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2006年12月 9日 (土)

レゼンデバレー(第2章)- アメリカ型分業システムの進化版

ブラジルに追いつくべく、こぞって高速パイプを採り入れたヨーロッパ勢であったが、残念ながらブラジルはさらに一歩先へ進化していた。

高速立体的3Dバレー、特にその鍵となる高速パイプ攻撃を繰り出すためには、当然のことながらそれだけ安定したレセプション・ディグが必要不可欠なはずである。

現在のバレー戦術におけるレセプションシステムの基軸は、アメリカ男子ナショナルチームが編み出した「2人レセプションシステム」であり、レフトの2枚と後衛センターが交代したリベロの3枚でレセプションを行う。従って後衛レフトの選手というのは、本来レセプションの要である。ところが、高速立体的3Dバレーでは、このレセプションの要であるはずの後衛レフトの選手が高速パイプ攻撃に参加するため、その選手を強烈なスパイクサーブで崩せば、相手の攻撃システムから少なくとも高速パイプはなくなり、攻撃箇所は3ヶ所(レフト平行・前衛センターの速攻・オポジットのライト攻撃あるいはバックライトからのバックアタック)に絞られてしまう。従って、戦術として「ただ単に」高速パイプを採り入れただけでは、徹底して相手にサーブで後衛レフトを狙われると、高速立体的3Dバレーを繰り出すことは出来ないのである。

では、ブラジルはどうだったのか? ランキングを見る限りは、ブラジルの両レフト(ジバ・ダンテ)のレセプションは決して芳しくはないことになるのだが、試合ぶりを実際に見ていればわかる、、、彼らはサーブでどんなに狙われようとも、レセプション後に平気な顔をして高速パイプに切り込んでくるのである! そこが、ヨーロッパ勢のレフト陣との決定的違いであった。

さらにはディグ。即ち、相手の攻撃に対してブロックでワンタッチを取った後のトランジション(切り返し)の場面では、誰がファーストタッチを行うかが重要となる。高速立体的3Dバレーを繰り出すために、前衛レフト・前衛センター・後衛レフト・オポジットの4選手は、セッター(リカルド)がトスアップを行う瞬間には、スパイクの助走をほぼ完了していなければならない。そのためには、相手チームから返ってきたボールのファーストタッチを行う選手は、攻撃に参加しない唯一のプレーヤーである後衛センター1人に限られる。もちろん大抵の場面では、後衛センターはリベロと交代しているわけなので、ほとんど問題ないと思うかもしれないが、問題になりうるケースが2つある。一つは、後衛センターがサーバーの場面。当然リベロはコートの中にはいない。従って、後衛センターがリベロの代わりを務めなければならない、即ちチャンスボールがアタックライン付近に返ってきた場合などには、後衛からそのチャンスボールを取りに、後衛センターの選手がやってくる必要があるのである。これを難なくこなすセンタープレーヤーは、世界を見渡しても恐らくグスタボしかいない。

'84年ロサンゼルス・'88年ソウルとオリンピック2連覇を成し遂げた、アメリカ男子ナショナルチームが編み出した2人レセプションシステムによって、「レフト=レセプション専門・センター=ブロック専門・オポジット=攻撃専門(=スーパーエース)」という、究極的な「分業システム」が加速した。さらに'98年のリベロ制導入も相まって、特にセンターの選手の大型化に拍車がかかる結果となったが、それは「分業システム」が、センタープレーヤーに「レシーブをしなくてよい」という免罪符を与えたからだった。

しかし、2人レセプションシステムがレフト以外の選手に与えた免罪符は、厳密に言えば「レセプションをしなくてよい」というものであって、決して「ディグをしなくてよい」というものではなかったはずである。それが何を間違えたのか? レセプションだけでなく、レシーブ全般を免除されたかのような扱いをされてしまったのが、日本の現状であろう(この点については、当ブログに何度かトラックバックを送ってくれている『ベリーロールな日々』にも、同様の問題点が鋭く指摘されている)。そのせいで、リードブロックシステムを採り入れる経緯の中で、日本ではトランジションで前衛センターの選手がトスを上げるという、現代のバレー戦術で当たり前であるはずの戦術を採り入れることすらも、何年もの年月を要してしまう結果になった。まぁ、日本は極端な例としても、センタープレーヤーがレセプション以外のディグを多かれ少なかれ苦手とするのが、世界各国の現状であろう。そんな中にあって、リベロにも引けを取らないディグ(さらにはトス)をこなすグスタボが、ブラジル男子ナショナルチームを支える長年不動のレギュラーセンタープレーヤーであるのは、尤もなことである。

