてを1人のセッターがカバーするのではなく、アタックラインよりネットよりの限られた範囲をマルセロに任せ、アタックラインよりエンドラインよりの範囲についてはリベロのセルジオとマルセロの2人でカバーする・・・もちろん、リベロのセルジオの高い身体能力があるからこそと言えるわけだが、レゼンデ監督は遂に、リカルドという "唯一無二の" セッター抜きでも(100%ではなくとも)ある程度の質の高速立体的3Dバレーを繰り出せるという戦術を編み出したと言えるだろう。それが、今大会での2連覇達成という形で結実した。特に、2戦目以降はブルガリアやロシアといったライバルの強豪国を全く寄せ付けない戦いぶりだった。コート中央付近から高速立体的3Dバレーを繰り出すという極めて高度な戦術も、コート内に「ある程度」高い能力を備えたセッターが2人いれば容易になる。逆にセッターが2人いるからこそ、理想的なレセプション・ディグの目標点は必ずしもネット際の狭い範囲ではなく、コート中央付近で構わない。コート中央付近にレセプション・ディグを上げれば十分であるから、各レシーバーの精神的負担は軽くなり、レセプション・ディグ直後の攻撃参加も容易となる。そうすれば、レセプションの場面であれトランジションの場面であれ、確率高く「常にアタッカー4枚での」高速立体的3Dバレーを展開できる。高速立体的3Dバレーを展開できないような苦しい場面では、前衛セッターが無理にコート中央付近まで走り込んでランニングセットを上げることはせずに、後衛にいるリベロがトスアップを行う。それで自チームの攻撃が決まらなくとも、直後の相手チームのトランジションでの攻撃に備えて前衛セッターにブロックに集中させることで、ブロックシャットあるいはワンタッチを確率高く取って、そして次のトランジションで高速立体的3Dバレーを繰り出せば良い。そうすれば、苦しい場面で相手の3枚ブロックをぶち破るスーパーエースは必要なくなるし、各アタッカーも「自分がここで決めなければ・・・」という精神的プレッシャーも軽くなる・・・これらは全て好循環に繋がるのだ。

自動車はハンドル操作に「あそび」をもたせることで、安定した高速走行を可能にしている。常に100%を追求して練習することは必要なことだが、敢えて「100%でなくても構わない」ための戦術を採ることは、チームプレーに「余裕」を与える。ロシアやブルガリアやアメリカといった、今大会ブラジルのライバルと思われた強豪国を見ていると、確かに各国とも着実にブラジルの戦術を採り入れ、一つ一つのプレーでは例えばカジースキの高速パイプ攻撃や高速レフト平行などは、ダンテやジバのそれよりも高さもパワーも勝っていると思える位なのだが、それがブラジルを相手にすると、なぜかチーム全体にプレーの「余裕」がなくなって、ミスで自滅してしまうのだ。それに対して、"唯一無二の" セッターであるリカルド抜きでも(100%でなくとも)ある程度の質の高いバレーを繰り出す術を見いだした今大会のブラジルを見ていると、資質を備えた選手が揃った中で敢えて「100%でなくても構わない」ための戦術を採ることが、チームプレーにいわば「あそび」をもたらしているように思える。だからこそ、世界3大大会5連覇という安定した「高速走行」を可能にしたと言えるだろう。

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2007年12月16日 (日)

レゼンデバレー(第7章)- 新ツーセッターシステム

遅ればせながら、いよいよ今日からワールドカップ男子編に入りたいと思う。勿論のことだが、きちんと(第1章)〜(第6章)までを頭に入れてから読んで頂きたい。

ブラジルはいきなり初戦でアメリカにストレート負けを喫するという、最悪の形でのスタートだったが(そのためか? ジバは2戦目のスペイン戦から、蓄えていた髭をバッサリと剃り落とした)、その後はライバル視されていたブルガリア・ロシアをいずれもストレートではねのけ、大会2連覇を見事に達成した。今大会においても、ブラジル優位の立場が揺るがなかったのはなぜなのか? さらには、そのブラジルを倒すことに成功したアメリカは、どのような戦いぶりを見せたのか? そこに注目して見ていきたいと思う。

アテネオリンピック本番以降、ブラジルはセッターがファーストタッチを行う場合に、セッターはコート中央付近にパスを出して、それをリベロのセルジオがトスアップを行うシステムを採るようになったと(第2章)で既に書いた。これが、ラリー中のトランジションの場面で確率高く高速立体的3Dバレーを繰り出すための鍵であることも、既に書いたとおりなのだが、今大会のブラジルはさらに一歩先に進化していた。実は、セッターがファーストタッチを行う場合に「限った」戦術ではどうやらなくなったようなのだ。

