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2005年10月 3日 (月)

ブロックシステム変遷(その1) - "バンチ・リードブロック"システムの登場

新しい戦術というのは常に、「目先の相手の優れた戦術に対して、如何に対抗するか?」とい模索の中から生まれる。
ブロックが「守備の最前線」である以上、ブロックシステムの変遷は、攻撃システム戦術の変遷と密接に絡んでいる。

速攻などの攻撃が生まれて以来、前衛の3枚のアタッカーそれぞれの多彩な攻撃に対抗すべく、基本的にアタッカーとブロッカーが「1対1」で真っ向勝負をする、コミットブロックが一般的となった。即ち、コミットブロックとは、トスが上がる前からアタッカーをマンツーマンでマークし、アタッカーの助走と同時に、つまりトスが上がる前に跳びにいくブロックを表す。相手のスパイクをシャットすることを目標にする場合、このコミットブロックは、最も優れた戦術となる。従って、コミットブロックを相手が採った場合、アタッカー3枚対ブロッカー3枚のそれぞれの「1対1」の「個人技」同士の戦いでは、素直にいけばブロックの方が有利となる。そのため、攻撃する側は策を練らなければならない。「個人技」同士の「1対1」では対抗できないため、時間差攻撃といった、アタッカー同士がセンター付近で "絡む(=交差する)" 攻撃、すなわちアタッカー3枚が「組織的に」コンビネーションを繰り出して、ブロッカー3枚に対抗するようになる。さらには前衛3枚のアタッカーでは数が足らないと、後衛のアタッカーにバックアタックを打たせることによって、「アタッカー4枚対ブロッカー3枚」という状態を作り出すことが当たり前の時代がやってくるのである。

バックアタックの普及により、アタッカーに枚数で絶対的にかなわないブロッカー(ルール上ブロッカーは3枚が上限となる)側としては、「組織的に」対抗する必要が出てくる。そこで生まれたの戦術がリードブロックである。即ち、リードブロックとは、トスが上がるのを確認してからブロックに跳びにいくブロックを表す。リードブロックを採ると、相手のトスの上がる場所を "読みとって(='read')" 跳ぶことになるため、「1対1」で対抗する必要はなく、トスが上がったアタッカー1枚に対して、ブロッカー2枚ないし3枚で対抗することが可能となり、すなわち「1対2ないし1対3」の状態が作り出せるのである。この戦術をチーム戦術としていち早く採り入れたのが'84年ロサンゼルス・'88年ソウルと、オリンピック2連覇を果たした、アメリカ男子ナショナルチームであった。
(一方、同時期にアメリカと世界一を常に争っていたロシア男子ナショナルチームは、リードブロックではなくスタックブロックを採用していた、、、。これについては、以前私が「へりくつバレーボール」に詳しく書いているので、是非こちらを参照してもらいたい。)

当時のアメリカ男子ナショナルチームが、リードブロックの採用によってオリンピック2連覇の偉業を成し遂げたのを契機に、一気にリードブロックは世界の男子バレー界に浸透することとなった。確かに、「相手のスパイクをシャットする」という観点からは、コミットブロックにかなわないリードブロックであるが、コミットブロックが、時に相手の時間差攻撃などに対して、ノーマークとなってしまいかねない「確実性の低い」戦術であるのに対して、相手のどんな攻撃に対しても確実にワンタッチを取ることが理論的に可能となるリードブロックが、より「確実性の高い」戦術として好まれた(それは即ち、ブロックシステムとディグを連携させて、両者で「守備」と考える、という考え方を意味する)わけである。そして、その「確実性の高い」という目的のためには、リードブロックという、単に1人のブロッカーが「どうブロックに跳ぶか?」というだけにとどまらず、ブロッカー3枚が「どう組織的にリードブロックを行うか?」が問題となり、そのためにはブロッカー3枚が「どのような位置取りで構えるか?」がより重要となる。そのブロッカー3枚の「位置取り」を表すバレー用語として、以下のものがある。

バンチ "bunch" ・・・語義は「束」、即ちブロッカー3枚がセンター中央に「束」の様に集まってブロックに跳ぶ、という意味であり、両サイドのブロッカーがセンターブロッカー(middle blocker)とあまり間を開けずに並んだ状態で構えるブロックシステムを表す。その状態でリードブロックを行うシステムを、バンチ・リードブロックシステムと呼ぶ。
スプレッド "spread" ・・・バンチ "bunch" と対になる用語であり、ブロッカー3枚が間を開けて構えるブロックシステムを表す。バンチ "bunch" では、両サイドのアンテナいっぱいまで届く平行トスにはついて行けないことが多く、それらのトスに備える場合に用いるシステムである。
(その他、上述のスタック "stack" も、狭義の意味ではこの範疇に入る用語である。)

もともと全盛であったコミットブロックに対抗すべく、センター付近での時間差攻撃などが多用されていた当時としては、当然バンチが理にかなっていた。アメリカ男子ナショナルチームがいち早く採用したリードブロックを、さらにブロックシステムとして洗練されたものに仕上げ、バンチ・リードブロックシステムとして完成させたのが、'90年代前半に全盛時代を迎えたイタリア男子ナショナルチームであった。

