2017年4月 9日 (日)

#眞鍋JAPAN総括(その1)〜戦術面を一期目から振り返る〜

Getimage1asmx_3

photo by FIVB

(この記事は『バレーボール・スクエア』に寄稿したものです。)

眞鍋JAPANの8年間を総括するにあたり、まず就任2年目に、地元開催となった2010年世界選手権で32年振りのメダル(銅メダル)を獲得したこと ・・・ この業績に対する検証が、その後の6年間を語る上で議論の原点になることは、疑いようのない事実でしょう。

当時から私が書いてきたこと、公式の場やネットを通じて発言してきたことを見聞きしてらっしゃる方にとっては、もはや釈迦に説法でしょうが、最近になってバレー・ファンになられた方もいらっしゃるでしょうから、ここで改めて確認しておきたいと思います。

全日本女子チームが32年振りのメダルを獲得できた秘訣は、いったいどこにあったのか?

その手がかりをつかむために題材として選んだのは、2010年世界選手権でリベロを務めた佐野 優子()選手が、大会を通じて上げた計110本のセットの中から、アタッカーが苦し紛れで返球せざるを得なかったものを除いた、全91本(全体の約83%)のデータです。

データを解析することで見えてくる真実とは、どのようなものなのでしょうか?


◎高いアタック効果率をはじき出した佐野選手のセッティング

解析に入る前に、当時の眞鍋JAPANが採用した戦術に関して、確認しておきましょう。当時の全日本女子の課題について、アナリストの渡辺 啓太氏はインタビューでこう述べています(1)。

「日本の場合、セッターがファーストボールをタッチする回数がどうしても多いので、その次、セッター以外の選手がトスを上げなければいけない状況になるケースが多い。その状況でいかに点を取りにいくか・・・(以下略)」

この発言から「セッターがラリー中にセットできない場面で、トランジション・アタック効果率をいかにして高めるか?」という点が、当時のチーム課題であったことが伺えます。これは、「Aパスに比べBパス以下の場面で、レセプション・アタック効果率が大きく低下する」という、全日本女子が従来から言われてきた特徴とも密接に関連する課題と言えるでしょう。


この課題を克服するために、眞鍋監督が就任2年目の2010年ワールド・グランプリから採用した戦術が「リベロのセカンド・セッター化」でした。これは、続く世界選手権においても採用されており、それゆえリベロの佐野()選手が世界選手権で上げた計110本というセット本数は、出場各国の控えセッターが上げたセット本数とも、肩を並べるほどの数字となっています。

眞鍋JAPANが採用した「リベロのセカンド・セッター化」という戦術が、当時のチーム課題を克服することにつながり、ひいては、32年振りのメダル獲得に寄与したのかどうか? を判断するには、実際にリベロの佐野()選手がセカンド・セッターとしての役割を果たした(セットを上げた)場面でのデータを、解析するのが理にかなっているわけです。

ということで、まずは表1をご覧ください。

14117875_1749390205335438_435651406

これは、佐野()選手が上げた91本のセットに関するデータを、各アタッカーごとにまとめたものです。チーム全体でみると、アタック決定率が37.4%、アタック効果率が25.3%となっています。

リベロの選手がセットする場面というのは、Cパスからのレセプション・アタックの場面か、もしくは、トランジション・アタックの場面です。アタック効果率の25.3%という数字は、男子の世界トップ・チームのCパス時のアタック効果率や、トランジション・アタック効果率と比較しても遜色のない(2)、非常に高い数字と言えます。

一方、この大会における佐野()選手の “running set” の本数は、計110本中で「2本」であったことが公式記録に残っています。

http://www.fivb.org/EN/Volleyball/Competitions/WorldChampionships/2010/Women/BestPlayers.asp?Tourn=WWCH2010&Skill=SET

FIVB主催の国際大会の技術集計において、“running set” とは「相手のブロッカーが2枚以上揃わなかった」場合にカウントされるものです。

つまり、佐野()選手がセットしたほとんどの場面で、

相手のブロッカーが2枚以上揃っていたにも関わらず、チーム全体でのアタック効果率は非常に高かった

ということが伺える結果です。


実際、大会後にメダルを獲得できた勝因として、アナリストの渡辺 啓太氏は「Bパス以下でのアタック効果率の上昇」を挙げ、 眞鍋監督は「日本のオリジナル」としての「佐野()選手の『アンダーハンド・パス』によるセット戦術」を挙げています(1)。

Cパスからのレセプション・アタックの場面や、トランジション・アタックのように「相手のブロッカーが2枚以上揃った苦しい場面」で、アタック効果率が非常に高かったわけですから、Bパス以下の場面でアタック効果率が上昇したのも頷けます。

眞鍋監督が採用した「リベロのセカンド・セッター化」という戦術が、Bパス以下でのアタック効果率の上昇につながり、ひいては32年振りの銅メダル獲得に寄与したことは、間違いない事実と言えるでしょう。


◎効果率の高さは〝セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間の短さ〟と関連しているのか?!

では次に、佐野()選手がセットした場面で、全日本女子のアタッカー陣が高いアタック効果率をはじき出すことができた要因は、いったいどこにあったのでしょうか?

眞鍋監督が言うように、「アンダーハンド・パス」によるセットに秘訣があったのでしょうか?


眞鍋監督は、2010年世界選手権でセッターの竹下()選手に要求した点について、自身の著書(3)の中でこう述べています。

 「Bパスの場合には、速い攻撃をするオプションを増やして技量向上に努めました。典型的なのは、バックアタックの速攻です。・・・(中略)・・・サイドにも多少無理をしても速い攻撃を上げさせるようにしました。」

この発言から眞鍋監督は、「Aパスに比べBパス以下の場面でアタック効果率が大きく低下する」という弱点を打開するため、セッターに〝速い攻撃〟つまり、セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間を短縮することで〝相手のブロッカー陣を振る〟ことを要求していたことが読み取れます。

ということは「セッターがラリー中にセットできない場面で、トランジション・アタック効果率をいかにして高めるか?」というチーム課題を克服するため、セカンド・セッターの役割を果たす佐野()選手に対しても、同じようなプレーを要求していたであろうことは、容易に想像できます。