今大会のブラジルの正セッターを務めたマルセロは、特に前衛でブロックに跳んだ直後のトランジションの場面で、トスアップをするために無理にコートの中を走り回ることはあまり見られなかった。リベロのセルジオがファーストタッチを行った場合には、無理にでもトスアップを行いにコートの中を走り回っていたが、それ以外の選手がファーストタッチを行った場合には、むしろ積極的にリベロのセルジオがトスアップを行いにコートの中を走り回っていた。要するに、コート上に常にセッターを務める選手が「2人いる」システム、いわば「ツーセッターシステム」のような形となっていたのだ。しかし、従来の「ツーセッターシステム」がキューバ女子ナショナルチームが伝統的に採っているシステムに代表されるような「6−2システム」であるのに対して、ブラジル男子ナショナルチームの「ツーセッターシステム」は、アタッカーは「5人」でセッターは「2人」であって、「5−2システム」とでも言うべきシステムだ。しかもセッターを務める選手が、ローテーション上の配列において対角には位置していない「2人」となっている。従来の「ツーセッターシステム」である「6−2システム」ではどのローテーションでも常に、セッターを務める選手が1人前衛にいる形となり、このシステムにおいてはセッターを務める選手が攻撃力にも優れていなければならないという点がデメリットとなるのに対して、「5−2システム」ではセッターを務める2人のうちの1人はリベロの選手であって、当たり前だが攻撃力は一切要求されない。それでいて、この "新ツーセッター" システムとも言うべき「5ー2システム」のメリットは何かと言えば、リベロでない方のセッターが前衛の場面で、後衛にもう1人セッターを務める選手がいることによって、ブロックに跳んだ後のトランジションでディグが乱れた場合に、必ずしも自身が無理にセットアップを行いに走らなくても良いのである。無理にランニングセットを上げて、もちろんそれをアタッカーが決めてくれればよいが、(第4章)で書いたとおり、苦しい場面で相手の3枚ブロックをぶち抜ける「スーパーエース」の攻撃力を捨ててまで高速立体的3Dバレーを追求している現在のブラジルにあって、そういった状況では必ずしもアタッカーの決定率が高いとは言えないはずであり、ラリーとなれば今度は素早く相手チームの攻撃に対してブロックシステムを完成させなければならない。前衛のセッターが本来の居場所である前衛ライト側から大きくずれた場所までセットアップのために走り込んでしまえば、当然その直後のブロック参加が遅れてしまう。高速立体的3Dバレーが当たり前となった、現在の世界トップレベルの男子バレー界において、僅かな時間であっても「ブロック参加が遅れる」ことは致命的となりうる。

(第3章)で書いたとおり、ブラジルが高速立体的3Dバレーを確率高く繰り出せる秘訣に、デディケートブロックシステムがある。今大会でもブラジルの徹底したデディケートブロックを崩すことに成功したチームは表れなかった。徹底したデディケートブロックシステムが機能するために、"新ツーセッター" システムは理に適っていたのだ。

さらに、対角に位置していない「2人」にセッターを務めさせる「5−2システム」では、その「2人」ともが後衛のローテーションが存在する。そのローテーションにおいては、「2人」が後衛レフトと後衛ライトを守る。ブラジルが追求する高速立体的3Dバレーにおいては、「スーパーエース」は存在しない。ライトから攻撃を仕掛けるオポジットに配された選手に託された役割は、レフトの選手とちょうど「左右対称」の攻撃を仕掛けることである。相手チームにデディケートブロックをさせないために、攻撃システムを「左右対称」にする以上、「2人」のセッターも「左右対称」に位置するべきであり、従来のセッターの定位置である「後衛ライト」とともに、「後衛レフト」にもセッターを務める選手を守らせる必要があるのだ。(第5章)で書いたとおり、現在のブラジルでは理想的なレセプション・ディグの目標点が、ネット近くの位置ではなく、ネットからやや離れてアタックライン付近にあると想定して各選手がプレーしている(ように見える)。コート中央アタックライン付近にあがった「理想的な」ディグから「左右対称」に高速立体的3Dバレーを展開する、、、そのためにセッターを務める選手が守るべき場所は「後衛ライト」「後衛レフト」と「前衛センター」なのだ。

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2007年12月 7日 (金)

焦ってます&唖然・絶句

焦ってます・・・何でかって? だって、やっとワールドカップ男子モードに入ろうとビデオを見始めているのに、よく考えたら今週からもうV・プレミア始まっちゃうやん! うぅぅぅ、集中力が・・・。

何だかんだ言って、去年の世界バレーで「レゼンデバレー」を書き上げるのに、大会終了後約1ヶ月を要しました。ってことは、その間に1レグの半分ぐらいが終わってしまうかも・・・。

ともかく、始めます。今日はまだ、前置きということで・・・


『ブルガリア対ロシア』のフジテレビ721での放送中の1コマ(4コマ?)。いずれも、解説をされていた、まだ引退して2年程しか経ってらっしゃらない、元Vリーガーのお言葉でございます。


(第1セット序盤に、カジースキが高速パイプ攻撃を鮮やかに決めた場面で)

・・・ブルガリアもこんな早い攻撃をするなんて珍しいですねぇ・・・

(同じく第1セット序盤に、カジースキが高速レフト平行を決めた場面で)

・・・意外と早いですねぇ・・・


V・プレミアの試合の解説をよくされてますが、ブルガリアのバレーを見るのは、どうやら初めてのご様子です。


(第2セットに、ロシアのベレジコがCセミ/バックセミの位置から高速パイプ攻撃を決めた場面で)

・・・あぁ、面白い位置からパイプ仕掛けましたねぇ・・・


どうやら「高速パイプ攻撃」の本質をご存じないようです。


(同じく第2セットに、カジースキがまたまた高速パイプ攻撃を決めた場面で)

・・・ひょっとしてブルガリアがこれだけ早いバレーをするようになったのって、ニコロフが東レに来てたからかもしれませんねぇ・・・


唖然・・・絶句。
ニコロフは昨年の世界バレーの頃と比して、確かに「はやい」攻撃に参加するようになっています。その理由はもちろん、「脱・スーパーエース」というキーワードのためです。昨年は控えのヨルダノフの方が「はやい」攻撃に参加できるため、しばしば彼はヨルダノフに交代させられていた、という現実があるのです。


日本のトップレベルでプレーしていて、引退してまだ1〜2年しか経っていないというのに、そのわずかな時間の間にも、日本のプレーヤーは世界のバレー戦術の進化について行けなくなるようです。地上波の解説をするような、何年も前の元全日本プレーヤー達が現代のバレー戦術を知らないのは当然ですね。ましてや、一般のプレー経験者が世界のバレーを見ないのは、言うまでもありません・・・。

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