もう一つ、ディグで問題になるケースは、ファーストタッチをセッターが行った場合である。これまでも何回も書いてきたように、その場面では前衛センターが両サイドへの2段トスあるいは、バックセンターのパイプ攻撃のトスを上げるというのが、リードブロックシステムが普及して以来の世界標準の戦術であった。ところがアテネオリンピックの頃から、ブラジルはそういった場面でセッターのリカルドは、コート中央付近にパスを出し、それをリベロのセルジオがトスを上げにいく戦術を見せるようになった。セッターがトスを上げられない場面では、完全な高速立体的3Dバレーを繰り出すことは不可能である。しかしながら、それに近い攻撃システムとして、リベロがコート中央付近から両サイドへ高速平行トス、あるいはほぼ真上に高速パイプ攻撃のトスを上げるという戦術を採り始めたのである。美雁さんのブログでも取り上げられているように、日本では「レセプション中心のリベロか? ディグ中心のリベロか?」などという、リベロ制が導入された当初に問題となったようなことが、今でも話題に上っているが、以前「ルール確認」として世界バレー開幕前に投稿で書いたとおり、ルール上リベロは決して「トスを上げてはいけない」のではないのであって、リベロに要求されるプレーは「レセプションか? ディグか?」の二者択一ではない。リベロに本当に要求されるプレーは「リベロとしての」プレーであって、それ以外ではない。即ち、「リベロとしての」プレーとは、ルール上禁止されていない全てのプレーであって、時にはアタックラインを確認した上で、その後ろで踏み切って、フロントゾーンでジャンプトスを上げることも要求されているのである。

これらを当たり前のようにこなせる選手達が集まった、ブラジル男子ナショナルチームだからこそ、試合中レセプションの場面でもトランジションの場面でも、高速立体的3Dバレーを確率高く、繰り出すことが出来るのである。

アメリカ型「分業システム」のバレー戦術を、「各個人が苦手なプレーは行わずに、得意なプレーだけに専念する」戦術と解釈した国と、「各個人に要求されたプレーに専念することで優れた組織バレーが展開できる」戦術と解釈した国の違い、、、これが端的に言って、日本とブラジルの違いと言っても過言でない。しかし、後者は本来は、強かった頃の全日本女子が伝統的に行っていたバレー戦術であったはずだと思うのは、気のせいであろうか?

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コメント

TBありがとうございます。いつも勉強させてもらってます。記事ではバレー本来の面白さから離れたところばかりつついていますが、T.wさんのような記事を読むとわくわくします。

女子もまたブラジルのバレーを目指していますが、極端な分業の弊害に早い時期で気づき、いまは修正が行われていると思います。チームの方針として、全員にレシーブやつなぎを徹底してしこむ”伝統”が復活しつつあり、木村や大友のような選手が育ちました(大山はその点、気の毒ですね…)。問題は男子。春高バレーを見ても、男子はどこも似たり寄ったりのチーム編成で、指導者の意識改革が遅れているなあと感じます。

投稿: rio | 2006年12月 9日 (土) 03時35分

こんにちは
いつも更新を楽しみにしています

この記事を読んで、以前寺廻さんが解説中に言われた「オーバーが世界を制す」を思い起こしました。
自チームでは浸透してないみたいですが(爆)

投稿: sk | 2006年12月 9日 (土) 09時57分

>rioさん

初めまして。ご挨拶が遅れて申し訳ございません。初めてトラックバックをいただいてから、過去にさかのぼって、rioさんのブログをじっくり読ませて頂いております。特に今回の全日本男子の両セッターに対する分析は鋭い!と唸ってしまいました(ちなみに朝長選手は、サイド攻撃へのトスよりも速攻のトスを上げる時のほうが、高い位置でセットアップできているように感じます)。

最近はあまり春高とかを見る機会がなくて、私は偉そうなことは言えないのですが、指導者の意識改革については同感です。特に男子などは、監督が誰だとか、もうそんな次元の問題じゃないですから(それすらもが、協会内部の権力争いの道具でしかない状況で、、、)、もっと底辺から日本のバレー界全体を改革しなればダメでしょうね。


>skさん

こんにちは。
そういえば、言ってましたねぇ、寺廻さん!
果たして、年明けから始まるプレミアリーグでどう変わっているか?(爆)
まぁ、女子については(偉そうな言い方をすると)選手たちもそれだけ「意識」が低いんだと思います。何とか寺廻さんには、女子選手の意識改革をすすめてもらいたいです。

投稿: T.w | 2006年12月24日 (日) 17時36分

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