実際、佐野()選手は自身のアンダーハンド・パスでのセットに関して、インタビューでこう述べています(1)。

 「自分としては、アンダー(ハンド・パス)でもブロッカーを振れるという思いもあるし、アタッカーが速いボールを打ってくれて・・・(以下略)」

 「バックアタック(のセット)を上げる場合も、それほど高く上げずに、速いトスを上げれば、ブロッカーが散る。」

このように佐野()選手は、「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間を短縮すること」を意識しながら、セットを上げていたと考えられます。

 

それを踏まえて、今度は表1の一番右に示した「経過時間()」をご覧ください。

「経過時間」とは「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間」を測定(※4)したもので、表からは割愛しています(raw dataこちらから、ダウンロード頂けます)が最小値が1.10秒・最大値が2.01秒、チーム全体では平均±標準偏差が1.453±0.177秒となっています。

14117875_1749390205335438_4356514_2

このうち1.10秒〜1.33秒までの、短い方から上位約1/424本(A)を抽出し、1.34秒〜2.01秒までの残り67本(B)と比較検討してみると

A(1.255±0.074秒):決定本数11本・ミス本数3本・被ブロック本数2本

B(1.524±0.149秒):決定本数23本・ミス本数2本・被ブロック本数4本

となっています。

14063993_1749382968669495_302446079

上のグラフ1に示したとおり、アタック決定率はAが45.8%・Bが34.3%と、確かにAの方が高いものの、ミスないしは被ブロックによる失点率もAの方が高いため、効果率はAが25.0%・Bが25.4%とBの方がむしろ高く、

「セット・アップからボールヒットまでの経過時間が短いほど、アタック効果率が高い」とは言えない

結果になっています。


「アタック決定率」は確かにAの方が高いわけですから、「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間が短いほど、『アタック決定率』が高い」と言えるのではないか? と感じる方もいらっしゃるでしょう。

そこで、AとBの「アタック決定本数」に統計学的な違いがあるかを χ2乗検定にて行うと、両者の間に有意差はみられません(p=0.429)。ですからAの方が「アタック決定率」が高かったのは、偶然に過ぎないということになります。

従って、「アタック効果率」ならびに「アタック決定率」のどちらも、「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間が短いほど高い」とは言えないことから、

佐野()選手がセットした場面で、アタック効果率が高かった理由を「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間」で説明するのは困難

と言わざるを得ません。


 では、アタッカー別ではどうか?

続いて、アタッカー別に見てみましょう。木村選手が91本のうちのほぼ半数の45本を打っており、次に打数の多いのが江畑選手の25本、その次に多いのが迫田選手の9本で、この3人で79本(全体の約87%)を占めます。

この3人で比較検討してみると、

木村選手(1.445±0.187秒) :決定本数19本・ミス本数2本・被ブロック本数2本

江畑選手(1.470±0.164秒) :決定本数6本・ミス本数1本・被ブロック本数3本

迫田選手(1.483±0.216秒):決定本数2本・ミス本数2本・被ブロック本数1本

となっており、アタック効果率は木村選手が33.3%・江畑選手が8.0%・迫田選手が-11.1%と、大きな差がついています。

14100429_1751374715136987_7700044_2

「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間」に関して、「木村選手と江畑選手」、「江畑選手と迫田選手」、「木村選手と迫田選手」のそれぞれで t-検定を行っても有意差はみられず(p=0.5650.9860.756)、佐野()選手が3選手に向かって上げたセットに有意な差があるとは言えません。

つまり佐野()選手は、どのアタッカーに対しても、同じような質のセットを供給していた、ということになります。

にも関わらず3人のアタック効果率に大きな差が出ており、しかも最も効果率の高い木村選手が91本のうちのほぼ半数を打っていることを鑑みても、チーム全体でのアタック効果率の高さは、佐野()選手が上げたセットの善し悪しが要因ではなく、

木村選手 個人の高いアタック効果率に起因している

というのは、否定しがたい事実でしょう。

 

 木村選手のデータを抽出して解析すると、見えてくる真実は?

では今度は、木村選手の打った45本を検討してみましょう。

「セット・アップからスパイク・ヒットまでの経過時間」が1.10秒〜1.33秒までの、短い方から上位約1/413本(C)を抽出し、1.34秒〜2.01秒までの残り32本(D)と比較検討してみると、

C(1.245±0.086秒):決定本数7本・ミス本数1本・被ブロック本数2本

D(1.526±0.155秒):決定本数12本・ミス本数1本・被ブロック本数0本

となっています。

14089214_1751374888470303_7682549_2

アタック効果率はCが30.8%・Dが34.4%で、木村選手に限っても「セット・アップからスパイク・ヒットまでの経過時間」がむしろ長い方が、アタック効果率は高くなっています。


ではなぜDの方がアタック効果率が高かったのか?

その要因を探るべく、CとDで「決定本数」と「ミス本数」及び「被ブロック本数」に関して χ2乗検定を行うと、「被ブロック本数」に関してのみ、有意差が出ます(p=0.027)(5)。

「決定本数」と「ミス本数」については有意差が出ませんので、木村選手の場合、

「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間」が長い方が有意に被ブロック率が低く、それが高いアタック効果率をもたらした

可能性が示唆されるのです。


佐野()選手は「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間を短縮する」ように眞鍋監督から要求され、それを意識してプレーしていたわけですから、経過時間が相対的に長いDの場面というのは試合の中でもことさらに苦しい状況で、彼女があえて高いゆっくりとしたハイ・セットを上げざるを得なかった場面であろう、と推測できます。

日本のバレー界では、そういう苦しい状況において〝ハイ・セットを上げているようでは、高さとパワーで勝る諸外国には太刀打ちできるはずがない〟とよく言われますが、実際に32年振りのメダルを獲得した2010年世界選手権のデータを解析してみると、 

木村選手がその〝常識〟を打ち破り、ハイ・セットからの攻撃で高いアタック効果率をはじき出したからこそ、成し遂げられた快挙である

という真実が、浮かび上がってくるのです。


 勝因を正しく分析できなかったがゆえに始まった迷走 ・・・

以上、「リベロのセカンド・セッター化」という、眞鍋JAPANの2年目に採用した戦術に関して、データで検証してみました。


8年間を振り返るにあたって、なぜ2年目から検証したのか? ・・・ それは、眞鍋監督が就任1年目に着手したのが、ブロック戦術の組織化(バンチ・リード・ブロック・システム)だったからです。ブロックを組織化する目的は、「ブロックとディグとの連係をはかって、トータル・ディフェンスを構築すること」にあります。ブロックを組織化してトータル・ディフェンスが構築できれば、それによって稼いだ「ディグをいかに得点につなげるか?」という、トランジション・アタックが次の課題となるのは当然の帰結です。