以下に、参考となる書籍を挙げておく。なお、下記書籍ではリードは、シー アンド レスポンド "see and respond" という言葉で表現されている。

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コメント

こんにちは。
いつも感心しながら読ましてもらいうなずかされる事ばかりなのですが、(失礼ですが)納得できない部分がありましたので教えて下さい。
ブロックのお話で
>コミットブロックを相手が採った場合、アタッカー3枚対ブロッカー3枚のそれぞれの「1対1」の「個人技」同士の戦いでは、素直にいけばブロックの方が有利となる。<
とありますが、「有利」とは何が有利なのでしょうか?私の感覚では
0枚ブロック=決めなきゃ恥。
1枚ブロック=トスがよければかわして決められる。
2枚ブロック=決まらない場合もある。
3枚ブロック=ぶち抜くorフェイント
という感じで1枚ブロックにはあまり怖さを感じません。
もしも1枚ブロックが有利ならB級では殆どマークを外せないので攻撃が決まらなくなります。
この誤解を解きたいので、ぜひご回答をお願いします。

投稿: とんぺい | 2008年9月 6日 (土) 00時48分

>とんぺいさん

回答が大変遅くなり、申し訳ありませんでした。


>という感じで1枚ブロックにはあまり怖さを感じません。
>もしも1枚ブロックが有利ならB級では殆どマークを外せないので攻撃が決まらなくなります。


仰っている内容はよくわかります。
私もB級レベルで10年以上プレー経験がありますので、「相手ブロックが1枚になったらアタッカーは決めないといけない」という感覚は持っています。

ただ、いわゆるB級レベルと世界レベルで何が違うのかと言えば、、、B級レベルには、ブロックシステムなどあってないようなものです。正確に表現すれば、ほとんどのブロッカーはコミットブロックかゲスブロックを行っていて、しかもブロッカー3人がお互いどのようなブロックで跳ぶのか? コミュニケーションがとれていません。「相手ブロックが1枚になったらアタッカーは決めないといけない」という時の「相手ブロックが1枚になった」というのは、「『コミット』ブロックで『1枚』ブロッカーがついてきた」という意味ではなく、セッターに振られた結果「遅れて(=意図せず)ブロッカーが『1枚』『リードで』跳んできた」という状況をイメージしていませんか? 即ち、上手くいけばノーブロックになりそうなくらいに、相手ブロック陣を振ることに成功していて、何とか相手のブロッカーが1枚遅れながら不完全なブロックに跳んでくる状態だからこそ、「決めないといけない」のです。ここで想定しているのは決して「1対1でアタッカーとブロッカーがコミット勝負をしている場面」ではないと思います。B級レベルでも、アタッカーとブロッカーとの間に相当な技量差(高さも含めて)があるケースを除けば、コミットでブロックされた場合には結構ブロックに止められるケースが出てくると思います。ましてや世界レベルにおいては、100%コミットで跳んでこられたら、それを抜けるアタッカーなどいないと思います。例えば、速攻に対してブロッカーが1枚、コミットで跳んでくるとして、100%コミットだったら、まず間違いなくシャットでしょう。あくまで80%コミットのつもりでも、残り20%くらいが「ひょっとしたら時間差があるかも・・・」と思いながら跳ぶから、アタッカーの方にも勝機が産まれるわけです。そうやって「時間差があるかも・・・」と思わせることにこそ、本文中に書いた『アタッカー3枚が「組織的に」コンビネーションを繰り出して、ブロッカー3枚に対抗するようになる』ということの本質があります。

投稿: T.w | 2008年10月14日 (火) 00時52分

T.w様、回答ありがとうございます。
私にはできませんが、ブロッカーの技量が高くて(完成されたブロックで)100%コミットで跳ばれた場合、1枚ブロックでも高い確立でシャットアウトされるということはわかりました。
では、マンツーマンでコミットブロックを跳ばれた場合、(時間差攻撃以外で)1枚目のブロッカーをどのように振ればいいのか私にはわかりません。
例えば、
3枚攻撃のレフト平行・速攻(A)・ライト平行で、マンツーマンのコミットブロックをされたら2枚目のブロックは振れても1枚目のブロックは振れませんよね?
これでは攻撃が決まらなくなります。
どのような考え方で攻撃に臨めば良いか、時間があるときに、また教えて下さい。

投稿: とんぺい | 2008年10月22日 (水) 15時40分

>とんぺいさん

>では、マンツーマンでコミットブロックを跳ばれた場合、(時間差攻撃以外で)1枚目のブロッカーをどのように振ればいいのか

本文中とは違って、B級レベルでバックアタックがない状況で、ということですね。

マンツーマンで臨んでくるブロッカー陣にまともに「1対1」で戦いを挑んで勝ち目はありませんので、一つは個人技を利用するのが手です。

>3枚攻撃のレフト平行・速攻(A)・ライト平行で、マンツーマンのコミットブロックをされたら

・速攻のプレーヤーがAからCクイックに流れる
・レフトのプレーヤーが平行と見せかけてBセミへとセンター寄りに切り込む

などが考えられます。さらに成功率を高めるため、例えば2番目(Bセミへ切り込む)の方法を採る場合、速攻のプレーヤーがAよりはCに入って、相手ブロッカー陣を自チームの狭いライト側の空間の(overload)攻撃に意識を向けさせておくのも手です。

参考までに下記の映像・記事をご覧ください。
http://blogs.yahoo.co.jp/contact20052000/53901841.html

投稿: T.w | 2008年11月25日 (火) 23時49分

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