ですから、眞鍋監督は就任2年目の2010年ワールド・グランプリにおいて、佐野()選手にセカンド・セッターの役割を課しただけではなく、実は「オーバーハンド・パス」によるセットを彼女に要求していました。

最近オーバーパスに取り組み始めたある選手についての妄想話&その後togetter

このように、2010年のワールド・グランプリまでは、眞鍋JAPANが採用した戦術面での取り組みは、チームを強化していく上で極めて妥当な方向性をたどっていた、と私は考えています。だからこそ、就任後2年目の試金石となる世界選手権において、32年振りのメダル獲得という結果が出たのならなおさら、その要因がどこにあって、さらに改善すべき要素はどこにあるのかを、眞鍋JAPANのスタッフ陣は慎重に分析すべきだったと思うのです。


直前のワールド・グランプリでは「オーバーハンド・パス」によるセットを要求した眞鍋監督でしたが、世界選手権において佐野()選手は終始、「アンダーハンド・パス」によるセットを上げ続けました。「リベロのセカンド・セッター化」の採用により、メダル獲得につながったのは間違いありませんが、それが意味するところは眞鍋JAPANが、柳本前監督時代になおざりにされてきた

「ブロックの組織化」ならびに、「トランジションの攻撃システム構築」に着手したからこそ、の結果だった

ということなのです。


ですから、セカンド・セッターの役割を果たす佐野()選手が上げるセットは「アンダーハンド・パスのままでよいのか?」あるいは、「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間の短縮を意図する方向性は、本当に正しいのか?」については、改善すべき余地が相当にあったはずです。

 

これは想像の域を出ませんが、眞鍋監督が2010年世界選手権で、佐野()選手のアンダーハンド・パスを許容したのは、オーバーハンド・パスが苦手な彼女(6)に妥協した結果だったと思います。ところが、32年振りのメダル獲得という結果が出てしまったがゆえに、眞鍋JAPANを賞賛するメディア記事で連日溢れる結果となり、「アンダーハンド・パスでも構わない」という免罪符を彼女に与えてしまう結果を招きました。

眞鍋監督にしてみても、自身が要求し続けた「セット・アップからボール・ヒットまでの経過時間を短縮させる」方向性が、彼の中で正当化される根拠づけになってしまいました。


大事なことなのでもう一度書きますが、メダルを獲得できた秘訣は「ブロックを組織化」し、「トランジション・アタックの戦術をシステム化」したことで、チームのエースである木村選手の持ち味を最大限に発揮することができたからです。

32年振りのメダル獲得の快挙は、日本のバレー界にとっては、

世界で十分に通用する力を持ったアタッカーが、日本に厳然と存在しているという真実を、再認識する絶好のチャンス

だったのです。


この真実を、眞鍋JAPANのスタッフがきちんと分析・検証できていたならば、翌2011年から改善すべきテーマは、木村選手をはじめとする

アタッカー陣の持ち味を最大限に発揮できるようなセットを、いかに確率高く供給するか?

という方向性になっていたはずです。

 

残念ながら、その真実に本能的に気づいたのは、チームの中でセッターの竹下()選手ただ1人だったように思えました。

32年振りの銅メダル獲得」という快挙が、眞鍋JAPANのその後の長い迷走が始まる、ターニング・ポイントであったように感じます ・・・。(次回に続く)

 

-------

1)『月刊バレーボール 2011年1月号』(日本文化出版)

2)ワールド・カップ2011男子大会における上位3チームのCパス時のレセプション・アタック効果率は、ロシアが19%・ポーランドが4%・ブラジルが15%、トランジション・アタック効果率は、それぞれ33%・21%・30%であった(『ワールドカップ2011テクニカルレポート』より)

3)『精密力〜日本再生のヒント〜』(眞鍋政義著・主婦の友社)

4)試合の映像をパソコンに取り込み、QuickTime Player 7 (Apple社製) を用いて計測 

5)より厳密なイエーツの補正を用いて検定すると、統計学的有意差は出ない

6)佐野優子選手 インタビュー(『バレーボールマガジン』より)http://vbm.link/2015/


| | コメント (0) | トラックバック (0)

2017年3月20日 (月)

バレー学会 第22回大会@国士舘大学 を終えて

昨年に引き続き、先週土日に国士舘大学で開催された日本バレーボール学会にて、ポスター発表を終えることができました。
 

これまでは、主にオフェンス戦術面から、世界トップレベルのトレンドを追いかけてきましたが、今回はディフェンス面に着目して研究を行いました。(内容はまた後日、YouTube動画で公開される予定ですので、しばらくお待ち下さい m(_ _)m)

002_2

003_2

005_2

同時多発位置差攻撃が男子の世界標準オフェンス戦術となって、はやくも10年の月日が経過しています。

女子においても、このコンセプトは着実に浸透してきており、特にオランダが、それほどメンバーも変わらない2年前の世界選手権での2次ラウンド敗退以降に、この同時多発位置差攻撃のコンセプトを採り入れて、実に20年ぶりのリオ五輪出場権を獲得しただけでなく、五輪本番でも4位に食い込む大躍進を遂げました。

つまり、世界は「4人のアタッカーが常に1st tempoで助走に切り込んでくる」というチームを相手に、もう10年も戦い続けているわけです。同時多発位置差攻撃に対する効果的なブロック戦術が、いまだに開発されていない状況で、世界はどのようなディフェンス戦略を採用しているのか...?

これを読み解くことができれば、日本が再び世界と対等に戦える時代の到来に、間違いなく寄与するはずです。
 
 
その一方で、国内に目を向ければ、Vプレミアですら、いまだにまともに同時多発位置差攻撃のコンセプトを採り入れているチームが、数えるほどしかいない状況です。そのような状況では、同時多発位置差攻撃に対抗するためのディフェンス戦略が、生まれるはずもありません。いったい世界から何周、周回遅れになれば気が済むのでしょうか?
 
そうした危機感は、残念ながら今回の第22回大会では、バレー関係者から感じ取ることが全くできませんでした。
 
 
『2016 リオ五輪を総括し、2020 東京五輪を考える』というテーマを掲げていながら、シンポジウムで登壇した男女の新・強化委員長はお二方とも要約すれば「リオ五輪までは自分は外野にいたので、私にはよくわからない」という回答・・・就任した直後ならともかく、就任から既に3ヶ月ほどが経過しているのにも関わらず「わからない」のが事実なら、それはJVAという組織がやはり「なぜリオ五輪(ないしはOQT)で惨敗に終わったのかを総括していない」という事実を、正直に暴露してしまったということに他なりません。

さらには学会側も学会側。シンポジストがどんな回答を用意していようとも(結果的に用意していなかったとしても)、学会としての総括も、きちんと提示しなければ、そもそもシンポジウムとして成り立ちません。
 
バレー界が学ぶべき対象として呼ばれたサッカー協会の技術委員会指導者養成ダイレクターの山口隆文氏のプレゼン内容の充実具合と、何度も強調して仰っていた「世界のトップが今、どのようなサッカーをしているのか? を常に研究し、それに追随するために、各育成年代でどのような技術を習得させる必要があるのか? を考えている」「そのために、A級レベルの指導者の指導レベルを常にアップデートさせ続けなければならない、それが一番難しいことで、それにサッカー界は力を注いでいる」という言葉に、サッカーの素晴らしさとともに、バレーの置いて行かれてる感と、プレゼンでこれだけの違いを見せつけられても、危機感を覚えないバレー関係者の鈍感さに、怒りを通り越して、呆れるしかありませんでした。
 
 
唯一の救いが、元テレビ朝日アナウンサーの宮嶋泰子氏が、痛快なほど日本のバレー界を批判して下さったこと。

「まぁ、要するに皆さん(バレー関係者)は、サッカー界の方々がサッカーを愛しているほどには、バレーを愛してないってことですよね。」

仰るとおり!! 返す言葉もございません。
 
 
さぁ、学会も変わらなければなりません。本当にバレーボールが好きな人間でしか、変えていくことはできないんです。覚悟はいいですね?

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年6月19日 (日)

新しいテクノロジーがもたらす〝光と影〟(後編)

12471598_10153419974999007_81908524

photo by FIVB

(この記事は『バレーペディア編集室Facebookページ』に寄稿したものです。)


… こうして見てくると、FIVBが新システム導入を推進するのは、スコアラーの作業負担を減らすという「運営側の都合」だけが理由であるかのように、感じられるかもしれません。事実、新システムについてのマイナス面ばかりが取り沙汰された今回のOQTでしたが、そんな中で唯一、「タブレットが導入されていたから」こそ、早い段階で気づくことが可能となり、混乱を最小限に食い止めることができたシーンがありました。

それは、男子大会3日目の日本対ポーランド戦の第3セット、ポーランドが21-18でリードの場面で日本が取られた【ポジショナル・フォールト】です。


このシーンで日本が犯したミスの詳細については、下記ブログでわかりやすく図解されていますので、まずはそちらを参照下さい。

「2016OQTポーランド戦最後の混乱解説するよ」『Stay Foolish』より)


多くの報道を見るかぎり、「タブレット操作の義務化」ばかりに焦点が集まっているようですが、タブレットはベンチ以外に実は、主審や副審の視野に入る位置にも設置されています。

13336236_1801989860029294_207550374

《主審台に設置されているタブレット。左は副審側のポールに設置されているタブレット同様、両チームのラインナップが表示され、右は「チャレンジ」時の検証用映像などが表示されている。(photo by @ux3blust)》


これにより主審・副審は、両チームの正しいラインナップを常時、把握し続けることが可能になったのです。


問題のシーンの直前、コート・ポジション2の関田選手に替わって入った栗山選手がコート・ポジション4に入ったつもりでプレーしており、サイドアウト直後のレセプションの場面で日本は、コート・ポジション4の柳田選手とコート・ポジション2の栗山選手が、お互い(左右)逆に位置する形となって【ポジショナル・フォールト】を取られました。

もし今大会でタブレットが導入されていなければ、副審はリアル・タイムに日本の正しいラインナップを確認できず、反則に気づかない可能性があったと思います。仮にそのまま試合が進行した場合、日本がサイドアウトを取ると正しくは栗山選手がサーバーとなりますが、(間違えて)コート・ポジション2にいた柳田選手が恐らくサーブを打ち、そこで初めてスコアラーが【ローテーショナル・フォールト】に気づき、ブザーを鳴らして試合が中断していたでしょう。

そうなると、日本が「どのラリーから、ラインナップを間違えていたのか?」が問題となり、その時点にさかのぼって、以降に日本が獲得した得点は全て無効となる可能性が生じる(※5)ため、その確認作業に時間を要し、試合が長時間中断したまま、観客は「何が起きたのか?」詳細がわからずに、放置されていたであろう光景が目に浮かびます。


◎ FIVBが新システムを推進する〝真の目的〟

このシーンを整理すると、「e-Scoresheet」に表示された両チームの正しいラインナップを、タブレットを通じて副審が「リアル・タイムに共有できた」からこそ、早い段階で正しい判定が下され、混乱が最小限に食い止められた1例と言えます。

この例からわかるように、タブレットを使用する新システム導入のメリットは、目の前で繰り広げられている試合の〝根幹〟に関わる「正確な情報」が「リアル・タイムに共有できる」点にあるのです。


そうした観点でみれば、今回のOQTから「チャレンジ」がタブレット申請に変更されたのも頷けるはずです。

ワールド・カップ2015における「チャレンジ」の運用は、監督が副審に ①ハンド・シグナルで申請し、②口頭で「どの判定項目に対する『チャレンジ』なのか」を伝え、副審が聞き取った内容を ③インカムを通して主審やスコアラーに伝達する、という伝聞形式であったため、途中過程でコミュニケーション・エラーが生じる恐れがありました。

ベンチが意図した判定項目が副審に「正しく伝わり」、その内容が審判団の間で「リアル・タイムに共有できる」ことを可能にするべく、今大会から「判定項目も含めタブレットで申請する」運用に変更されたわけです。


ベンチと審判団同士の間でコミュニケーション・エラーが生じると、試合の中断時間が長くなり、ひいては、観客ならびに中継を見ている視聴者は「何が起きているのか?」わからないまま、放置されることになります。FIVBが、タブレット使用を前提とした新システムを推進する真の目的は、「コート上で繰り広げられている試合の〝根幹〟に関わる正確な情報を、観客や視聴者にリアル・タイムで提供すること」にあったと考えられるのです。

今大会で疑問の声が多く挙がった「ラリー中の『チャレンジ』容認」についても、ラリー中の「どのプレーに対する『チャレンジ』なのか」を、会場にいる誰もが瞬時に理解できるようにするには、ラリーが終了するまで待ってから申請するより、当該プレーが生じた直後(※6)に申請する方が理にかなっている、という判断が働いたものと考えられます。




◎ 新しいテクノロジーがもたらす〝光と影〟

そうしたFIVBの姿勢は、公式サイトで発信されている試合情報の内容からも伺えます。下記URLにあるとおり、単なる得点経過速報にとどまらず、各ラリーで「何が起きたのか、どういう判定が下されたのか」の情報までもが、リアル・タイムに発信されているのです。

http://worldoqt.japan.2016.men.fivb.com/en/schedule/7102-poland-japan/match#LiveStats

現状ではおそらく「e-Scoresheet」とは別に、主に技術集計に関わるデータを扱う「VIS(Volleyball Information System)」(白ペデ 104〜107ページ参照)と連動したもの、つまり手作業で打ち込まれたデータが発信されていると想像されますが、「VIS」が扱う情報自体「e-Scoresheet」と連携されれば(※7)入力の手間が省けるものも多いため、より正確な情報がよりスピーディーに発信されることが期待できます。

新しいテクノロジーの積極的な導入により「コート上で起こっている〝すべて〟の情報」をつまびらかにして、「バレーボール〝そのもの〟の魅力を、余すことなくファンに伝えよう」とするFIVBの姿勢(※8)が、「タブレット操作を義務化」する〝強硬手段〟として、今大会では前面に表れたのでしょう。


Getimageasmx

photo by FIVB



こうして整理していくと、今回のOQTで生じた問題の焦点が、決して「タブレット操作の義務化」にあるのではない、という真実が見えてきます。

本当の問題点は、新システムの「運用の仕方」にありました。


現行ルールに則った上で、タブレットにより簡略化・自動化できる部分を、従来のアナログ手法からタブレット操作へと変更すればよかったものを、「e-Scoresheet」というソフトの仕様に合わせて、ルールの運用を変更する形にしてしまったのが、そもそもの間違いだったのです。


「サブスティテューション」を例にとると、現行のルール・ブックでは、コートに入る選手が「交替する選手の背番号が書かれたプラカードを持って、サブスティテューション・ゾーンに整列する」だけで、交替を許可される【クイック・サブスティテューション】が適用されています。

これは、従来行われていた「監督が副審にハンド・シグナルを提示する」手順を省くことで、試合の時間短縮を意図したルールです。

20160613_213642


ところが今回のOQTでは、選手がサブスティテューション・ゾーンに整列しただけでは、交替が許可されませんでした。ベンチがタブレットを操作して、誰と誰を交替させるかを正しく入力し、そのデータが「e-Scoresheet」側で受信された時点でブザーが鳴って、交替が許可される運用になっていた(※9)ようです。

逆に言えば、タブレットを操作してブザーさえ鳴れば交替が許可されるため、その手順の後で、選手がサブスティテューション・ゾーンに整列しても構わないことになり、【クイック・サブスティテューション】のルールが〝有名無実化〟しました。作業効率の追求のために導入されたシステムが、その運用の仕方のせいで、かえって余計に時間を要しかねない事態を招いたのです。


さらに事態を複雑にしたのが、「ブザーの扱い」に関する変更です。本来ブザーには、試合を中断させる権限はありません(※10)。しかし、今大会では「ラリー中の『チャレンジ』が容認された」ため、「チャレンジ」申請が「e-Scoresheet」側で受信されてブザーが鳴ると、その時点で主審は、ラリーを止めざるを得なくなりました。

「ブザーの扱い」が180°変わったことで、ルールをよく知っているはずの関係者や、試合をしている当事者である選手やベンチ・スタッフまでもが、ラリー中断の理由がよく飲み込めず、女子大会4日目の日本対タイ戦における、あの大混乱の伏線になりました。


「事前に今大会ではこのようなシステムを導入すること、システムについての説明や、タブレット操作のトレーニングが必要であるならば名乗り出るように、と事前に配布した資料には記載したが、大会前に手を挙げたチームはなかった」と、FIVBは自身の正当性を主張しています(※11)が、混乱を招いた本当の要因が「システムそのもの」や「タブレットの操作方法」ではなく、事実上の【クイック・サブスティテューション】撤廃や「ブザーの扱い」に関する変更にあったという本質には、理解が及んでいないようです。


そして何より、問題がここまで大きくなったのは、FIVBがメディアやファンに向けてこうした情報を、事前に一切アナウンスしなかったことに尽きます。

「バレーボール〝そのもの〟の魅力を、余すことなくファンに伝えよう」という姿勢があるならなおさら、参加各国だけに通達するのではなく、メディアにも事前にきちんと公表し、ニュースとして積極的に採り上げてもらえるようアピールする努力を、怠ってはならないと思います。


◎ 「タブレット問題」で問われる、日本のバレー関係者の姿勢

こうした落ち度はFIVBだけでなく、審判団にもあると思います。「e-Scoresheet」自体は昨年から導入されており、無線LANの不調により柔軟な運用になっていただけで、今大会からは厳格な運用となるのは審判団には十分予想できたことでしょう。ワールド・カップ2015以降の、半年以上の時間的猶予を考えても、外部に情報発信するチャンスはいくらでもあったのではないでしょうか?

審判の任務は「ルールに則って公平で厳格な判定を行い、スムーズに試合を進行させる」ことですが、その任務を果たす目的は「試合の魅力を1人でも多くのファンに、わかりやすく伝えること」にあるはずです。任務を果たすこと自体が目的化していないか? ・・・ 審判団は自問自答すべきだと思います。


一方、タブレットが主審・副審にも見えるよう設置されているなら、そこに表示されている画面を、会場のコート・エンド両側にあるオーロラビジョンに表示することも可能なはずです。両チームのラインナップが大きく表示されていたなら、日本対ポーランド戦の問題のシーンでも、ルールをご存じの方ならすぐに事態を飲み込めたでしょうし、ルールをご存じない方のために、会場にはDJやジュリー(白ペデ 089ページ参照)がいるわけです。

会場観戦している大勢の観客が、目の前のコートで起こっている事態が飲み込めずに放置され、試合後にブログでの解説を読んで初めて納得する、という状況自体が、高価なチケット代を取って開催されるスポーツのあり方として、そもそもおかしいと気づかねばなりません。

試合進行に携わる審判団ならびに、会場運営に携わる協会スタッフやメディア関係者は、今回の「タブレット問題」を機に、FIVBが目指す方向性と自身のそれとのギャップに気づけるかどうか? が、まさに今、問われているのではないでしょうか。

(本記事の執筆にあたり、取材に快く協力下さった審判・VIS関係者の皆さまに、この場を借りて、厚く御礼申し上げます。)

_______


(※5)ワールド・カップ2007男子大会・日本対ブラジル戦の第4セットでは、日本が「7-2」とリードした段階でスコアラーが日本の【ローテーショナル・フォールト】に気づき、試合が長時間中断。日本のコートに、セット開始時から、スターティング・ラインナップ・シートに記載されていない選手が入っていたことが判明したため、日本の7点はすべて無効となり「0-3」から試合が再開された。

(※6)当該プレーが生じてから「5秒以内に」、「チャレンジ」を申請しなければならない

(※7)ワールド・カップ2015の段階では、「VIS」担当者はスコアラーから「スターティング・ラインナップ・シート」を受け取って、それを元に手入力で作業しており、「e-Scoresheet」との連携は行われていない

(※8)そうしたFIVBの目指す方向性が垣間見える1例として、試合中の全ラリーにおけるボールや選手の動きを、まるごとデータ化(トラッキング・データ)する試みが挙げられる。2014年の世界選手権では全試合でこのデータ化が試されたようで、男女の決勝戦についてはトラッキング・データがWEB上で一般公開されている

(※9)女子大会・日本対タイ戦での大事件を受けて、男子大会では柔軟な運用をする形へと変更された

(※10)従来のブザーは、①ベンチに設置され、タイムアウト等の申請をする際に鳴らすブザー、②スコアラーが【ローテーショナル・フォールト】等に気づいて鳴らすブザー、の2種類があり、②のみ、試合を中断させる権限を持っている。①と②のどちらが鳴っているのか、審判が瞬時に聞きわけられるよう、両者の音色は異なるものが採用されている。


(※11)「女子バレー五輪予選 最後まで全力で戦ったタイチームの涙」(田中 夕子)

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年6月11日 (土)

新しいテクノロジーがもたらす〝光と影〟(前編)

12471598_10153419974999007_81908524

photo by FIVB

(この記事は『バレーペディア編集室Facebookページ』に寄稿したものです。)



リオ五輪最終予選・兼アジア予選大会(以下、OQT)で物議を醸した「タブレット型端末(以下、タブレット)」。

「タイムアウト」や「チャレンジ」、「サブスティテューション(選手交替)」など、試合中に各チームが要求できる権利の行使にあたり、今大会では「タブレットを通じて」申請しない限り、監督が従来のハンド・シグナルを示しても許可されない旨の通達が、事前に各チームに行われていたようです。



こうした「タブレットありきの〝特別ルール〟」をきっかけに、女子大会4日目の日本対タイ戦の第5セット終盤で、タイのキャテポン監督が2枚のレッド・カードを出され、日本の大逆転勝利につながった事実は、日本の、いや世界のバレー史に永久に刻まれるのは、恐らく間違いないことでしょう。




この一件に際して、FIVB関係者は「リオでは、五輪で初めてこのシステムを導入します。後戻りすることはない」とコメントしている(※1)ようで、こうした発言からは、タブレット使用を前提とした新システムの導入をFIVBが、かなりゴリ押しで進めようとしている印象も否めません。



至近距離にいる副審にハンド・シグナルを示せば済むだけの、従来から長年行われてきた簡単な手続きを、わざわざタブレットを操作して行う面倒なシステムに変更する必要性が、いったいどこにあるのだろう? ・・・ 純粋にそういう疑問を抱いた方も多かったのではないでしょうか。





この歴史的大事件を、テレビで目の当たりにした私は、ふと気になって白ペデの 088〜089 ページを見返してみました。そこで、何ともお恥ずかしい限りなのですが、この見開き2ページの中に、本来なら最も肝心なはずのものがすっぽり抜け落ちているという、重大な不備に気づかされました。


P088p089




これが 088〜089 ページですが、今さらながらに気づかされた不備がいったい何なのか、おわかり頂けるでしょうか? プレー経験のない方には、かなり難しい質問かもしれません。プレー経験者の方はいかがでしょうか?







正解は ・・・ 【スコアラー(記録員)】への言及が、抜け落ちている点です。


 

【スコアラー】の存在自体を知らない方に、FIVBが推進する新システム導入の必要性や重要性を理解しろと言うのは、酷な話だと思います。


決してFIVBの肩を持つつもりはありませんが、バレーの試合において【スコアラー】が果たす役割がいかに重要なものであるか ・・・ その理解がもっと一般にも浸透していたならば、今回の一件がバレー・ファンに与えた印象は、もう少し違ったものになっていたような気がしてなりません。


そうした意味から、白ペデで不覚にも書き漏らしてしまった【スコアラー】の役割について、バレーペディア編集委員の立場から、この場を借りて補足解説させて頂きたいと思います。





◎ 人知れず、重要な役割を担っている【スコアラー】

皆さんもご存じのとおり、6人制バレーボールにおいては他のスポーツにはない【ローテーション】というルールが存在します。セット開始時は(リベロを除く)6人のスターティング・メンバーが、あらかじめ申告した「ラインナップ(Line-up)」どおりにコート上に並び、セット開始後は自チームが新たにサーブ権を得る毎に、ラインナップが時計回りに1つずつ「ローテーション」して、コート・ポジション1(図1)の位置に来た選手がサーブを打ちます。


Photo

≪コート上に6人が「ラインナップ」どおりに並んだ際に、各選手が位置する「ポジション(コート・ポジション)」を、上記の「数字」を用いて表現する≫


これは6人制バレーボールの根幹に関わるルールであり、厳守されねばなりません。 このルールに逆らって、コート・ポジション1以外の選手がサーブを打った場合は【ローテーショナル・フォールト】の反則が、ラリー開始時(=サーブが打たれた瞬間)にコート上の6人がラインナップどおりに並んでいない場合は【ポジショナル・フォールト】の反則が、それぞれ適用されます。

誰も意図的に逆らうつもりはないでしょうが、プレー経験のある方なら試合中、自チームの正しいラインナップが今どうなっているかがわからなくなるという経験をしたことは、一度や二度では決してないはずです。

ましてや、コート外から試合を眺めている第三者が、両チームの正しいラインナップを試合中に常時把握し続けるのは至難の業であり、それは主審・副審であっても然りです(※2)。では、このバレーボールの根幹に関わる【ローテーション】のルールが、試合中に正しく守られているかどうかを、誰が監視しているのでしょうか?



もうおわかりですね。そうです、この監視の役割を実質的に果たしているのが【スコアラー】なのです。

どんなカテゴリの試合であろうと、どんな小さな規模の大会であろうと、それが公式戦である限りは、【スコアラー】を担当する第三者が必要となります。「IF(アイ・エフ: International Formの略)」と呼ばれる、【スコアラー】が記入する記録用紙は、その試合が「正しい【ローテーション】のルールに則って執り行われた」ことを示す「証拠書類」であると同時に、その試合の唯一無二の「公式記録」となります。



13396578_1806593949568885_935316825

≪副審側のコート・サイドに陣取る【スコアラー】。主審に見えるように掲示している得点板こそが、その試合の「正式な」得点経過として扱われるもので、会場の電光掲示版での得点表示は正式なものとして扱われない。(photo by @ux3blust)≫



他にも、1セットあたり6回まで認められる「サブスティテューション」では、一度ベンチに下がった選手がコートに戻る場合、その選手と交替してコートに入った選手とのみ、交替が許可されますが、このルールがきちんと守られているかどうかを確認するのも、【スコアラー】の役割です。

リベロ制導入以降、1ラリー毎にリベロが後衛選手と頻繁に入れ替わりますが、それもすべて逐一チェックするのも【スコアラー】の任務です。


このように、【スコアラー】が担う役割というのは「ついうっかり、誌面で書き漏らしました」では済まされないくらいに、極めて重大な任務であるだけでなく、大変労力を要する仕事なのです。



◎ タブレットありきの〝特別ルール〟が採用されるまでの経緯

【スコアラー】に関してご理解頂いたところで、ここからが本題です。

私も実は知らなかったのですが、2012年の白ペデ発刊以降に起こった出来事として、【スコアラー】が記入する「IF」がFIVB主催の国際大会に限り(※3)、デジタル化されていたようです。

「Data Volley」で有名な、イタリアのDataProject社が開発した「e-Scoresheet」というWindowsソフトが、昨年ヨーロッパで開催された国際大会で試験的に導入され、日本で開催されたワールド・カップ2015でも正式に導入されていた事実が、関係者への取材で明らかとなりました。

メディアから情報が発信されることはほぼ皆無でしたが、昨年のワールド・カップで既に、タブレットは会場内に設置されていたのです。

操作に慣れる必要はあるとは言え、煩雑な作業が要求される【スコアラー】にとって、手書き入力がデジタル入力になるだけでも、作業負担はかなり軽減されます。たとえば、リベロの後衛選手との入れ替わりなどは自動入力が可能になり、手間が随分と省けます。

セット開始時のラインナップについても、従来どおり紙ベースで「スターティング・ラインナップ・シート(通称「目玉」)」を提出しますが、同時にタブレットを通じて入力することが義務づけられており、入力されたデータは「e-Scoresheet」の画面上に、ダイレクトに反映されます。


ここまで説明すれば、タブレットによる入力が「サブスティテューション」において、非常に大きな効果を発揮することは容易にご想像頂けるでしょう。もちろん、目視による確認が【スコアラー】の大切な作業として残りますが、入力ミスは理論的にゼロにすることが可能です。

「IF」をデジタル化させるにあたり、作業効率や正確性の追求する意味で、タブレット入力を導入するのは、必然の流れと言えるでしょう。




タブレット自体は設置されていたにも関わらず、この目新しいシステム導入の件がメディアで採り上げられなかった理由は、タブレットを使用しても構わない一方で、従来どおりのハンド・シグナルでの運用も認められていたからです。

「タブレット」と「【スコアラー】が入力するパソコン」との通信を、無線LANで試みたところエラーが頻発したため、従来どおりの運用も許可せざるを得なかったというのが、事の真相でした。

ハンド・シグナルで「チャレンジ」の申請が許可される(※4)シーンが、テレビ中継で頻繁に映し出されたこともあり、タブレット使用を前提とした新システムが導入されたことなど、メディア関係者ですら、知る由もなかったかもしれません。

通信エラーが頻発したワールド・カップ2015での反省を踏まえ、今回のOQTでは「タブレット」と「【スコアラー】が入力するパソコン」を有線接続することで万全を期し、ハンド・シグナルは許可しない「タブレットありきの〝特別ルール〟」が、本格導入されるに至ったという経緯でした。





こうして見てくると、FIVBが新システム導入を推進するのは、スコアラーの作業負担を減らすという「運営側の都合」だけが理由であるかのように、感じられるかもしれません。事実、新システムについてのマイナス面ばかりが取り沙汰された今回のOQTでしたが、そんな中で唯一「タブレットが導入されていたから」こそ、早い段階で気づくことが可能となり、混乱を最小限に食い止めることができたシーンがありました。

(後編につづく)



_______



(※1)「バレーの新システムはなぜ“今”か? タブレットとチャレンジの問題点。」(米虫紀子『Number Web』より)

(※2)ルール運用上は、主審がサーブ側チームのラインナップを、副審がレセプション側チームのラインナップを監視することになっているが、過去には主審・副審がそれを見逃してしまい、試合が進行してからその事実が判明して大混乱に陥ったケースが、国際大会(ワールド・カップ2007男子大会・日本対ブラジル戦)や国内トップ・カテゴリの大会(2009年の第58回黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会・女子準決勝の久光製薬スプリングス対NECレッドロケッツ戦)でも、実際に生じている

(※3)Vリーグ含め日本の国内大会においては、2016年6月時点で『e-Scoresheet』は導入されていない

(※4)ワールド・カップ2015では、タブレットで申請できる項目に「チャレンジ」自体が、含まれていなかった

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年4月29日 (金)

【動画で解説】『本当に〝速いトス〟は必要なのか?』

3月19・20日に明治学院大・白金キャンパスにて開催された、日本バレーボール学会 第21回大会にて行った、ポスター発表の内容が、YouTube動画で公開されました。

ある意味、当ブログで "スピード" ではなく "テンポ" と題して、日本のバレー界に問題提起し続けてきた、その内容の集大成ならびに、その理論背景を「データで検証する」したもの、ということが言えるかと思います。

大昔から、当ブログを飽きもせずに読み続けてくださった皆さんに、感謝の意を込めて、お届けしたいと思います。

下記より、是非ご覧下さい!!

https://www.youtube.com/watch?v=1jA2fi8QuTg

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2016年3月12日 (土)

「本当に〝速いトス〟は必要なのか?」

3月19・20日に明治学院大・白金キャンパスにて開催される、日本バレーボール学会 第21回大会にて、ポスター発表を行います。

是非、見に来て下さい!! 

よろしくお願い申し上げます。

http://jsvr.org/information/forAll/entry-8915.html

(プログラム) http://jsvr.org/archives/001/201603/56e5753f10aed.pdf

01

02

03

04

| | コメント (0) | トラックバック (0)

2015年3月 5日 (木)

JVAのゴールドプランに対する私見(その2)

(前回に引き続き、昨年夏に開催された、日本バレーボール学会主催・2014バレーボールミーティング「一貫指導から求めるジュニア〜ユース世代の育成」の中で展開された、基調講演に対して感じた個人メモより)


「基本技術の統一化」について

 指導者1人1人、何を「基本」と考えるかがまるで違っているがゆえに、JVAが今やろうとしている「基本技術の統一化」なるものは、結局のところ、日本中の指導者の考えの "最大公約数" を「基本技術」として定めようとしているに過ぎない。

 そもそもなぜ「技術」を統一化する必要があるのか? ・・・ そうすれば「一貫指導」が達成できると考えている節があるが、(何度も書いているように)世界の戦術は10年も経てばガラッと変わるほどに変遷の歴史を辿っている。基本技術を統一化させれば、戦術の固定化をまねき、コートの向こう側に関心を持たないジブンタチノバレーに終始する結果に陥るだけだ。

 選手がバレーボールそのものを好きになれずに燃えつきてしまったり、見る側にバレーの魅力がうまく伝わらずに普及が進まないないのは、バレーボールが「対戦型スポーツである」という、そもそもの大前提を、日本のバレー関係者が忘れ去っているからである。

 ある方が去年、国際試合の会場練習を見て驚いていたこと。

「セルビア・ナショナル・チームの女子選手たちは、ペッパー(対人パス)がほんの2〜3回しか続かないのに、試合になると日本より強い。」

 この事実が雄弁に物語るように、「ボールをコントロールする」技術をいくら磨いてもそれは自己満足に過ぎず、「対戦型スポーツ」における目的である「相手に勝つ」ことに繋がるとは限らない。ボールを思うようにコントロールできない初心者段階から、本来の目的を味わうことができて初めて、選手はバレーの魅力を感じ取ることができるのだ。

 何が "基本" なのか? ・・・ その答えは「相手に勝つという目的を達成するために、必要となるコンセプトや戦術的思考力」であって、それは今すぐにでも日本全国の指導者同士で、共有することは不可能ではないはずである。そうしたコンセプトや戦術的思考力さえ、初心者段階から指導を受ければ、あとはその目的のために必要な技術は、選手自身が試行錯誤すればいい。そのように指導された選手なら、必然的に生じる新たな戦術の変遷にも、きちんと対応していける能力を、上位カテゴリに進めば自然に身につけているはずである。

 もう1点、「戦術的思考」抜きで基本技術を考えようとする弊害は、ボールに触れる選手以外の、コート上の5人の選手のいわゆる「オフ・ザ・ボール」のプレーが、議論に一切挙がってこない点にある。今、日本のバレーが世界から大きく引き離されているのは、この「オフ・ザ・ボール」のプレーである。

(質問時間を途中で遮られたので、講演中にメモしていた内容をまとめて書いてみた。その2。)

 とりあえず疲れたので、まとまりないがこの辺で。

 ともかく、「円陣パスでもしていれば、小学生はバレーを好きになってくれる」なんていう、そんなお花畑な思考では、指導も普及もできません!!

| | コメント (1) | トラックバック (0)

2015年2月26日 (木)

JVAのゴールドプランに対する私見(その1)

(昨年夏に開催された、日本バレーボール学会主催・2014バレーボールミーティング「一貫指導から求めるジュニア〜ユース世代の育成」の中で展開された、基調講演に対して感じた個人メモより)







 JVAにおける「一貫指導」が、紆余曲折があった(らしい)にせよ、結局「発掘育成」という言葉にすり替わってしまったところからわかるとおり、実質的には、早い段階から資質のある人材を「囲い込み」、1つの場所に集めて特定の指導者が継続的に指導していく、もしくは、指導者が替わるとしても、同じやり方(ポジション等)を押しつけて育成し、最終的に10年後の全日本を託せる人材にしよう、というだけのプランに過ぎない。





 そうした強化策は、明文化されていなくても、ほぼ同じような方向性でこれまでも行われてきたはずで、現実には、その数少ない有望な人材が途中で燃え尽きたり、怪我でプレーを続けることができなくなったりして、プラン自体が挫折するという歴史を繰り返してきたからこそ、今の日本のバレー界の惨状があるのだ。





 そもそも、同じ指導者が継続的に「10年後を見据えて」指導・育成をするとは言っても、過去の世界トップ・レベルのバレーの歴史を振り返れば、10年も経てば戦術はガラッと変わってしまう。つまり、そうした戦術を達成するために必要な技術など、あたりまえのように変わってきているわけだが、今の日本の指導者の現状のように、外部からの意見に耳を貸そうとしない体質から鑑みるに、特定の指導者が、日々変化していくトップ・レベルの戦術変遷に逐一対応して、自身の指導を変えていくことなどあり得ない。





 そうした強化策が「閉鎖空間で」行われているがゆえに、そこから漏れた人間は疎外感を感じ、将来の全日本スター選手に対して愛着を持てない結果に繋がる。一方、育成された選手自身も、現状の指導体制の下では残念ながら「バレーボールそのものを好きになる」ことはできず、そういう選手には魅力を感じられないがゆえに、バレー・ファンは全日本から離れて行ってしまった。





 現在、日本でバレーボール人気がないマイナー・スポーツとなっているのは、これが大きな要因である。名もなき底辺カテゴリのプレーヤーであっても、プレー経験のない観戦ファンであっても、「自分は日本のバレーボールを支える一員なんだ」と思える環境を作らない限り、バレー人気が一過性のブームではなく、きちんと根づくことなど永久にあり得ないのだ。



| | コメント (2) | トラックバック (0)

«『バレーペディア』復刊リクエストをお願いします!!